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黒に呑まれてどこへ行く  作者: 魚卵の卵とじ
第2章 獣は吠える
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64話 住人の消えた街4

 ブーツに続き外套の中に着ていた服も軽く絞って水気を飛ばす。


 改めて地下空間を見渡してみる。

 広さは黒蛇の穴と同規模で、光源は天井に開けた穴から入ってくる日差しだけの分、この空間はいまいち距離感がつかみにくい。


 肝心の人の気配はなく、魔物の気配すら感じられない。


「ん?壁に横穴があるな。あれは牢……?」


 よく見れば、空間の底からちょうど大人一人分くらい高い位置に鉄格子がはめられた横穴が壁のあちこちに見えた。


「中にも大した反応はないが、さて……いったい何を入れていたのやら」


 水の刃を放ち鉄格子を切断して横穴に入る。

 日光も届かない横穴で何かが蠢く音がする。


 ぐちゅぐちゃ、ぐちゅぐちゃ


 磨き上げた魔力感知には依然として反応はない。だが確かに何かが身じろでいるのを肌で感じる。


 雷球を光源として明かりを確保する。

 そうして見えてきたのは、顔と手と足と、歯と髪と爪。

 一つ一つを切り取れば紛れもなく人間。分解して探し出せば元の人間を形だけなら再現できるかもしれない。


 だがそれは無理な話だ。


「なかなか気色の悪い思考をするイカレ野郎がいたみたいだな」


 おそらく10人近くの人体がバラバラにされぐちゃぐちゃに押しつぶされて、まるで肉団子みたいに強引に一つにされている、人体実験のなれの果て。


 脳みそらしきものも右脳と左脳に分けられていることから、もうあれに思考する知性はない。

 それにもかかわらず、俺という存在を感じて不思議そうに体を揺らし、いくつもある手をイソギンチャクのように動かしている。


「いま殺してやる」


 光源としていた雷球を適当な口に放り込み、肉団子の内部で破裂させる。

 壁のいたるところに肉片が飛び散る中、俺は水の膜で身を守り肉団子がはじける様子を眺めていた。


「死んではいるが意識は残り、アンデットではないから魔力感知に反応しない。死体を混ぜ合わせたことで、肉体に残ったわずかな精神たちも混ざり合いこうして侵入者に反応するくらいの知性を取り戻したのか」


 この肉団子が実験の末の望んだ結果だというのなら、とんだマッドサイエンティストがいたものだ。


 横穴の数からして、これがあと100近く。


「まったく……掃除する側の気持ちも考えてから造ってほしいぜ」


「あらら、檻が壊れたからと見に来てみれば、こんな子供が落ちてくるとは。何かの拍子で天井が砕けてしまったのか。しかたない、今外に出してあげよう」


 なんの気配もなく、突然地下空間に白衣を着た男が現れた。

 本当に何の気配もなく、もとからそこにいたかのような自然体で話しかけてきた。


「なんだお前。どっからで出てきた」


「心配しなくていいよ。ちゃ~んと君のことは上送り届けてあげよう……生きたままかは保証できないがね」


「……!?」


 背後、それもすぐ近くにまた新たな気配が産まれる。


「いたのか……転移系の魔法使い」


「おっと、気づかれちまったか。よく避けたな坊主」


 剥げ頭の巨体の男。両手に持つナタを振り回して攻撃してくる。


「死ねぇい!!」


「テメェがな!!」


 心臓とど頭めがけて雷を放つ。男の不意を突いた速度重視の魔法。見るからに脳金パワー型の禿男には防げないはず。

 だが……


「なに……っ」


 着弾寸前で男の体が消えた。雷は誰もいない地面をえぐる。


「おっとと。兄貴こいつただのガキじゃねぇぜ」


「ふ~む。予想外だが、ちょうどいい。こいつらの実戦相手になってもらおうかな」


 白衣の男の声に反応して、横穴にはめられた檻ががしゃんと音を立てて勢いよく外れる。

 今まで静観していた肉団子たちがわちゃわちゃと、手足を動かして横穴から這い出てくる。


「おぉ兄貴!兄貴ってばいつにもましてクールだな!!」


「褒めても何もっ出ないぞ。それより早くあの子供を始末しろ。ここを視られた以上、いつ騎士たちが動くか分からないからな」


「おうよ兄貴!!」



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