556.5 恋人は
少し離れていても、健斗達が何をやってるのかは車からしっかりと見えていた。そんな風景を見て助手席でくすりと笑っているのは健斗の親友の中条雅人。そんな雅人に彼女である水瀬亜矢は言った。
「楽しそうだね」
「だな、相変わらずだ」
「巽くんにはいつも気を使って貰ってるから・・・ああいう所見ると安心するんだ」
前なら、雅人に付け入るために言ったのではないかと疑うこともあった雅人だが、今はそんな気持ちは微塵もない。この水瀬亜矢という少女は心からそう思っているのだろうと信じられる。
「それにね、中条くんやっぱり巽くんと居るとき凄く楽しそうだから、私も嬉しい」
ドクン。その笑顔にまたしても心を揺さぶられる雅人。この少女と出会ってから、雅人は知らないことばかり経験していた。少し変わった親友を馬鹿にするどころか、尊敬して仲良くなるような女性に出会ったことがまず大きかった。
最初は告白されたから、いつも通り付き合っただけだ。中条雅人という男はどうしても容姿や才能が飛び抜けており、近寄ってくる存在は常に皆似たような人物ばかりだった。そんな中で、親友として認めたのは健斗くらいだろう。そして女性と付き合うとまず間違いなく変わってる親友は馬鹿にされる。悲しいことに、雅人の近くにはそんな女性しか集まらなかったのだ。
何度となく助けられてきた親友を馬鹿にされて悔しい気持ちの雅人にいつも健斗は言う。
『気にしなくていいよ。雅人は好きな人と付き合えばいいんだから』
そんな相手は居ないと思っていた。だが、皮肉なことに健斗が結婚すると同時に雅人にも春が訪れた。クラスメイトの水瀬亜矢に卒業式の日に告白されたのだ。
今までクラスでは目立つタイプではなかったと思う。大人しいイメージのその子と接してると、なんだか健斗と居るように心地よく感じた。それが恋に、やがて愛に変わるのにさほど時間はかからなかった。
「なあ、水瀬」
「なに?」
「・・・いや、やっぱりいい」
「えー、教えてよー」
「何でもないっての」
むぅっと、膨れる水瀬に雅人はくすりと笑ってしまう。今までの彼女なら、ウザイくらいに媚びてきたり、高いものを要求したりと面倒だったが、この子にはそれがない。柄にもなく自分から貢ぎたくなるが、何をあげていいのか分からない。高いものを渡すと恐縮しそうでそれはそれで見てみたいが・・・こういう時こそ、女子力の高い親友に相談するのが1番だろうと思った。
その親友は娘にソフトクリームを渡しており、なんとも母性が感じられたが・・・それを口にするのは戻ってきてからでいいだろうと思うのだった。




