28、幽霊
28
暗い廊下を進むと、食堂の奥に医務室と書かれた部屋があった。この辺はあまり人の気配がしない。ここなら安心して一晩過ごせそう。
そのドアを開けると、暗い部屋に入った。すぐに枝本さんが電気をつけてくれた。
明かりのついた部屋には、ベッドの周りのあちこちに荷物が置かれていた。どうやらあまり使われていないようで、何だか埃っぽかった。それでもひとまずベッドに腰を下ろして落ち着いた。
「枝本さん、ありがとうございました。これで一安心です」
「鍵、忘れずにかけろよ」
そう言って枝本さんは医務室から出て行った。
外は嵐で、雷まで鳴っていた。私は急にトイレに行きたくなって、身を小さくして近くのトイレに行った。
電気がつかない!?人気の無いトイレは怖い……怖いけど、尿意には勝てない。
廊下の薄明かりを頼りにすぐに用を足して、急いで明るい医務室に戻った。しばらくすると、人の声が聞こえて来た。
「トイレに誰かいたか?」
「いや、医務室の電気がついてる。いるのはこっちかも」
ひぃいいいいい!!バレる!!
私はとっさに電気を消して、フードを被りベッドと段ボールの間に身を潜めた。カーテンの隙間から雷の光が漏れて、たまに私の姿を照らした。
しまった!鍵をかける暇が無かった!
ドアが空くと、バリバリバリー!っと雷の大きな音がした。
「近くに落ちたか?」
「なんだ、誰もいねーじゃん。ま、いるわけねーよな」
二人の生徒がドアを開けたまま部屋の中を伺っていた。薄暗い廊下の光が部屋の入り口を照らしていた。
「あれ?電気どこだっけ?」
「もういいだろ。行こうぜ」
良かった。バレずに出て行ってくれそう。そう安心した瞬間、埃を吸ったせいか喘息の発作が出た。
「ゴホッ」
思わず咳をしてしまった。
「今、なんか音しなかったか?」
「はぁ?おい、やめろよ。それでビビらせてるつもりかよ」
まずい……息がヒューヒュー音がして来た。
「おいおい、何だよ。変な音出して脅かすなよ」
「いや、俺何も音出して無いって」
二人の生徒は医務室の入り口で耳を済ませた。
雷の音の合間に、雨の降る音共にかすかに私の息の音が響いた。
「はぁ……ヒュー……ゼー……はぁ……ヒュー……ゼー」
しばらくその音を聞いた二人は、ガタガタと震え始めた。
「ギャーーーーーーー!!」
悲鳴をあげて二人はドアを開けたまま逃げ出した。
私はベッドと段ボールの間から這いつくばってドアを閉めに行った。
息が苦しくて動くのもしんどい……。
そこへ2人の生徒がもう1人を連れて戻って来た。
「はぁ?そんな訳ねーだろ?お前ら何か勘違いしたんじゃねーの?医務室に幽霊なんて………………」
あ………………。
たまたま私はドアに向かって正座をしたまま苦しさに身を抱えていた。
「ギャーーーーーーーーー!!いた!マジだ!マジでいた!!」
もう1人は勢いよくドアを閉めた。チャンス!鍵!!私はとっさに鍵をかけた。
「あれ?開かない……うわぁーーーーー!」
あーあ。私、幽霊と完全に間違われた。
いつの間にか雷の音は止んでいた。でも、雨はまだかなり降っていた。私はしばらく1人で暗い部屋で雨が窓に当たる音を聞いた。
苦しい……。薬……は当然部屋だし……
本来ならこんな所に1人でいるのは、私の方が怖いはず。なのに、発作でそれどころじゃない。怖いという気持ちより、息の苦しさに必死だった。
「新川?」
枝本さんだ…………。でも、ここでドアを開けたら心配をかけそうで少し迷った。
「もう寝たのか?……新川?」
息が苦しくて声を出せないのと、このまま1人で我慢しようと思ってドアを開けなかった。
すると、枝本さんは医務室のドアを無理やり蹴り開けた。
「枝本さん!?」
「なんだ……やっぱりここにいたのか。返事くらいしろ」
肩で息をしながら、私は枝本さんに精一杯の平然とした顔を向けた。
「鍵……壊して……どう……するんですか……」
「お前、また発作か?薬……は……向こうか」
枝本さんは私の様子を見ると、すぐに発作だと理解した。
「だ、大丈夫です……一晩くらい……我慢します……」
「バカ!まだ11時だぞ?朝まであと何時間あると思ってんだ?!」
寮母さんが起きるのは多分6時くらいだから……あと7時間くらい?あと7時間……果てしない時間に思えた。
「行くぞ!」
「行くって……どこへ……?」
ここ以外にいたら絶対にバレる!今までの努力が水の泡!
枝本さんは私に毛布を巻くと、肩に抱えて走り出した。
どこへ?このままどこへ連れて行かれるの?
「待って!……どこ……行く……」
「病院だ!」
「ダメ!こっちで病院にかかった事がバレたら退学させられる!!」
発作が出ても薬で対処できるから大丈夫だと言って、母を説得した。だから、病院に行く事だけはしたくない!!
「病院は……ダメ……ダメ!!ゴホッ!ゴホッ……ダメーーーーー!!」




