169 引っ越しの準備
引っ越し
「これでよしっと」
ひとまず、祖父の家に送るための荷物をある程度片付けてから、俺は少しずつ先生の家に持っていくものを整理する。もともと調理器具は向こうでもかなり使ってるので、ある程度でいいとしても、後は着替えとか本とかくらいだろうか?
「あら、健斗引っ越しの準備?」
そんなことを考えていると、父さんがそう言いながら部屋に入ってきた。最近は忙しいようで、お義父さんとお義母さんに会った日に出掛けてから会えてなかったが、元気そうで何よりだ。
「父さんの準備は終わってる?」
「ええ、少し残ってるけど、後はほとんど送るだけよ」
「やっぱり少し手伝おうか?」
海斗の荷物なども整理は終わっているので、そう聞くと父さんは笑って言った。
「いいわよ。それよりも、遥香さんと千鶴ちゃんのために時間を使いなさい」
「それはそうだけど・・・本当に大丈夫?」
仕事も忙しいだろうに。そんな俺の心配に、父さんは少しだけ苦笑して言った。
「まあ、確かに少しだけ大変だけど、新しいお店の人達も皆いい人だから、何も心配はないわよ」
「そっか、ならいいかな」
これからは先生と千鶴ちゃんを優先していいのだとわかっていても、やっぱり少しだけ考えてしまう。本当に父さん一人で大丈夫だろうか?海斗も実家がなくなって不安にならないだろうか?過保護かもしれないが、そんなことを思ってしまう。
「私も早めに向こうに行く予定だから、健斗も準備終わったら、いつでも遥香さんの家に行きなさい」
「うん。わかった」
これが家族から巣立つということなのだろう。少しだけ寂しくもあるが仕方ないと思っていると、父さんは微笑んで聞いてきた。
「ねぇ、健斗。この家に思い入れはある?」
「それは・・・多少は」
子供の頃はほとんど病院に入り浸ってて、実はこの家も一度引っ越しているので、それほど深い愛着はないが、それでも何年か過ごしたので思い入れはあると思う。
「私がこの家に引っ越したのも、あなたのお母さんが死んだことを忘れたくて、ここにしたの。だから、私はそれほど思い入れはないけど・・・でもね、ここで健斗が私達のために頑張っていてくれたことは、きっと忘れないわ」
そんなことを言われては、俺としても覚悟を決めるしかなくなる。俺はため息混じりに言った。
「数日以内に遥香さんの家に引っ越すよ。遥香さんもわかってるから」
「そう、後のことは任せなさい」
「うん。父さんも元気で」
「ふふ、大丈夫よ。私にはお仕事があるからね」
そうして俺はこの日から、先生の家に住み込むことになるのだった。少し早かったが、二人とも喜んでくれたので、俺は二人のために頑張ろうと改めて誓うのだった。




