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23、無口

23


たとえ見られた所で、ラブレターは誰宛とは書いて無い。ここはあえて見せてしまって、自分がいかにくだらない事を気にしていたか見せてやろう!


「別に大した手紙じゃないですよ?」


私は枝本さんに四つ折りになった紙の手紙を手渡した。枝本さんはその手紙を開くと一瞬驚いて、微妙な顔をした。


「これは誰にも渡さない方がいい」

「え…………?」


え?どうして?どうして枝本さんがそんな事言うの?


もしかして枝本さん…………嫉妬!?え……嘘……いやそんなまさか!!


「あなたが女子ですって書いてあるぞ?」

「は……?」


枝本さんが見せて来た紙を良く見ると、そこには『あなたが好きです』ではなく『あなたが女子です』と書いてあった。


あ、はい。そうですね。この手紙は捨てます!


私は紙をくしゃくしゃにしてすぐ近くにあったゴミ箱に捨てた。


うわぁ……なんか……なんか……


めちゃくちゃ恥ずかしい!!


私が間違ったワケじゃないのに、送り仮名1つ足りないだけで何だか……これ……


しかも、枝本さんの嫉妬に少し浮かれた自分がいて、さらに恥ずかしくて死ねる!!


私は恥ずかしくて堪らなくなって顔を隠した。


「そんなに気にする事じゃない。誰かに渡す前で良かったな」

「そうですね」


元々誰にも渡すつもりは無かったんですけどね。


「それ、誰に渡すつもりだったんだ?」

「え……えーと、それは……」


微妙な間が開いてしまった。多分、誰か適当な人の名前を出せば良かった。それもとっさに出なくて、枝本さんから顔を背けてしまった。


「言えないか……まぁ、言えないな……」


私のポンコツぶりに、その場は気まずい雰囲気になってしまった。


いや、待って?枝本さんは嫉妬じゃなくて心配だったのかも……とっさに男の名前出さなくて良かった~危ね~!


「いや、あの、安心してください!枝本さんではないですから!男からなんて気色悪いですよね!それは絶対に無いから大丈夫です!」


私は慌てて全力で否定した。それもおかしな感じではあるかもしれないけど、しないよりはマシ。そんな気がした。


「あ、辞書ありました。会議室に戻りましょう」


すぐに辞書をロッカーから出して先を急いだ。すると、枝本さんはすぐについて来なかった。


「どうしたんですか?」

「いや……」


私が声をかけると、やっと私の後からゆっくりと歩いてきた。


そんな事があった後、会議室で枝本さんにお土産を渡した。


「何だこれ?」

「実家に帰ったのでお土産です」

「ウナギパイ?」


寮のみんなと友達にお土産を持たされた。その1つを枝本さんにお裾分けした。


「実家はどうだった?ゆっくりしてきたか?」

「えぇ……まぁ……」


私の母は毒親とまではいかないけれど、心配性で過保護。それは私が小さな頃から喘息で体が弱かったせいで……割りと引っ込み思案な性格だったから。


でも今は違う。寮でも学校でもちゃんと生活できてる。


「母は今でも寮暮らしに反対で……発作が出た事もかなり心配されて、こっちに戻って来るのに少しモメました」


だから家には帰りたくは無かった。帰れば、戻れなくなりそうで不安だった。母には絶対言えない。不良ばかりで授業は自習ばかりのこの学校の現状を。


「そうか……」


枝本さんはそう一言言ってウナギパイを食べた。


「ウナギの味はしない」

「あははははは!しないですよ」

「お前はいつも明るいな」


明るい?そんな事ないと思うんだけど……明るいとか言われた事無いし。


「まぁ、それは……喘息が無ければ、そう思う事もありますよ?」


喘息の発作が無ければもっとスポーツもやれていたし、勉強も授業についていけなくなるなんて事も無かったかもしれない。いや、それを言い訳にどれも頑張れなかった。だけど今は十分自由を味わえてる。それで今は十分幸せ。


「そう思うならここを辞めた方がいい」

「辞めません。私はここで部活や勉強を頑張って充実した高校ライフを送るんです」


その時の私は枝本さんがそう言った理由も、本当の意味もわかっていなかった。


そんな事より、新しい虫除けスプレーを試したくて仕方がなかった。


病院へ行った帰りにドラッグストアに寄ったら、もう虫除けコーナーがあった。その中でも、部屋の隅にスプレーすると蚊が部屋に入って来ないという物があって早速それを試したくて仕方がなかった。


そのスプレーを部屋に撒きまくった。


「おい、そんなに撒いたらまた発作になるぞ?」

「これくらいじゃ多分大丈夫ですよ」


予想通り発作は起きなかった。だけど、何故か舌が痺れて来た。


「なぁ……気のせいか、舌が痺れるんだが」

「枝本さんも!?もしかして……これ?」


注意書きをよく見ると、使いすぎるなとは書いてあった。人間の舌を痺れさせるくらい強力なら虫にも効きそう。


だけど……これはさすがに怒られるかなぁ?


と、思ったら、枝本さんが無口になっただけだった。


「あの……枝本さん……」

「…………」


無口というより……無視!?


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