人形術師による擬似英雄劇
ルイナとの話し合いを無事に終えた俺は泊まっている宿に帰って来た。
もっと遅くなってしまうと思っていたが、すんなりと終わったので今日やろうと思っていたことを早めてやろうと思う。
しばらく部屋で待っていると部屋のドアがノックされる。立ち上がりドアをあけるとそこにはエマが立っている。
「どうぞ」
「うん」
いつもより少し緊張した声色だ。エマが部屋に入ったことを確認すると部屋の鍵を閉めてダメも入って来ないようにする。
「さっそく始めようか」
「……うん」
少し顔を赤くしながらゆっくりと服を脱いでいく。下着姿になると脱ぐスピードが落ちるが、止まることなく身につけていたものを全て脱ぎ去った。
生まれたままの姿になったエマに近づきそっと手を伸ばす。そして緊張した面持ちのエマの顔に触れる。そして首、肩、腕の順に確認して行く。次に背中、腰、胸や腹と上から下へと手をすすめる。
少し体が震えているが今回が初めてというわけではないのでいい加減慣れてほしい。これは必要なことなので我慢してもらうしかない。
最後に太もも、ふくらはぎと検査を進めていき終える。
立ち上がり今回の結果のことを話す。
「背中と足の筋肉が少し張っているな。あとは、少し背骨に歪みがある」
「そうなの?」
自覚は無いのか不思議そうな顔をしている。
あとは重心が少しずれている。前回より少しだけ胸が大きくなっている。ほんの少しなズレだが非常に重要だ。
「調整するからそこうつ伏せに横になってくれ」
俺の指示通り横になってくれたエマに近づくとまずは背中の筋肉の張りを治して行く。
力を入れるとエマの口から声が漏れる。
「うっ、い、痛い!」
「我慢してくれ」
「痛い、痛い!」
背中の張りを治し終えた後は足へと行きは同じように治して行く。
丁寧にエマの体を痛めてしまわないように気をつける。これは【人形術師】としての能力の一つでチューニングと言われるものだ。なぜこんなことをエマ相手にする必要があるかというと俺がエマのことを操っているからだ。
ルイナに言ったことだが、このパーティーに俺が必要だという意味はこれだ。
エマは俺が操らなくては戦うことができないのだ。
エマは【勇者】という職を与えられたことにより身体能力も魔法の力も他を凌ぐほど圧倒的なものを手に入れた。しかし、エマ本人にその力をうまく扱うことが出来なかったのだ。
例えば、魔法を使って相手を攻撃しようとしたら100%の確率で外れるし、剣を払えば当たることはないだろう。試しに動かない対象に向かって剣を振るわせたことがあった。もちろん当たることはなかったし振りかぶった瞬間、剣が手からすっぽ抜けたことがあった時は正直頭を抱えてしまった。
「うぐっ」
力を持っているがそれをうまく使うことができない。端的にいうと才能がないのだ。
「はい。終わりだ」
「ありがとう」
脱いだ服をエマに渡すと着替え終わるまで視線は外す。
服を着終えたところでエマが声をかけてくる。
「もう、いいよ」
「一通り体の異常は治せた。やっぱり俺が操ると体に負担がかかってしまうな。俺が未熟で悪い」
「気にしないで! 私がお願いしたことなんだし。それに、リアムなしでは戦うことすら出来ないから……」
悲しそうに目を伏せるエマに声をかける。
「たしかに1人では難しいことかもしれないけど、俺はエマの力になるよ」
「ありがとう」
笑顔を見せるエマに頷き返す。
「そうだ。ルイナの方は大丈夫だったの? リアムのなら問題ないと思うけど」
「あぁ……」
先ほど終えたルイナとの話し合いの場面を思い出して言う。
「無事に終わったよ。少し揉めたけど平和的だった」
「そうなんだ。それならよかった」
「これでエマの夢にまた少し近づいたと思う」
嬉しそうに笑うエマを見て満たされた気持ちになる。
「よーし! これからも頑張ろうね」
「そうだな」
気合を入れているエマを見て少し力が入る。これから本格的にエマの夢に向けて動き始める。
【人形術師】としての力を使い必ずエマを世界を笑顔にする英雄へと導いてみせる。
世界を舞台にしたエマの英雄劇を世界中に轟かせてやる!




