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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
志保√ それでも好きだから。

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どす黒い感情。

 次の日、学校が始まる日。始業式だ。

 いつもなら雪が降る頃だが、今年は本当に大人しい。歩きやすいから良いのだが。

 学校は午前で終わる。こんなことのためにわざわざ呼び出されて退屈な長話を聞かされるのかと思うとげんなりとしてしまう。


「やぁ、九重君。冬休みは如何だったかな?」

「普通。何の変哲もない冬休みだったよ」


 という以外に、どんな説明ができるんだ。俺は。


「僕もだよ。初詣は行ったかい?」

「連れてかれた」

「僕もだね。呼び出されたよ。部の学年代表というのも、楽ではないね」


 クイっと眼鏡を直して、苦笑い。

 いや、都合悪いとでも言っておけば良かっただろ。と思うが、そうもいかないのか、代表って奴は。

 俺には向いていないな。


「さて、これからご予定は?」

「帰ってひと眠り」

「それは大事な用事だな。ではでは」


 意味深な笑みを浮かべて、霧島は鞄を担いで教室を出て行く。

 よくわからん奴だな。




 「ねぇ待って。結愛さん。専門家って?」

「こういうの、男子の意見もいると思いますし」

「だからって、ねぇ」


 喫茶店の個室。先ほどから抗議の声を上げているのは専門家その一。久遠奏さん。

 彼女が気まずそう見つめる視線の先にいるのは、専門家その二。史郎先輩唯一の男性の友達と言える存在、霧島恭也さん。


「いざという時は私がいますし、そもそも監視が付いてますし。常に」

「鬱陶しいよねぇ」


 霧島さんは困ったように笑う。


「それだけのことをしでかした、ということです」

「それは良いけど。さて。わざわざ僕を呼び出したんだ。どんな話だい?」

「史郎先輩の話です」

「へぇ、興味深い」


 霧島さんはキラリと目を光らせ、前のめりになる。

 積極的に意見を出してくれそうで良い姿勢だ。


「史郎先輩を所謂思春期男子らしい、ケダモノに目覚めさせるにはどうしたら良いのですか? ということです」

「……それは、僕に聞いているのかい?」

「そうですよ」


 霧島さんはやれやれと言わんばかりにため息を吐いて頭を抱える。


「残念ながら、僕に恋愛は無理だ。興味がない」

「と、言う人ほど、興味があるという説がありますよ」

「ほう。僕が色恋にうつつ抜かしていると?」

「えぇ。誰ですか? 奈良崎さんとは随分トラブっていたようですが?」

「ははは。大人しくなったもんだよ」


 さて。私、久遠奏は気づきました。

 何だか随分と楽しそうではないかと。

 霧島君、結愛ちゃんと話すの、随分と楽しそうではないか。


「まぁ良い。さて、九重君をどうしたものか。という話だな。……とりあえず、九重君の君たちが知っている情報を、聞かせてもらおうか」


 さて、見せてもらおうか。

 特務分室が次に目を付けている、頭脳を。





 「しーろうっ」

「あぁ、志保か。どうした?」


 放課後、鞄を担いで教室を出ると、志保が何やら慌てた様子で教室から出てきた。

 家に帰って勉強しよう、そんな思考を断ち切る声。それは、何かを提案する時の、ワクワクを隠しきれていない志保の声だった。


「今日さ、お泊りに行っても、良いかな?」


 ……ん?


「お泊り?」

「そう、お泊り」

「それは、良いの、だが」

「だが?」

「……いや、何でもない。何時ごろだ?」


 志保のきょとんとした首傾げと笑顔のコンボは、俺の言い訳の気勢を削ぐ、無力化するのには十分な力を持っていた。


「一回帰ってからだから、すぐだよ」

「わかった。送ってく。一緒に行こう」

「うん。あっ、ちょっと待って、職員室にも寄るから」

「わかった。待ってる」

「うん。また後で―」


 志保はそう言いながら駆け足で廊下を行く。


「おい」


 志保が行ってすぐ、すぐにそう声をかけられる。 

 振り返ると、筋骨隆々と言うべきか。

 鍛えすぎて逆に邪魔になってそうな、そんな奴がいた。


「なんだ?」

「お前、付き合ってんだろ。朝倉志保と」

「……だったら、どうした」

「ツラ貸せや。こっち来い」


 肩を掴んでくる手。なるほど、筋肉は飾りでは無いか。俺よりも背が高い。190はありそうだ。

 ため息を吐く。でも、それだけだ。抵抗される可能性なんて、欠片も考えていない。隙だらけだ。


「一年坊主がよぉ。うぐっ」


 苦し気な呻き声、硬い筋肉の感触を指先に感じながら、俺は笑みを作った。


「どうかしましたか? お腹でも?」

「て、てめぇ」


 堪えるか。手加減はしたし、廊下を気まずそうに歩き去る人達に見えないようにしたからか。手刀を真っ直ぐに鳩尾に、突き刺した。鍛え抜かれた筋肉。なるほど、硬いな。

 腹にめり込んだ手から逃れるべく、肩から手を離し、少しずつ、後退りして、そこで崩れ落ちる。

 あぁ、面倒だ。この手の奴らは、抵抗されたら抵抗してきた方が悪いと主張するような奴らだ。殴るのに殴られる覚悟を、していないんだ。

 そして、志保狙いの男だ。こんな脳筋には、預けられない。

 あぁ、景色から色彩が無くなっていく。


「まだ何か」


 どす黒い何かが、胸の中を満たしていく。


「立って話せよ」


 胸倉を掴んで立ち上がらせる。それでも腹を抑え、苦しげだ。弱い。

 志保狙いの男はこれまでもいた。中学時代、ナンパにデートを邪魔されたことだってある。

 そのイラつきを、思い出した。


「何呻いてんだ。真っ直ぐ立て」


 景色が、暗い。

 ムカつく。とても。

 志保に、手を出させるか。

 ここで、完膚なきまでに、叩き潰して、心を折る。


「史郎さん。ストップです。そこまでです」

「結愛。邪魔するな」


「……相手をちゃんと観察する先輩が、随分と。相手の感情の揺れまで観察するのが戦闘のコツだと言ったのは、先輩ですよ。もう何もかもへし折られているようにお見受けします」


「そうだね。九重君。ここまでだよ。先生に誤魔化せる範囲、あと一歩で越える。予定外のことで仕方ないと観察していたが、君もなかなか感情的になるではないか。君たち、もう帰っても良いよ。用事はこの人が終わらせてしまった」


「はい、霧島さん」


 ドタドタと足音。三人分くらい聞こえた。

 何故か、結愛の隣に霧島がいた。何が予定外だ。

 手を誰かに捕まれた。その持ち主を、見た。


「史郎、帰ろっ」

「あ、あぁ」


 景色の色が、戻った。 


「ここは任せてよ。史郎君。上手く治めておくから」

「奏……」

「また明日ね、志保さん」

「うん。ありがとう、奏ちゃん」


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