6、保健室
6、
気がつくと、保健室にいた。連日の寝不足のせいか、グッスリと寝られた。起き上がって辺りを見回すと、ベッドの周りは淡い水色のカーテンで囲まれていた。
そのカーテンの向こうから声が聞こえた。
「あ、ダメよ。枝本君……」
え…………?保健の先生?
「いいだろ?芳子、少しくらい」
保健室の先生と……生徒会長!?まさか、そうゆう関係!?えぇええええええ!!
「1年生が勘違いするから」
「え……?」
保健室の先生がカーテンを開けると、生徒会長はだらけた座り方で椅子に座って煙草を咥えていた。
「だから枝本君ここ禁煙。新川さん大丈夫?」
「はぁ……」
生徒会長は舌打ちをして煙草を胸ポケットにしまった。
「いいじゃん少しぐらい。吸える所少ねぇんだから」
「はぁ?病室で吸うなんて非常識よ」
確かに。ここで吸われたら嫌だなぁ……
「それに、今時世の中どこもこんなもんよ?そもそも定時制でもないのに喫煙所がある高校なんてなかなか無いわよ?」
確かに。うちの学校には中庭に喫煙所がある。多くの生徒が堂々と煙草を吸っている姿に、何の違和感も感じて無かった。まぁ、生徒会長は20歳だから問題は無いんだろうけど……
「あの……バドミントン部の皆さんは?」
「彼らならあなたを置いて帰ったわよ?」
帰った……そりゃそうだよね。当然入部試験は不合格。
「そっか……入部試験……不合格か……」
「入部試験?」
何だか不甲斐ない自分に泣きそうになった。
「生徒会長が帰るまで意識を保っていられれば合格だったんですけど……」
生徒会長はここにいて、私は今の今まで意識を失っていた。これは確実に不合格。
「それはなかなか厳しい入部試験ね。枝本君のせいなんだから何とかしてあげたら?私、そろそろ帰るけど、新川さんはまだここにいる?」
「あ、大丈夫です。すぐ帰ります」
私がよろけながら慌てて保健室を出ると、生徒会長が後からついてきた。なんでだろう?怖いからついて来ないで欲しいんだけど……
すると、生徒会長は私の前に周り込むと、目の前に立ちはだかった。
「お前、俺と付き合え」
「はぁ?」
「騙されてやるから、付き合え」
はぁ?騙されてやる……?
「心配するな。ちゃんと女って事にしといてやるから」
ちゃんと女?生徒会長の放った言葉の意味が全然理解できない。
「女装してまでバドミントン部に入りたかったんだろ?お前物好きだな」
「いえ、それは……」
「その意気込みに免じて、俺の彼女と言う立場で殲滅委員会に入れてやる」
はぁ?違う!違う!
「あの、害虫殲滅委員会に入りたい訳じゃなくて……」
「バドミントン部だろ?害虫殲滅委員でいればバドミントンもできるんだろ?」
「それは……」
確かにそうだけど……
「ああ、いい忘れてたけど俺、虫と同じくらい女が嫌いなんだよ」
ひぃいいいいいい!!それって、女ってバレたら殺されるんじゃ!?
でも、男のふりして女装男子を装えばバドミントン部に入れる!?
「あの、付き合うのは少しハードルが高いのでお友達から……」
勇気を振り絞って、それだけは伝えた。
「ダメだ。付き合え」
お友達からという提案は即却下された。
「付き合えるよな?」
生徒会長はそう言って睨みを利かせた。
ひぃいいいい!!殺される!私に拒否権は無い!?
「お前、名前は?」
「し……」
ここで本名を言っていいのか迷った。でも、いずれバレる。
「し?」
「し……新川です……」
「新川か!よろしくな!」
そう言って生徒会長は私と無理やり握手をした。付き合うってマジなの?それ真面目な話?それとも冗談?
虫が絡まなきゃいい人そう。なんて事はこの状況では思えなかった。マジで目付きが怖い……。
よくみたら高身長にそこそこイケメンなのに、この顔であの凄み……神様、どうしてこの人をヤンキーにしたんでしょうか?
「お前体小っせ~な~両親ミニマムか?」
「いえ、普通だと思います」
「ちゃんと食えよ!」
そして……どうして私は高確率で女装男子に見られるのでしょうか?
「よし!これからラーメン食いに行くか!」
「いえ、そろそろ寮の夕食の時間が……」
「お前も寮か!俺も寮なんだ!いや、でも……お前寮で会った事いな?」
何の疑問も持たず話が進むと思ったのに、意外な所に気がついた。そう、女子寮は当然男子寮とは別棟にある。
「それは……棟が違うので……」
「あ~!お前普通科か!俺は工学科だから」
全然バレ無いし!どうして!?今の話の流れではバレるよね?普通バレるよね?
「わかったわかった!体がでかくなったら女子に見えなくなると思って制限してるんだろ?」
「いや、そうゆう訳じゃ……」
「大丈夫だ!もう少しでかくなってもちゃんと女に見えるから!」
ははははははははは…………………………
って笑えない!!!!!!!!!!
ちゃんと女に見えるって何?それって内心全然男に見えてるって話だよね?
「まぁ、でも俺は女装の理由は訊かない。そうゆう趣味の奴もいるって聞いたことあるし。俺はお前を変態だとは思わない!」
清々しい笑顔が妙に憎らしく思える。普通、変態だと思わないより本物の女だと思わない?
「むしろ自分を貫いていてカッコイイな!」
そこまで言われると、逆に女でいる事が恥ずかしくなってくる。なんか……女ですみません。
「あの……どうして私なんでしょうか?」
「野郎は嫌だし、女も嫌いだから。ちょうどいい奴を探してたんだよ」
ちょうどいい?どこが?どこがちょうどいいの?理解不能なんですけど?
「虫除けだよ。虫除け」
「虫除け?」
するとそこへ、小柄で女顔の可愛らしい男子が目の前に現れた。なんか、ずっと廊下の後ろの方からついて来るなとは思ってたけど……
「邦ちゃん!!僕と言うものがありながら、僕の他に彼氏を作るなんて!!」
うっわっ!女々しいな!男子なのにめちゃくちゃ女々しいな!
「彼氏じゃねーし。彼女だし」
「彼女!?どこからどうみても男じゃないか!僕の方がずっと可愛いよ!」
ちょっと待てー!どこからどうみても?どうみても男?それはちょっと待って?
「うぜぇ……俺、今はこいつと付き合ってるから。な、俺には虫がつくんだよ」
生徒会長はそう言うと、乙女男子から逃げるように去って行った。
「待ってよ邦ちゃん!」
知らなかった……生徒会長って男が好きだったんだ……!




