123話「東の祠⑩」
「え? どういうこと? このかわいい顔にちゃんと区別がついてんの⁉」
「まさかとは思うけどこのかわいい顔を位付けしたんじゃないでしょうね⁉」
「否定はしないけどいつまでかわいいって言ってんだ‼」
「ユ、ユーシャっ! このかわいい顔のどっちがマジュちゃんなの⁉」
「エーダもいちいち乗ってくるんじゃない!」
『かわいい』が一つのレーンで大渋滞していた。場にいる一同は、自身に満ち溢れたかわいげのない顔をしたユーシャを見やった。固唾を飲んで次に出てくる言葉を窺う。
ユーシャは胸を張って、体でその自信のほどを表した。若干顎を引き、しかし視線はしっかりと前を見据えて、眼前の二人のマジュ──本物と偽物に向かって力強い口調で言い放った。
「マジュとはまだ仲間になって日も浅い。だけどな、それでも一緒に過ごしたことには違いない」
そう。既に生まれているのだと、ユーシャはどこか大衆を前に演説を行うような口振りで力説した。その口調はさらに熱を帯びていく。そして最高潮に達した。
「俺とマジュの間には強い絆が生まれているんだ! どんな業火でも焼き切ることのできない、青い炎よりも熱い絆がな!」
勇者の演説を全面に受け止めた、黒い髪をたなびかせた品のある装いの少女は、ぼそっとつぶやいた。
「え、きもっ」
少年はにやりと笑った。向かって左側の彼女を見やり、口を開く。
「掛かったな。お前が偽物だ」
勝利宣言をしたかのように悠然と振る舞い、指を差して言葉を叩きつけた。
ユーシャに鋭い目を向けられた彼女は、事態が理解できずに固まっていた。ユーシャが看破した通り、己の顔をかわいいと自画自賛するマジュに化けた偽物──魔物はどうして自分が偽物だと見抜かれたのか、体を硬直させ、表情も微動だにせず必死に思考を張り巡らせた。しかし、どこを辿っても正解に辿り着けない。
どうやら軽口を叩く、ともすれば暴言に近い言葉まで出るほど近しい間柄というのは見てわかった。そして直近に吐いた言葉も学習し、ちゃんと真似たつもりだった。
魔物は揺れていた。何故わかったのかと問うてしまえば、偽物だと自白するようなものである。未だにマジュに化けることを諦めずにいる魔物は、ユーシャを欺くために思慮を巡らせていた。
いつまでも黙ってはいられないと、何とか口から出まかせを吐いて場を繋ぐ。
「信じられない! 仲間を偽物呼ばわりだなんて──」
「まだわかってないみたいだな。隣を見てみろよ」
ユーシャはそう言って目を閉じた。マジュ、ごめん──心の中で謝り倒し、決して右側の彼女を見ることはしなかった。それは、こうなることがわかった上で、こうなることを承知での発言なのであった。マジュへの、申し訳のなさから今の彼女を見ることができなかったのだ。
魔物はマジュそのままの顔で、表情を引きつらせながら恐る恐る隣の本物を見やった。
「エーダ、いざとなったらマジュを頼む」
「う、うんっ。わかったわっ!」
ユーシャに促され、いつでも行動に移せるようにエーダは構えた。
エーダの視線の先、魔物が驚きと困惑の表情を浮かべて凝視しているその先の少女は、この世の全てをその寛容な心で赦しを与える菩薩のように、宇宙すらも包み込むような暖かな笑みを浮かべて仁王立ちしていた。まるでその生涯に一片の悔いもないような堂々とした佇まいで、気を失っていたのだった。




