25、不良?
25
寮の生活は基本的に規則正しく、時間やルールも厳しい。
女子寮は人数が少ないと言う事もあって、罰則はほとんど無い。多分優しい寮母さんに優しく叱られる。
でも男子は真逆で、厳しい罰則がある。それも掃除当番とかではなく、走り込み腹筋腕立てスクワット。練習でヘトヘトのスポーツマンならまずルールを破ったりしない。
破るのは、暇な不良達。その不良達もラグビー部と柔道部の屈強な顧問に見守られ、滅多な事がなければ脱走なんかしない。
枝本さんも寮で暮らしているとなれば、やっぱり罰則を受けたりするのかな?なんて漠然と考えてもみたけど……
この状況は……
枝本さんが私の部屋のベランダにいた。
いや、幻覚?幻覚見ちゃってるの?
「枝本さん……?」
あの後枝本さんと一緒に歩いて寮に帰って、夕食を食べたりお風呂に入ったりした。その後、寝ようと自分の部屋に戻ったら……
閉めたはずの窓が開いていた。窓からは初夏の暖かい風がカーテンを揺らしていた。
「井出先輩?」
以前視線に悩まされた井出先輩は、不定期に誰かの部屋のベランダにいるらしい。男子の部屋にも来るという話を野口から聞いた。本当に不思議な人。
きっとまた井出先輩なんだろう。と思っていたら、よく見ると坊主頭じゃない。そこには見慣れた姿があった。
枝本さん!?
それに気がついた時にはめちゃくちゃ驚いた。
「枝本さん!?こんな所で何してるんですか?」
「ちょっと出て来い」
いや、ちょっと待って?ここ女子寮!わかってます?わかって無いのかな?こっちは普通科の寮だと思ってるのかな?
「枝本さん、それはいくら何でも無理ですよ。抜け出した事がバレたら……」
「走り込み腹筋腕立てスクワットだ。いい。やれ」
「それは罰を受けろと言ってます?バレずに戻って来る事は前提として無いんですか?」
寮母さんにバレるかどうかはわからないけど、美奈恵さんには確実バレる。帰りに窓に鍵がかかっていたらアウト。美奈恵さんの協力無しでは到底秘密にはできない。
「じゃあ、同室の人に相談させてもらってもいいですか?」
「そんな時間は無い。すぐに来い」
「どうしてもですか?」
何もこんな夜に抜け出さなくても……
すると、枝本さんがボソッと一言言った。
「お願いきくんじゃなかったのかよ」
「それ、出来る限りって言いましたよね?」
「じゃあいい」
そう言って枝本さんは帰ろうとした。
「あ!待って!」
私は思わず枝本さんを引き止めて、慌てて携帯を手に持ってベランダに出た。
もし窓が開いて無かったら美奈恵さんに連絡して窓を開けてもらおう。
先に枝本さんが2階から飛び降りた後、ベランダからの降り方を私に教えてくれた。2階から降りるのは意外と簡単だった。ベランダの横は頑丈な雨どいのようなものがあって、そこにつかまってあちこちに足をかければすぐに降りられた。
こんな事今まで生きてきて1度も経験が無い。初めての冒険に何だかドキドキした。
日中暖かかったせいか、外は寒くは無かった。暖かい風が気持ちのいい夜だった。
「枝本さんのお願いきいただけですからね?決して私が簡単に誘いに乗る不良だと思わないでくださいね」
「気にするなお前より不良はここにはざらにいる」
「そこと比較されるととなんというか……」
そう言われると罪悪感が薄れるというか……いや、夜に寮を抜け出すなんてダメダメ!!
「帰りたくなります」
「いいから歩け」
歩けと言われてもこの暗さの足元でどこへ行けと?
「暗くて……歩きづら……」
「仕方がねーな。ほら」
枝本さんはそう言って私の手を繋いでくれた。
え……手?なんか、これって……これって……
男同士のイチャつき!!これうちのクラスの女子の大好物!!明日教室で話したら大興奮間違いなし!
いやいや、今そんな事考えてる場合じゃない!!
枝本さんに手を引かれ、何度か転びそうになりながら何とかついて行くと
「もう少しだ。ここ登るぞ」
そう言って枝本さんは立ち止まった。その場所は、石段の階段の前だった。
「ここは?」
「誰かの墓」
「お墓ぁ!?」
最悪だ。こんないい夜に肝試しとか……
重い足取りで枝本さんの後に続いて階段を登った。
「あの、枝本さん、私霊感がある訳じゃ無いんですけど、幽霊とかは苦手で……」
「そっちじゃない。こっち」
そう言って先に上に着いた枝本さんは、こっちに振り返り空を指を指した。
「え?」
とっさに枝本さんの指の先を見ると…………
満点の星空がそこにはあった。
それは、都会で普通に暮らしていた私には見たこともない星空だった。
「わぁ……綺麗……!」
思わず感嘆の声をあげてしまった。すると、一筋の光が星空にこぼれ落ちた。
「あれ!今の見ました?」
「ああ、星が流れた」
あれって……あれが流れ星なんだ!
「初めて見ました。流れ星!一瞬すぎて全然お願い事する暇無かったですね」
「星になんか願ったって叶うかよ」
「叶うかどうかじゃなくて、こうゆうのは決意表明みたいなものですよね?」
私は枝本さんが星に何を願うのか気になった。
「じゃあ、明日の夕飯は豚カツが出ますように」
「それ、メニュー表見てくださいよ」
星空を見ながら、二人で笑った。




