第9話 ガラクタ武器は、俺には当たりです
洞窟を出ると、通路の先を白い塊が這っていた。
人の胴ほどの太さがある巨大な芋虫に見えるが、よく見ると一本の生物ではない。一本一本はトイレットペーパーの芯ほどの太さをしており、それが数百匹ほど、毛糸を編むように絡み合って、一つの身体を作っている。
《ウールワーム》。
見た目の気持ち悪さから、特に女性探索者から嫌われている群体型モンスターらしい。
「よりによって、こいつか……」
澪が露骨に顔をしかめた。
「強いのか?」
「攻撃すると一斉に分散して逃げる。切れば体液が飛び散り、潰せば中身が出る。服へ付くと臭いも落ちにくい」
「強さより、嫌われる理由の方が説得力あるな」
「まぁな。だがそれよりも恐ろしい点があって――」
ウールワームの近くへ、カバほどの大きさをした、ネズミ型のモンスターが現れた。
「丁度いい、見てみろ」
次の瞬間、編み込まれていた身体がほどける。
無数の芋虫が編み目を解くように散らばり、ネズミへ群がった。口や鼻だけでなく、身体の穴という穴から侵入していく。悲鳴はすぐに止まり、残ったのは小さな骨だけだった。
「うえぇ……」
「勝てると判断した相手には、ああして食いつくんだ。人間も数分で骨になるぞ」
「やっぱり普通に強いじゃないか」
あの気持ち悪いワームにケツの穴まで犯されて、中から内臓を喰われる……うぅ、想像するだけで鳥肌が立ちそうだ。
散らばった芋虫たちが再び集まり、巨大な身体を編み上げる。
頭部には目のような赤い点があった。
よく見ると、一匹だけ色の違うワームが群れの中心に埋まっている。
「あの赤い個体が指令役だ。倒せば、残りは命令を失って無害になる」
「狙えと言われても、周りの芋虫に隠れてるぞ」
「まぁ、普通の武器なら難しいな」
できることなら相手にはしたくないが……ん、待てよ?
ここに今、丁度いい武器があるじゃないか。
さっそくとばかりに俺は、ミスリル製のナイフを構えた。
「見てろよ。ハズレ装備の価値を証明してやる」
「本当に大丈夫なのか!? やっぱり危ないんじゃ――」
澪の忠告を聞き流し、赤いワームへナイフを投げる。
狙いは大きく外れ、刃は壁へ向かった。
しかし途中で急に軌道を変え、白い芋虫の隙間へ潜り込むと、群れの奥にいる指令役だけを正確に貫いた。
「よしっ、命中!」
ウールワームの身体が一気に崩れる。
統率を失った芋虫たちは互いにぶつかりながら散らばり、壁や床の穴へ逃げ込んでいった。
「見たか! 《必中》の効果だ!」
赤いワームから抜けたナイフが、今度は俺へ向かってくる。
「避けろ!」
澪に肩を引かれたが、刃もこちらを追って軌道を変え、俺の頬へ深々と突き刺さった。
「もごもご、もごごもごごご(見ろ。ちゃんと回収できたぞ)」
「顔で受け止めることを回収とは言わない」
澪が柄をつかんでナイフを引き抜く。
灰色の瞳が近くから傷口を確かめた。
「そんなに近づかれると、勘違いするぞ」
「何をだ」
「傷ついた男への愛情表現かと」
「頭にでも刺さったのか? それとも脳は復元できないのか?」
ひでぇ言われようだ。
頬の穴は青い粘体で埋まり、すぐに元へ戻った。
思った通りだ。普通の人間には使えないが、俺なら問題ない。
洞窟へ戻って段ボール箱を探ると、最初の一本と同じナイフが次々に出てきた。
「同じ当たりが十二本も入ってる!」
「世間的には、十二本すべて外れなんだけどな……」
ほかにも、《硬化》と《癒着》が付いた外せない手袋や、《伸長》したあと縮まない短槍が入っていた。
「こっちは後で試してみよう。手袋が外れなければ、手首ごと切り離せばいいし」
「やっぱり私は、お前がモンスターなんじゃないかと思えてきたぞ……」
俺は背中から十二本の触手を伸ばし、それぞれにナイフを持たせた。
ちょうど別のウールワームが、通路の奥から這ってくる。
「今度は一斉発射だ」
十二本の刃を投げる。
別々の方向へ飛んだナイフは途中で軌道を変え、すべてが群れの奥にいる赤い指令役へ集中した。
「全弾命中!」
喜んだ直後、十二本が一斉に俺へ戻ってきた。
胸、腹、肩、腕、頬、額へ、銀色の刃が次々と突き刺さる。
「全回収完了だ」
澪は全身から柄を生やした俺を見て、眉間を押さえた。
「黒ひげ危機一髪みたいになっているぞ」
「頭は飛び出なかったけどな」
「笑っている場合か」
毎回顔や腹へ刺さるのは邪魔なので、背中の一部を粘体へ変え、帰ってくるナイフを受け止めるための溝を作った。
一本ずつ、戻ってくる場所を意識する。
もう一度投げると、指令役を仕留めたナイフが、今度は背中へ整然と並んで刺さった。
「改善したぞ」
澪が俺の後ろへ回り、並んだ柄を指で確かめる。
「今度はハリネズミになっただけだ」
「便利だろ。手ぶらで出かけられる」
「探索時はお前から離れて歩くことにする。うん、今決めた」
その時、澪の探索者端末が短い警告音を鳴らした。
大宮第一迷宮の未確認区域で、成人男性探索者の失踪が続いているらしい。女性探索者は追い払われるか殺されているのに、男性だけは装備を残して姿を消していた。
「ほぉ、男だけを連れ去るモンスターか」
「油断するな。お前も条件に当てはまる」
「俺を欲しがる女が、ようやく現れたか」
「相手が女とは限らないぞ」
俺たちは洞窟の近くを調べ、岩陰で壊れた探索者用の胸当てを見つけた。
争った跡はほとんどない。
代わりに、装備から甘い香りが漂っていた。
「助けてください……」
通路の奥から、若い女の声が聞こえる。
岩壁のそばには、服を破られた美しい女が倒れていた。
「澪、女の人がいるぞ!」
澪はリボルバーを抜き、女へ銃口を向ける。
「バカかお前は。アイツはどう見ても――腹の膨れたゴブリンだ」




