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催眠おじさんのダンジョン無双~「俺は最強」と思い込んだら、本当に最強になってしまった~   作者: ぽんぽこ@銀郎殿下5/16コミカライズ開始!!


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第13話 腹の中から、全員こちらを見ています


 何十人もの女たちが、大きな腹を抱えて並んでいた。


 俺にはそう見えている。


 年齢も顔立ちも違うが、全員が美しい。薄い布をまとい、膨らんだ腹を両手で守りながら、不安そうに俺たちを見つめていた。


 だが、隣に立つ澪の目には、まったく別の姿が映っているらしい。



「緑色の皮膚に、痩せた手足。腹だけが異常に膨れて、床へ垂れている。間違いなくゴブリンだ」


「俺には出産を控えた美女の集団に見えるぞ」


「その感想は口に出さなくていい」


 甘い《番い香》は、これまでとは比べものにならないほど濃い。頭がぼんやりし、助けを求めている女たちを傷つけてはいけないという気持ちが込み上げてくる。


 一人が近づいてきた。



「お願い……私たちの子供を、殺さないで……」


 涙を流す女の手が、俺の腕へ触れる。


 柔らかな指に見えたが、実際に伝わってきた感触は違った。硬い爪が皮膚へ食い込み、ざらついた手のひらが腕をつかんでいる。


「見た目は美女でも、触ると完全にゴブリンだな」

「そこでようやく判断するな。それよりさっさと倒せ」

「ところで人間の男とゴブリンの雌から生まれるのって――」


 ――ダァンッ


『ゲギャッ』

「……はい、すみませんでした。余計なことは考えずに黙って倒します。なので俺にも銃口を向けるのはやめて」


 そう答えると、澪は一瞬だけ俺を見たあと、すぐに繁殖区画へ視線を戻した。


「いちいち惑わされるなよ。それと……常に私の見える範囲にいろ」

「ずっとそばにいてほしい、と」

「お前を監視すると言ったんだ」



 抱卵ゴブリンたちは俺たちを襲わず、腹を守るように身体を丸めた。


 澪が銃口を向けても抵抗しない。戦う役割を持たない個体なのだろう。


 だが、半透明の腹の奥では、一体につき何十匹もの幼体が動いている。これだけの抱卵ゴブリンが一斉に子供を産めば、巣の規模は短期間で何倍にも膨れ上がる。


「誘香ゴブリンが男を誘い込み、世話焼きゴブリンが逃げられないよう管理する。そして、こいつらが子供を産むわけか」


「役割を分担することで、巣全体が一つの組織として動いている」


 壁際には探索者の装備や端末が積み上げられ、その横には男たちの名前、体格、スキルらしき記号を刻んだ石板まで並んでいた。


 澪が石板を調べ、表情を険しくする。



「捕らえた男を選別している。虚素への適性が高い者ほど、奥へ運ばれているようだ」


「強い子供を増やすための種馬選びか。恋人どころか、完全に繁殖用の資源じゃないか」


 人間の言葉も、優しい看病も、愛情を伝える行為も、すべて男を従わせるために覚えた道具なのだ。


 俺たちが拘束された男へ近づくと、周囲にいた探索者たちが抱卵ゴブリンの前へ立ちはだかった。



「それ以上近づくな!」

「俺たちの子供を殺さないでくれ!」


 頬がこけ、立っているのも苦しそうなのに、誰も逃げようとはしない。


 澪は銃を構えたが、男たちと抱卵ゴブリンが重なっているため撃てない。


「司、拘束具はこのままにしておくべきだよな?」


「ああ。今は邪魔された方が困るしな」


 背中から《必中》のナイフを抜く。


 ところが、狙いを定めようとした瞬間、視界が揺れた。


 拘束された男が緑色のゴブリンに見え、その背後の抱卵ゴブリンが人間の女性へ変わる。瞬きをすると元へ戻り、次には澪の身体まで敵の姿と重なった。



「まずい。ゴブリンの奴ら、催眠のフェロモンに細工してきやがったぞ……誰を狙えばいいのか分からなくなってきた」

「私の声を聞け。ナイフを下ろせ」


「俺には澪までゴブリンに見えるぞ」

「撃たれたくなければ、妙な想像をするな」


「見た目がゴブリンでも、中身が澪なら愛せるかもしれない」

「ちっ、ここの処理は後にする。他にも捕らえられた探索者がいないか、先を確かめるぞ」


 澪に腕をつかまれ、男たちを避けながら区画の奥へ進む。



 妙だった。


 これほど強い香りが、別々の個体から勝手に放たれているようには思えない。俺たちが動くたびに幻覚の内容が変わり、男たちも同じタイミングで進路を塞いでくる。


「誰かが巣全体へ指示を出してる」


「私も同じことを考えていた。端末が捉えた巨大な生命反応が、群れの中心だろう」


「そいつが香りを調整してるなら、全部倒さなくてもいい。親玉を止めれば、男たちの洗脳も弱まるはずだ」



 俺たちは非戦闘個体を避け、巣の中心へ続く細い通路へ入った。


 奥へ進むほど、甘い香りは強くなる。


「司。こっちだ」


 前方から、澪の声が聞こえた。


 反射的に振り向く。

 俺の隣には、短い黒髪の澪がいる。


 それなのに暗い通路の先にも、同じ服、同じ傷、同じ灰色の瞳を持つ澪が立っていた。



「司、そいつから離れろ」


 前方の澪が手を伸ばす。


「聞くな。私のそばにいろ」


 隣の澪が俺の腕をつかむ。

 二人はまったく同じ声で、同時に俺の名を呼んだ。


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