過去の記憶。
言葉を交わす事さえ無かった…。
家族が壊れていった始まりには俺が密接に関係している。八歳の頃、とある男に俺は拉致監禁された。特に何かをされた記憶は無い。ただ手枷と足枷を付けられ檻の中に閉じ込められていただけだ。決められた時間に食事は与えられ、入浴もテレビを視る事も許可されていのだが触れられる事や話し掛けられる事は無かった。けれど不思議な事に勉学と肉体を鍛える事を指示されていた。思うに、あの男は俺を観賞用の動物として飼っている感覚だったのだろう。
その後、何故か俺は突如として解放された。普段通りに眼が覚めると、記憶にある家の庭だった。多種多様の人間に囲まれ、様々な事を聞かれ、聞かされた。そして…。俺は十一年もの間、拉致監禁されていた事を識ったのである…。
十一年…。ソレは俺の人生の半分以上の時間でもある。記憶にある両親と姉、そして眼前にいる両親と姉には認識の齟齬があった。見覚えもあるし、記憶もある。けれど家族として、認識出来ているのかと聞かれれば違和感が有った。きっと両親と姉も、そんな感覚に陥っていたのだとも思う。
曖昧の儘に生活を共にする辿々(たどたど)しい家族。俺は会話をする事に慣れていなかったから、禄に言葉を交わす事さえ無かった…。
でも…。確かに、あの家には保管されていた俺の記録が有った。家族写真や俺が描いた絵や手紙。曖昧だが記憶とも合致するし、其れが唯一、家族である事の証明でも有ったのである。
水面に石が投じられれば波紋が広がり、その形状は歪になっていく。けれどソレでも時間が経てば水面は元の状態に戻る。だから時が経てば、俺達家族の関係は元の関係になるのだろうと想っていた。
でも違った…。
想像するよりも…。
人の心は複雑だったのだ…。




