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十二の魂  作者: 影ノ者
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9

「はい、これ」


 三郎は小皿に置かれていた二つの団子の内、一つを死干支に渡す。死干支は三郎から渡された団子を手にとって、じっと見つめた。


「これ、毒入ってないよな?」


「入っているわけないだろ! ほらっ、これで満足かい!」


 三郎は串に刺さっていたみたらし団子を、その大きな口で一口頬張って毒がないことを証明する。

 それを確認した死干支は舌で蜜を軽く舐め、そのまま団子を口の中に入れた。


「うん、まあまあだな」


 死干支は口の中に団子を含めて、モゴモゴしながら感想を述べる。


「本当に君は…… いちいち疑ってたらキリがないよ」


「んっ…… 疑うことに越したことはない。まあ、多少の毒なら摂取しても死なないけどな」


「一体どういう体してるんだよ!? もうそれって人間じゃないよね!」


「何言ってるんだ? 俺は人間だぞ。当たり前のことを言わないでくれ」


 死干支は三郎のツッコミを冷静に対応した。そんな死干支に三郎は呆れた顔をして、団子を再び頬張り始める。


 死干支と三郎は茶屋で休憩をとっているのだ。

 死干支が喰魂狩人に入ったということで、色々と物が必要になる。そのための生活用品を揃えるついでに、古町の案内をするために町中を歩いていた。


 呉服屋を出てしばらく歩いていると、突然三郎が休憩をしたいと言い出したことから今に至というわけである。


「この町はどう? 結構いい町でしょ」


 三郎にとって古町にいるだけで実家のような安心感に苛まれる。それは間違いなく古町の雰囲気、人間が素晴らしいからだ。

 そんな自分の気持ちに共感して欲しいため、死干支に尋ねた。


「他の町を見たことがないから、この町については何も言えない」


「いやそうかもしれないけどさ…… まあとにかくこの町は良い町なんだよ。分かった?」


「分かったと言われても、分からないものは分からない」


「うぅ、死干支君にもこの気持ちが伝わらないのか……」


 死干支に気持ちが伝わらなかったからか、三郎は涙目になる。


 三郎はこの気持ちを他の者にも伝えたが、皆に「良い町だが、実家のような安心感は無い」と言われ誰にも共感して貰えなかった。

 結局死干支にも伝わらなかったので、三郎はもう諦めることにする。


 二人は団子を食べ終わり、湯呑みに入っていたお茶を全て飲み干す。そして三郎が会計を済ますと、二人は茶屋を後にした。

 そして二人は次々と様々な店を訪れる。


 ある時には服屋に訪れてーー


「二着ともこれにする」


 死干支が手に取ったのは、可愛らしい熊の絵が描かれている服だった。


「いやいや、死干支君ももう良い歳した男の子なんだから。もっとかっこいいやつ選んだ方がいいよ」


「いや、もうこれにすると決めたんだ。これを買ってくれ」


 死干支は三郎に同じ柄の服と黒い袴を二着ずつ渡す。


「後悔しても知らないからね……」


 ある時は靴屋に訪れてーー


「やっぱこの草履が一番良いと思うよ」


「いや、これが良い」


 三郎が死干支の方を振り向くと、死干支が手に握っていたのは作りが雑な草履だった。


「そんな安物じゃすぐ壊れちゃうよ。戦うんだからしっかりとした草履を履かないと」


「そんなことはない。俺はこれで十分だ」


 三郎が説得もするも、死干支は頑として譲らない。だが戦いにおいて履物は大切なので、三郎もこれだけは譲れなかった。


「いいやダメだね。履物だけは絶対に譲れないよ。すいませーん、これくださーい」


 三郎は目の前に置いてあるしっかりと作り込まれた草履を二足手に取ると、早歩きで店員の方へ向かって行く。

 仕方ないので、死干支は手に握っていた草履を元あった場所に置き戻した。


「ぬぅ……」


 ある時には町中に流れている小川の側で座ってーー


「あー、川の流れる音を聞いてると癒されるんだよねぇ」


「…… っなんか言ったか?」


「いや、なんでもないよ…… って何してるの?」


 三郎が死干支の方を見ると、死干支は川の間際で腰を低くしてしゃがんでいる。凝視すると、死干支の両手が水に濡れているのが確認出来た。


「何って川の水を飲んでるんだ。かなり美味しい水だったぞ、お前も飲むか?」


「いや僕は遠慮しとくよ…… それにしても川の水を飲んだのかい? いくら綺麗だからといってもねぇ。ほら、いつものように毒が入っているのかと疑わないの?」


「なんで疑うんだ? こんな綺麗な川に毒なんて入っているわけないだろ。見ただけでわかるぞ」


「うーん、僕には君の基準がよく分からないよ……」



「ーー疲れたぁ」


 三郎は背中に抱えていた籠を食卓の上に置き、両手に抱えていた荷物を床に置く。そして羽織を壁に掛けると、流れるように椅子に座った。

 余程疲れたのか、手先から足先に力が入っていないことが見たただけで分かる。まるで魂の籠もっていない人形のようだ。


「それにしてもこんなに買ったけど本当に良かったのか。俺如きにここまでする必要もないのに」


 床に置いてあるのと死干支が両手に持っている物も含めるとかなりの量になる。死干支からすると、余裕で有り余るほどだった。


「まあ確かに少し多いと思うけど、実際これぐらい買っといて丁度良いぐらいだよ」


「それに物もかなり質の高い物ばかりだ、俺にはもっといない」


「でも烈士さんに、死干支君には良い物を沢山帰ってきつく言われたしね。ーーあの烈士さんがだよ、『金借り烈士』で有名な烈士さんが公費に加えて私費を出した時は驚いたよ。いつも金を借りてばかりの烈士さんがねぇ……」


 『金借り烈士』とは烈士の異名であり、古町内では有名な話である。

 烈士の生きがいと言っても過言ではないであろう丁半賭博。そんな烈士は毎日のように賭場に通って丁半賭博を行うのだが、烈士には大きな欠点が一つあった。


 ーー信じられないほど弱いのだ。


 一年三百六十五日行おうが一度も勝ったことがない。そのせいで懐から金が流出していき、気づいた時には一文無しになっているのである。

 だが丁半賭博が大好きな烈士は何回負けようが辞めることはなく、いつも知り合いに金を借りていた。

 そんな日常を繰り返していく内に、烈士に『金借り烈士』という異名がついたのである。


 そんな烈士が自ら金を差し出すなんて、三郎にとっては信じられないことなのだ。


「まあ、死干支君にはそれぐらいするほどの価値があるのは間違いないね。その力、そしてなんと言っても、あの暁蘭溪の孫であるからね」


「……」


 死干支は顔を下に向けて考え込んだ。蘭溪という人物は謎に包まれている面が多いのである。

 死干支は蘭溪の素性もあまり知らなければ過去も知らないし、知る機会も無かった。


 ただ雨凛や烈士、そして照子から尊敬されていることしか知らない。死干支にとって蘭溪はただの尊敬に値する師匠であり、数少ない家族なのである。

 

 ーー本当の家族なのかは知らないが。


「だってあの暁蘭溪だよ。本当に存在していたのかも分からない、まるで神のような存在。喰魂狩人の……」


 三郎が喋っているときだった、


 チリリーン、チリリーン、チリリーン、チリリーン……。


 近くに置かれてあった黒電話が、大きな音を鳴らす。三郎は素早く椅子から立ち上がると黒電話の受話器を取った。


「はい、こちら喰魂狩人古町支部。はい、はい、分かりました。今すぐ向かいます」


 三郎は取った受話器を元あった場所に戻すと、壁に掛けていた羽織を再び羽織り直す。


「死干支君、初任務だ。助けを求めている人がいる、早速向かうよ。僕について来て」


 三郎に言われて、死干支は脱ぎかけていたローブを再び身につけ直した。

 

 扉を開けて二人は外に出る。そして三郎が走り出すと、三郎の後を追うように死干支も走り出した。

 黒電話の鳴り響く音は任務の訪れを告げる。

 


 

 







 










 




 

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