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催眠おじさんのダンジョン無双~「俺は最強」と思い込んだら、本当に最強になってしまった~   作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第14話 お前、そんなに優しかったか?


 二人の澪が、同時に俺を見ていた。


 一人は俺のすぐ隣。もう一人は暗い通路の先。短く切った黒髪も、左眉からこめかみに残る傷も、鋭い灰色の瞳もまったく同じだ。



「司、そいつから離れろ」

「聞くな。私のそばにいろ」


 声まで同じとなると、さすがに困る。


「俺、人生で女に取り合われる日が来るとは思わなかったけど、こんな形は望んでねえんだよなぁ」


「ふざけている場合か」


 二人から同時に怒られた。

 そこまで合わせなくていい。



 ともかく、やること自体は決まっている。


 ここまで来て分かった。こいつら苗床ゴブリンは、男を誘う奴、捕まえた男を世話して逃がさない奴、子供を産む奴に分かれている。そして虚素の強い男ほど奥へ運ばれているらしい。


 おまけに、この先には澪の端末が拾った巨大な生命反応がある。


 つまり親玉がいる。

 そいつをぶっ殺して、この気持ち悪い香りを止め、捕まっている男どもを連れて帰る。それで終わりだ。


 問題は――。



「どっちが澪だ?」


 俺が尋ねると、通路側の澪が一歩進んだ。


「私だ。司、もうお前は何もしなくていい。そいつは私が倒す」


「……は?」


「ここまで何度も助けてもらった。感謝している。この件が終わったら、きちんと礼もする」


 なんだこいつ。

 急に俺へ都合がよくなったぞ。


「礼って、どのくらい?」

「お前が望むことなら、できる範囲で応える」


 危ない。

 今まで聞いた中で一番危険な台詞だ。


 一瞬だけ、信じてもいいんじゃないかという気持ちが猛烈に湧いた。だが俺は三十六年間、楽な話に飛びついた結果が現在である。



「いや、お前が偽物だろ」


 澪が目を見開く。


「なぜそう思う?」


「澪が俺に何もしなくていいなんて言うわけねえだろ。むしろ働かせようとしてくる女だぞ。あと自分から礼するとか絶対言わない」


「……そこまで言うか」


 隣の澪が呆れた声を出した。


 次の瞬間、偽物の顔が歪む。

 女の白い肌が緑色へ変わり、細い指が黒い爪へ変わった。


「うおっ!」


 飛びかかってきた頭へナイフを投げる。


《必中》。


 刃が眉間を貫き、ゴブリンはそのまま倒れた。



「よく分かったな」


 残った澪が小さく笑う。


「まあな。なんだかんだ、そこそこ一緒にいるからな」


 俺は少し胸を張った。

 顔だけで女を見ていると思われがちな俺だが、ちゃんと中身も見ているのである。


 これはかなりポイントが高いのでは?


「なら、私が本物だということも分かるな?」

「当然」

「そうか」


 澪が俺へ近づいてきた。

 そして胸を押した。


「へ?」


 背中から床へ倒される。

 澪はそのまま俺の腰へ跨がった。


 近い。

 顔が近い。


 普段なら人を刺せそうな目つきをしている女が、今は俺だけを見下ろしている。



「み、澪さん?」

「司」


 低かった声が、妙に甘い。

 両手で俺のTシャツを掴むと、左右へ勢いよく引いた。


 びりっ、と布が裂ける。


(待て待て待て待て! 今!? ここで!? 俺まだ心の準備とか、そういう大人として必要な工程を一切踏んでないんですけど!?)


 澪が覆いかぶさる。

 黒髪が俺の頬へ触れた。


 もう息がかかる距離だ。



「司」


 思わず目を閉じかけた、その瞬間。

 腹を熱いものが貫いた。


「がっ……!」


 視線を落とす。

 俺の腹から、緑色の細長い腕が生えていた。


 いや、違う。

 澪の腕だと思っていたものが、長い爪となって俺を貫いている。


「……ちくしょう、二人とも偽物かよ」


 目の前の女の顔が崩れた。

 現れたのは、腕だけ異様に長い苗床ゴブリン。


 同時に、その背後の壁が湿った音を立てて左右へ開いていく。


 奥には広い空間があった。


 そして、死体。

 男の死体が、山になっていた。


 腹を裂かれた者。脚だけ残った者。皮膚が骨へ張りつくほど痩せた者。中には腹に大きな穴が開き、その内側から何かに食い破られたような跡が残る死体まである。



 こいつら。

 使えなくなった男まで、最後まで利用してやがったのか。


 その死体の向こう。

 巨大な緑黒い肉塊が、繁殖室の中央に鎮座していた。


 膨れた腹。何本もの腕。全身に並んだ、甘い匂いを吐き出す穴。


 そして、そのすぐ横。

 壁から伸びた肉の蔓に両腕を拘束された女が顔を上げた。



「司……!」


 本物の澪だった。


「そいつらから離れろ!」


 腹を貫かれたまま、俺は巨大な怪物を見る。



「やっと見つけたぞ。親玉」


 女王が口を開いた。

 次の瞬間、これまでとは比べものにならないほど濃い甘い香りが、繁殖室いっぱいに噴き出した。


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