↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/52

21、見られたく無いもの

21



気まずい。


何だか枝本さんの顔を見るのが恥ずかしくて、朝の挨拶が控えめになった。


「枝本さん……お、おはようございます……」


害虫殲滅委員会の仕事もだいぶ慣れて来て、何故か私のシフトが妙に多くなった。そりゃ他の人は他にスポーツをやってたり受験だったりで、私ほど暇じゃない。だから完全に押しつけられている。


「また新川か?」

「すみません。あの、私じゃ嫌ですか?」

「別に。誰が来ても同じだ」


そう言って枝本さんは生徒会会議室で1人で勉強を始めた。


「ちゃんと自習するなら、教室でやりません?」


そうすれば単位がギリギリなんて事にはならない。そのためにはやっぱり虫嫌いを克服しなければ……もし虫が出たら他の人に迷惑がかかる。おそらく生徒会会議室で1人でいるのは、クラスメイトに迷惑がかかるから。


珍しく枝本さんが「そうだな」と言って教室へ向かった。


「新川はGWは家に帰るのか?」

「はい……1日だけ帰る事になりました」


いよいよGW1週間前になり「GWの予定は?」と寮母さんに訊かれた。寮暮らしのワケアリさん達は当然のように誰も帰らなかった。本来長期休みの場合、寮も閉鎖とかもあり得る。だけど、ここは稲高。アスリート候補の男子は、盆も正月も無く練習に励む。でも男子と違って女子は残る理由は無い。

寮母さんが住み込みで働いているので、変わらず寮にいていいと言ってくれていた。


それでも、1年目の私は一度顔を見せに帰った方がいいと薦められて……仕方なく1日だけ実家に帰る事にした。


「枝本さんはGWどうするんですか?」

「別に?このまま寮にいる」


そっか。それ以上はまだ訊けなかった。


「はぁ……」


私がため息をつくと、その様子を見た枝本さんが訊いてきた。


「どうした?新川は家に帰るのが嫌なのか?」


そっち?そっちのため息じゃないけど……


「少し……嫌です。でも、喘息の薬も少なくなって来たので、GWでも開いているかかりつけの病院で診てもらう事にしたんです」


帰りたくは無くても、薬は必要。これから梅雨の季節になれば症状は変わるかもしれない。薬のストックがあった方が何かと安心だと思う。


「それは……大変だな」

「私みたいに子供の時から喘息持ちだと慣れですよ、慣れ。自己管理がまだまだ十分にできないので、またご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが……」

「別に。迷惑だとは思って無い。俺にできる事があれば何でも頼ればいい」


何だか枝本さんが頼もしい。頼っていいって言われると、何だか安心する。


枝本さんの隣は安心できる。そう思えるようになってきた。


「うわっ!なんかいる!」

「あ、カメムシ!攻撃すると臭いですよ?」


私は慌てて廊下の端にいたカメムシに殺虫剤をふりかけた。


「うわぁあああ!」

「枝本さん落ち着いてください!」


前言撤回。安心はできない。稲高に虫がいる限り、全然安心はできない。


うわ……まずい……


予想以上に殺虫剤を撒きすぎて、煙を少し吸ってしまった。最近、発作は無かったのに……


みるみるうちに息が苦しくなって、喘鳴が聞こえて来た。


「大丈夫か?新川」

「薬……」


慌てて鞄の中を探しても、薬は中には見当たらなかった。そういえば……ロッカーに起きっぱなしだった。


でも、せっかく枝本さんが教室に行こうとしてる。ここで 私が足を引っ張っちゃいけない。


「大丈夫です……教室……行きましょう。今行けば……2限……間に合います」


息が切れて、話すのが苦しい。


「どこに薬がある?」

「いえ……枝本さんに……これ以上ご迷惑を……おかけ……」

「だから迷惑だと思ってねぇって言ってんだろ!!」


枝本さんの突然の大きな声に驚いた。


驚いて、何故か涙が出た。


「私……私……」


胸が苦しい。


「新川……?悪い……。薬はどこだ?言え!寮か?教室か?」

「…………ロッカー」


私のその言葉を聞いた瞬間、枝本さんは私を抱えて1年のロッカーのある廊下まで走った。


枝本さんは私からロッカーの鍵を奪うと、すぐにロッカーを開けて薬を探した。目の前のポーチに全然気がつかなかったから、思わず「ポーチ……」と言ってしまった。そのかすかな言葉を枝本さんは聞き逃さなかった。


「これか!」


枝本さんは私にそのポーチを渡してくれた。


薬……


と思ってポーチを開けた瞬間、枝本さんには見られたく無いものが入っていた。これはまずい。私はすぐに薬だけを出して、ポーチを後ろに隠した。


「?今何を隠した?」

「いえ!薬、ありがとうございます!」


私は枝本さんの目の前で薬を吸った。この薬は即効性があるけど、副作用が出る。今度もやっぱり心臓がドキドキした。そして手が震えて、ポーチを落としてしまった。すると、すぐにそのポーチを枝本さんが拾おうとした。


「待って!!」


私は思わず枝本さんを止めてしまった。


もう、どう思われてもいい。とにかくこれだけは本当に枝本さんに見られたく無い。そう思って自分でポーチを拾ってすぐにポーチだけロッカーにしまった。


「はぁ……はぁ……」


震えた手で、鍵をしっかりと閉めた。これで枝本さんに見られる事も無い。やっぱり薬が効くまで息が切れる。


「新川……お前、あの袋に何を隠しているんだ?」


ひぃいいいいい!!枝本さんが突っ込んできた!!


いや、これだけは絶対に無理!絶対に答えられない!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。