誘拐事件 09
国道沿いのファミレスの店内、出入口付近の四人掛けのテーブル席。本来は二人掛けであるはずのソファーを、朝見刑事はまるで一人用のように大きな体で占領している。朝見刑事にかかれば四人席なんてただの二人席なのだ。そんなクマの末裔は目の前で勢いよくステーキを頬張っている。家に帰っても、ご飯を作って待ってくれる奥さんがいないので、ファミレスにはよく来るらしい。
「宿題、わかったか?」
僕は口の中のドリアを飲み込んでから、首を横に振る。
「ある君は、みも太郎の助手やってどれくらいだ?」
「……九カ月くらいですかね」
「もうそんなになるか。……確か、ある君はあるちゃんからは何も聞いてねえんだったな」
「はい。それなりにしか」
話しながらも朝見刑事の口には次々と勢いよくお肉が運ばれていく。まさに野生動物というか、餌をむさぼるただのクマである。
「おかしいと思ったことねえのか?」
「何をですか?」
朝見刑事は口に放り込もうとしていたお肉を皿に戻し、大きく肩を下げる。
「何を? そんなのいっぱいあるだろうが! どうして引き籠ってるのかとか、どうして相談屋なんかやってんのかとか、どうして何でも分かっちまう馬鹿野郎なのか……まあ、いろいろだ、この野郎!」
朝見刑事は相変わらずの口の悪さと大声でまくしたてた後、僕を睨みつける。
「い、一度だけあります」
「聞いたか?」
「いえ、訊いてもちゃんと答えてはくれないと思います。助手と言っても期限付きの代役、神森さんと僕はただそれだけの関係ですから。それに、黒の探偵のことも天涯孤独だってことも知りましたから、今はなんとなく理解しているって感じですかね」
「そうか、知っちまったのか。……でもそれ、自分から訊いたわけじゃねえんだろ?」
「はい」
僕がそう言うと朝見刑事は胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけ、一口吸い込み、吐き出す。
「俺はな、それなりに信頼関係があると思ってんだ」
「信頼していただいてありがとうございます」
「俺とじゃねえよ!」
すごい勢いで怒鳴られてしまった。どうして僕がファミレスで強面の刑事に怒鳴られなくてはならないのかさっぱりわからない。なので、僕は煙を吐き出す彼を見つめることにした。すると朝見刑事は灰皿に灰を落とし、ため息交じりに口を開く。
「みも太郎だよ。あのトンチンカン娘だ、この野郎!」
「まさか」
そんなはずはない。僕と神森さんはわからないもの同士だ。そこに信頼や愛着なんてものは存在しない。恋人ごっこはしても、そこに愛は存在しない。僕らはそれが何かは理解していても、本当の意味ではわからないままなのだから。
「まあ、俺が勝手にそう思ってるだけだ。……いや、そう信じてるだけだな」
「何を信じるかは自由ですからね」
そう言った僕を朝見刑事はしばらく見つめてから、肩を落とし、煙草を灰皿に押し付け、火を消した。正直、煙たかったので有難い。
白い煙が視界からなくなったことを確認してから、僕は再びドリアを食べ始めた。




