( ΦωΦ )#5 料理できる猫
それから数日後。
休日の昼。
ソファで猫姿のルナを撫でながら、美琴はぼんやりテレビを見ていた。
すると突然、腕の中が光る。
「え、また!?」
次の瞬間、ぐい、と腰を抱かれた。
「……ん」
低い声。
気づけば、美琴は人間姿のルナにソファへ押し倒されていた。
「ル、ルナ!?」
人間姿に戻った。
しかも至近距離で。
黒髪が頬に落ちる。
ルナはまだ少しぼんやりした顔のまま、美琴へ擦り寄った。
「みこと」
「ちょ、近……!」
「猫の時キスしたら、めちゃくちゃ赤くなってたね」
「覚えてるの!?」
「うん」
最悪だった。
「全部覚えてるよ」
ルナは楽しそうに目を細める。
完全に味をしめている。
「かわいかった」
「忘れて!!」
逃げようとした瞬間、腰を引き寄せられる。
「逃げないで」
耳元で囁かれて、美琴の心臓が跳ねた。
ルナはじっと美琴を見る。
青い目が近い。
猫の時と同じ色なのに、今は破壊力が違う。
「……人間の方でもする?」
「はぁ!?」
「キス」
美琴の顔が一気に熱くなる。
ルナはそんな反応を見て、目を細めて笑う
「やっぱみこと、俺のこと意識してる」
「してない!」
「じゃあして」
「うるさい!」
するとルナは少しだけ嬉しそうに目を細めた。
美琴の頭を優しく撫でると、ビクッと反応してしまう美琴。
「……もっと意識して?」
その言い方が甘すぎて。
美琴はしばらく顔を上げられなかった。
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それからルナは、なぜか料理を始めた。
最初は、本当にひどかった。
元が猫だから仕方ないのだが。
野菜は切れない、火加減は分からない、味見した結果「しょっぱい」とだけ言う。
余談だが、猫だからか猫舌のルナは、味見までにすごい長い時間冷ましていた。そのために、忘れ去られた品があったのはルナだけの秘密だ。
「ルナ、これ食べ物として成立してない」
「……でも焼けた」
「焼けただけ!」
美琴がため息をつく横で、ルナはじっとレシピ本を見ていた。文字は読めていない。が、イラストや写真付きのものなら理解はできるらしい。
猫の時みたいに、分からないことを目で追って、首を傾げる。
それが妙に真面目で、美琴は少しだけ黙る。
「……やる気あるんだ」
「ある」
「なんで急に」
ルナは少しだけ視線を逸らした。
「みこと、よくカップラーメンとか食べてるから」
「え」
「ちゃんと栄養のあるもの食べさせたい」
それが不器用なくらい真っ直ぐで、美琴は言葉に詰まった。
「俺、なんも出来ないから。なにかできること考えたらこれくらいしか思いつかなかった」
その言葉に心を打たれた美琴は呼ばれる度、料理を教えに行くのだった。
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それから毎日、ルナは少しずつ上手くなっていった。
卵焼きはふわふわになり、スープはちょうどいい味になり、ついには美琴の好みの味を追求するようになっていた。
「……おいしい」
そう言うと、ルナはふっと目を細める。
猫の時と同じ、嬉しい顔だった。
「でしょ」
「すごい」
「みことのためなら頑張れる」
さらっと言う。
しかも、本人は自覚がない。
ある日の夕飯。
ルナは美琴の前に皿を置くと、当然みたいな顔で美琴の前に座った。
「あーん」
「は?」
「食べて」
「自分で食べれるけど?」
「や」
即答。
ルナは少しだけ身を乗り出して、スプーンを美琴の口元に持ってくる。
「いや、ちょっと待っ」
「いいから食べて」
押し切られるように一口食べると、美琴は目を丸くした。
「……おいひい」
その瞬間、ルナの顔がゆるむ。
「よかった」
そして次の瞬間には、もう一口差し出してきた。
「待って、今度は自分で食べるから」
「だめ」
「なんで!!」
「食べさせたいの」
美琴が照れて顔をそらすと、ルナは少しだけ笑った。
「みこと、かわいい」
さらに赤くなる美琴を見て、笑うルナ。
ルナはスプーンを構えたまま、また美琴を見ている。
「みこと、あーん」
つまり、、逃げ場がない。
「……一口だけだからね」
「うん」
「ほんとに一口」
「うん」
しかし、一口食べさせたあとも、当然のように、次、次、と来る。
「ちょっと待って、私は自分で食べられるってば」
「みことに食べさせるの好きだから、や」
あっさり言われて、美琴は固まった。
ルナは平然としたまま、今度は温かいスープを差し出す。
「熱いから気をつけてね」
「過保護!私はルナと違って猫舌じゃないし!」
そんなやり取りの中思う。
ルナは、猫みたいに甘えて、でも今はちゃんと手を使って、美琴にご飯を作ろうとしてくれている。
美琴は少しだけ俯く。
「……優しすぎるよ」
「なにが」
「そういうところ」
ルナはきょとんとして、それから少しだけ困った顔をした。
「嫌だった?」
「嫌なわけないけど……」
「ならいい」
そしてまた一口、今度は少しだけ丁寧に差し出してくる。
「……食べて」
美琴は観念して、それを口にした。
やっぱりおいしい。
悔しいくらいおいしい。
もぐもぐ頬張る美琴の隣で、ルナはそれ以上に嬉しそうだった。
「よし」
「なにその満足げな顔」
「だって、俺の作った物を好きな人が食べて笑顔になってるんだよ?満足しないことある?」
その一言で、美琴の顔が一気に熱くなる。
ルナはそんな反応を見て、少しだけ笑った。
ルナのその笑顔が小悪魔のようだと思った美琴が間違ってないと分かるのは、もう少ししてからだった。
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