隠し事は程々に
∼前回のあらすじ∼
胸の内を知られました
笑って誤魔化す王女に、鬼の形相をした公爵娘が迫る。
「喧嘩を…するな!」
投げ飛ばされた水入りのバケツが、二人の間を通過して、スパイの頭頂部に打音を立てて収まった。
背中に寒気を感じた二人は、バケツが飛んできた方向に、ゆっくりと視線を移す。
「…聞け」
「結界発動時は、多くの兵士が、魔道具の護衛に充てられる」
「城内を知り尽くしている二人が協力すれば、兵士に見つかること無く、王の元へ辿り着けるはずだ」
「故に、この班で行く…いいな?」
二人に圧を掛ける姉は、こっそりと王女にだけ、ウインクを送る。
「お姉様…」
はぁ~助かった~
欠陥の内容なんて知られたら、王都奪還計画が中止になっていた
でも、会話が聞こえていたなら、お姉様も欠陥の内容が気になるはず…
まさか…記憶が残って・・・
「ブラックボックス」
足元の魔法陣が光を放つ。
「え⁈」
声の方を振り向くと、目を覚ましたスパイが、転移魔法を発動していた。
「ちょっと!勝手に/
「これ以上、危害を被るのはごめんだ」
魔力の光に包まれた王女は、スパイが発動した転移魔法によって、部屋から姿を消した。
────────────────────────────────────
見慣れた天井。見慣れた家具。見慣れ…修復途中の壁。
「私の…部屋…」
ふぅ~と安堵の息を吐く、スパイ。
「よし!成功だな~」
「ちょっと、待って・・・『成功』って何?」
スパイの独り言を聞き逃さなかった王女が、鋭い目つきで、胸ぐらを掴み寄る。
「あ~いや・・・まぁ、偽勇者が改良した魔法陣だからなぁ・・・」
「つまり…服が消えるような欠陥が、こちらの魔法陣でも起きる可能性があったと?」
「・・・はい」
しばらく沈黙した後、胸ぐらの握りを離して、スパイの襟元を正す。
「…あれ?優しい?怒らねぇのか⁇」
予想と反する王女の反応に、どこか不安を懐く。
「結果、問題は無かったのでしょ?」
「でしたら、王の元へ向かいましょう!」
優しい微笑みを放つ王女は、スパイの背中を急かすように押す。
「・・・怪しい」
王女の言動に不審感を募らせながらも、足を一歩、前に出した。その瞬間…
〖ゴン〗
頭に衝撃が走った。
その場で硬直するスパイの頭から、金盥が落ちる。
「・・・いってぇーーー!」
頭を押さえて、よろけ倒れる、スパイ。
「あ…」
〖ドン!〗
尻餅をついたスパイが、音に驚いて下を向くと、股と足の間に、頭と同じサイズの石が転がっていた。
「は、はは・・・はあ?」
真っ青な顔を向けて返答を求めてくるスパイから、顔を背ける、王女。
「え~と…それはですね…侵入者撃退の魔法陣です・・・」
「と、いうことは・・・部屋から出られない俺は、ここで待機ってことか~」
恐怖から嬉しさに変わった顔の綻びを、頭を抱えるフリをして隠す。
「それがですね~転移魔法を感知して発動する仕掛けなので、私も発動対象みたいで~」
「・・・はぁ?」
「で、ですから…扉までの魔法陣を、一つ、一つ、発動させて解除しないと…この部屋からは誰も出られません」
ぬか喜びだと自覚したスパイは、真顔で天を仰ぐ。
「だ、大丈夫ですよ~死なない程度に、設計されてあるはず…ですから…」
「・・・」
足元の石と、王女の顔を、往復で三度見する、スパイ。
「さ、三人で、一つ一つ解除して行けば、すぐに・・・あれ?」
トラップの憂いが晴れた王女は、冷静になった状態で辺りを見回し、一人居ないことに気がついた。




