虚人
虚人。
私は二年程前に結婚をした。その頃、十八歳だったから周囲では反対する人達が多かったと思う。夫は公務員だったのだが、半年程前…。同僚の嫌がらせにより【鬱病】になった。一日中、気分が落ち込んでいる様で、何をしていても楽しめず、何の意欲も無くなり自己評価が低下していったらしい。不意に零れる涙。悲しくは無い。哀しくも無い。それなのに自然と涙が溢れていくのだそうだ。ソレから夫に口癖が出来た。私は 【死にたい】と耳にする事が増えていったのである。
時には感情的になり私に暴言や暴力を振るう様になった。ソレでも私は夫を愛していたし、何れは元に戻るのだと考えていた。
そんな矢先、家の近くに隕石が墜ちた。【KARMAウイルス】が蔓延して夫は【虚人】を発症したのだった。言葉を発せず感情も無くなっていったのだが、【鬱病】の頃よりは暴力を振るわない分、楽になったと感じた私がいた。
本能が告げる。産まれた途端に呼吸をする様に、泣き叫ぶ様に、此の世界の在り方を理解していく。
夫は元には戻らない事を識った。
私は【鬱病】だった夫を理解しようと、様々な知識を得ていた。心の闇に反応する【KARMAウイルス】。心とは何だ?心臓は血液を流動させる為の臓器だ。【KARMAウイルス】は個人の脳にある【瑕疵】を媒体として発症していると私は考えている。脳には神経細胞同士でやり取りされる神経伝達物質がある。セロトニン。ドパミン。ノルアドレナリン。のバランスの乱れ、脳の機能が正常に働かなくなっている状態が関係している可能性があるのだそうだ。
私的には、【心】では無く、【脳】の病気なのだと云われた方が理解しやすかった。
では、感情が無くなったからと云って苦悩や苦痛が無くなったのか。きっとソレは別なのだと思う。【虚人】の心の中は永遠の苦悩と苦痛に苛まれていると思う。夫から零れる極僅かな思念が私に【想い】を伝えてくるからだ。
【死にたい】
そう…。夫は私に告げた。




