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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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75話「令嬢のもとへ」

「ちょっと聞いていい⁉ そのヘアピンを落とした女の子の事なんだけど──!」


 駆け寄った少年の方にウェイターとその先輩であるベテランのウェイトレスは振り向いた。怪訝そうな顔をしながらもウェイトレスがユーシャの声掛けに答える。


「は、はあ……。えぇと、あなた達は一体……?」

「すいませんっ! そのヘアピンの持ち主ってマジュってお名前じゃないですかっ?」


 畳みかけるようにエーダが続く。エーダの声にハッとしてウェイトレスの表情から警戒感が少し薄らいだ。


「マジュちゃんを知っているの? 一体どういう関係で──」

「私達メイドさんに協力して、はぐれたお嬢様を探してるんだよ」


 ユーシャ達はまずは彼女達の信用を得るためにこれまでの経緯を事細かに話した。ウィズアルド家の事、屋敷で仕えるメイドの存在、屋敷の炎上──この件に関しては彼女達の方が知らなかったようだが──の末に大工を探して旅をしている事。話を聞いていくうちにユーシャ達とメイドの関係性がわかってきたのか、一方的に説明するではなく会話になっていった。


「──そう。何故こんな朝早くにマジュちゃんが一人でご飯を食べに来たのか気になったけど、そういう事だったのね」


 口をポカンと開けて話を聞いていた若いウェイターとは違って納得したかのように頷く先輩のウェイトレスは手に持っていた花の形をしたヘアピンをユーシャに渡した。


「わかった。ひとまずあなた達を信用する事にするわ。早く追いかけてマジュちゃんにそれを届けてあげて」

「うん、わかった! ありがとう!」


 マジュの落とし物を受け取ったユーシャ達はこれを見せれば本人かどうか確認できると安堵したが、先輩のウェイトレスは町の外を一人で歩く物好きな女の子なんてそうそういないからすぐにわかると冷静に指摘した。言われてみればもっともな話である。


「よし! じゃあ急ごうか!」


 勢いよく駆け出すユーシャ。だが、エーダがユーシャに待ったをかけた。


「ユーシャっ! お嬢様がどっちの方向に行ったかわかってるの⁉」

「……わかんない」

「お姉さん。お嬢様がどこに行くとか聞いてない?」

「えぇと……確か──」


 西の港町にゴリエット達をずっと待たせてるんだけど、とりあえずお腹空いた──! レストランに入ってきて事情を聞いた時、マジュはそんな事を口にしたらしい。ゴリエット──ウィズアルドの屋敷に仕えるメイド長と交わしたマッカチョッカ大陸西側の港町ホクシーで落ち合う約束を果たすべく、そそくさとご飯を平らげてこの町を出たようだ。


「そっか! じゃあ西側の港町を目指せばお嬢様と会えるな!」

「あのっ、ありがとうございました!」

「ううん、あなた達も気を付けて。マジュちゃんとゴリエット達にもよろしくね」

「おう! そこのお前!」


 あらためて町を出ようとするユーシャ一行に厨房から現れた男が声を掛けた。黒髪の中に混じる少なくない白髪がやたら目立つ男──このレストランの料理長はぎょろっとした目をユーシャに向けて唸るような声で釘を刺した。


「お前それを……マジュちゃんのヘアピンを舐め回すようなマネしたら承知しねえからなあ!」

「そんな事するか‼ いちいち呼び止めてまで言う事かそれ⁉」

「フン! どうだか! お前……かつてこの町をめちゃくちゃにした旅人と同じニオイがするぜ!」

「この町をめちゃくちゃに?……料理長。それってあの……?」


 どうやらベテランウェイトレスも耳にした事があるらしい。──かつてここ、ヌクインに数ある温泉の中には、なんと混浴が出来る所もあったらしいのだ。だが、ある日『自分は勇者だ』と名乗る男がこの町の温泉という温泉を股に掛けて女という女を追いかけ回した事案があったという。以来、混浴が出来るという情報がこんな変態を呼び込んだのかもしれないと、温泉施設全体の取り決めとして混浴を禁止にしたのだった。料理長はその自称勇者と同じニオイ──というよりかは、少年が呼ばれているユーシャという名前に反応しているようにも見えた──を感じ取ったようだ。エーダは少しムッとして料理長に反論した。


「ユーシャはそんな事しませんっ! せいぜい私に自分の裸を見せつけるくらいですっ! ユーシャをそんな変態と──」

「どっこいどっこいになるじゃねえか! 誤解を解こうとして更にこんがらがってんだろ!」


 フアムがヒートアップするユーシャの背中を優しくさすった。おっとりとした口調で冷静に諭す。


「ユーシャ。先手を打たれたくらいでムキになっちゃダメだよ」

「打たれてねえよ! 舐め回す気そもそもさらさらねえよ‼」


 ……。一緒に旅をしてきた仲間にことごとく追い打ちをかけられた。くだらない事してないでさっさと行くぞ──‼ ユーシャは声を荒げて二人に促す。おい──料理長がなおも声を掛けた。


「ヘアピンの匂いを嗅ごうとするなよ」

「うるせえな!」


 いざ、ウィズアルドの令嬢のもとへ──ユーシャ一行は温泉の町ヌクインを後にした。

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