表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美貌の怪盗と花嫁の約束〜結婚式の最中にさらわれた令嬢は、自由の空を謳歌する  作者: 矢口愛留


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

1. 花嫁、怪盗に盗まれる



 ゴーン、ゴーン、ゴーン……


 低く重たく響き渡る、教会の鐘の音。

 伝統を重んじた荘厳な礼拝堂で、一組の男女の結婚式がとり行われていた。


 樫の大扉が開き、招待客が一斉に視線を向ける。

 扉の先には、真っ白なウェディングドレスを纏った花嫁。父親の肘に指を添え、ゆっくりとヴァージンロードを歩み始めた。


 花嫁はヴェールに隠された(かんばせ)をうつむかせたまま。

 足取りが重いのは、ドレスが重いからか。裾が長く歩きづらいからか。それとも――。


 ヴァージンロードの中程で、花嫁と父親は歩みを止めた。ここからは、父親と新郎が交代し、歩みを進めてゆく。

 花嫁は、父親の肘から指を離し、一呼吸置いた。


 そして。

 新郎が差し出している肘に手を伸ばそうと、花嫁が一歩踏み出した、そのとき――。


 ガシャアアン!


 大きな音を立てて、ステンドグラスが割れる。

 それと同時に、式場の照明が全て消え――それどころか、昼間のはずなのに、あたりが一瞬で暗闇に包まれた。

 幸い分厚いガラス片が降り注いだ場所には人がいなかったものの、突然視界を奪われてしまった会場は、阿鼻叫喚のパニックになっている。


 ようやく辺りに日の光が戻ってきたとき。

 不自然に輝くヴァージンロードの中央へと、視線が集まる。


 入り口から奥まで続いていた、人生を表す一枚の絨毯の中ほど。

 父親と新郎の間にいたはずの花嫁の姿はなく、代わりに、金属で出来たカードが刺さっていた。


「こ、これは……?」


 父親は慌ててその場に跪き、冷たく輝いているカードを指でつまんで、床から引き抜く。


”花嫁はいただいた。怪盗シリル”


「そ、そんな……まさか……」


 カードには、ここ最近、世間を賑わせている怪盗の名が記されていた。


「怪盗シリルですって!?」

「法外な依頼料を払えば、何でも盗み出すとかいう……?」

「いやいや、いくら金を積んでも、気が乗らない依頼は絶対に受けないとも聞くぞ」

「本物なのか……? 人間が盗みの対象になるなんて、聞いたことないぞ?」


 教会内に、ざわめきが満ちていく。先ほどまでとは違った混乱と狂熱が、礼拝堂の空気を呑み込んでいった。


 ――怪盗シリル。

 神出鬼没で、かつてこの世界に存在していたという魔法にも似た、怪しく不可思議な術を使う。

 その正体も、容姿も、年齢も、性別も、何もかも不明。

 狙うのはあくどい商人や貴族、権力者ばかりの、義賊という噂だ。


「なんてことだ……」


 父親は、がっくりと膝をつく。


「花嫁が……娘が、怪盗シリルに、盗まれた……!」


 大穴のあいたステンドグラスから、金色のまぶしい陽光が差し込んでくる。

 爽やかな風が吹き込み、草花の匂いが、埃と煙をはらっていく。

 抜けるような青空には、白い雲が一筋、まっすぐに描かれていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ