675 受け取った想い
ちーちゃんターン
バトンが千鶴に渡ると、千鶴は最初から本気で走る。バトンの受け取りミスなど考えてなかったようなスタートダッシュ。それだけレナちゃんのことを信用していたのだろう。
グングンと進んでいく、去年とは別人のように速くなっていた。去年も物凄く速かったとは思う。ただ、成長したことでスピードは段違いに上がっていた。
特別、走りの練習などはしてなかったが、やはり遥香の血をひいてるのだろうとしみじみ思う。俺なんて、鍛えてはいてもそこまで走りには自信が無いからね。昔はかけっこ最下位も無くなかった・・・ような気がする。あんまり覚えてないけど。まあ、ウチの娘は凄いのだ。
「ちーちゃん!頑張れ!」
隣では、遥香が娘の応援を頑張っていた。レナちゃんが頑張って差を詰めたとはいえ、そこそこ差がついてしまっていた。奇しくも去年に似たような状況になったが、それでも俺のやる事は何も変わらない。
「千鶴!」
俯かないように声をあげる。でも、千鶴も強くなってきた。友からのバトンを受け取って精一杯走る。やがて、1人抜き、2人目もなんとか抜くが、ラストの1人がとんでもなく速かった。
去年こんな子いたかな?と少し考えるが、ここまで速い子は居なかった気がする。この1年で頑張ったのだろうか?だとしたら凄い。だけど、ウチの娘だって負けてない。
グングンと背中が近づいてくる。両者は奇しくもコーナー前で並ぶ形になった。だが、そこでまたしても運命のイタズラが起きてしまう。コーナーを曲がる時に千鶴が少しバランスを崩しそうになったのだ。
危ない!と思ったが、千鶴はなんとか踏ん張って離されないようにコーナーを曲がりきる。息が荒く苦しそうだ。きっと、限界ギリギリなのだろう。娘の頑張りは見たいが、どうしても過保護な自分が止めたくもなる。無理しなくていいと。
でも、それはダメだとぐっと堪える。
友のため頑張ってる、そんな頑張り屋な娘にかける言葉は一つしかない。だから俺はビデオのことを一瞬忘れて大声で言った。
「勝って!千鶴!」
俺の言葉なんて、そこまで効果があるとは思わないが、それでもそう声をかける。そんな俺の言葉が届いたかは分からないが、ゴールテープは切られた。
最初にゴールに届いたのは千鶴。本当にギリギリの勝負に盛り上がるギャラリーの中、息を整えつつ千鶴はこちらにVサインを送ってきた。隣の遥香が嬉しそうに俺に抱きつく中、俺は千鶴に微笑みかけていた。後で、頑張ったご褒美をあげないとね。
そうして、運動会は千鶴とレナちゃんの赤組の勝利で幕を閉じたのだった。




