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「こういうのは知らない内に帰るのがいいと思います」
「佐々木さん!やらかした後始末せずに帰るって最悪じゃないか」
シェリーは何が起こっているのか知らないほうがいいこともあるというが、炎王はそれは駄目だろうという。
だが、炎王の被害は人がどうこうできる規模ではないのだ。
「炎王。ここには陽子さんがいないので、大規模修繕は無理です」
そう、いつも被害を被っているのはダンジョンマスターの陽子なのだ。
シェリーの言葉に頭を抱える炎王。
大規模な被害が起こるのは大抵ダンジョン内なので、そのダンジョンのマスターがダンジョンを破壊されると修繕をして元通りになっているのだ。
だが、もしこの国で太陽が地面を照らしたとなると、人の力ではどうこうできるレベルではない。
「申し訳ない。まさか、この国が一つの世界と認識されるとは思ってなかった。今すぐ帰らせてもらう」
炎王はイゾラの腕を掴んで、立ち上がろうとする。
が、そのイゾラが動く様子がない。
「おい、まだ剣を作ってもらっていない」
「イゾラ。ドワーフの職人に作らせるから怪しい剣は諦めろ」
「炎王!怪しくはないぞ!これは見た目が呪いの剣みたいだが、HPを削りながら攻撃力5倍という付与があるのだ」
「それは呪いの剣だ!それも回収する!」
黒いオーラが立ち上る剣を炎王はシュロスから奪い取るように回収する。
放置していると、シュロスは鬼専用として敵役が用いそうな怪しい剣を作り続けそうだ。
「モルテ王。どの街道が通行可能か、後日担当者を送らせてもらう。詳細はその者に託すので、本日は退席させてもらう」
炎王はモルテ王に商会のことは日を改めるといい、視線をシェリーに移した。
「というわけで佐々木さんも炎国に一旦戻るぞ」
「え?私はオリバーと帰ります」
モルテ王と炎王が話している間も、ロビンの講義は続いていたのだ。
それも次々とオリバーから質問が出てきている。それを丁寧に答えていくロビン。
だから、まだ時間がかかるだろうということが見て取れた。
「佐々木さん。彼らのことを忘れているだろう」
「……え?お好きなように煮るなり焼くなりすればいいと思います。それともシュピンネ族を紹介してくれますか?」
「だから、それは簡単なことじゃないと言っているだろう」
シェリーは未だにシュピンネ族のことを諦めていなかった。
「シュピンネ族?それなら正式に依頼をすればいい話しではないのか?」
そこにモルテ王が口を挟んできた。
それはシュピンネ族の生業をよく知っている者の言葉だった。
「予算が合いません。私がやって欲しいことには莫大な金額を請求されることなので、個人交渉にもっていきたいのですよ」
「それは無理だろう。あれらには個がない。それこそハグレを見つけないかぎりは」
「先日、機会があったので頼もうとしたのですが、その前に断られてしまいました」
「で、あろうな」
モルテ王の認識も炎王と同じだった。シュピンネ族個人に交渉をするのは無理だと。
ただ、『個』がないという意味が不明だ。
シュピンネ族のイスラ・ヴィエントも言っていたが、その個がないゆえに個人契約に持っていけないということだろうか。
「ということなので、そこのシュロスさんは引取ますので、お帰りになって構いません」
面倒なシュロスを引き取ると言っているシェリー。そのシュロスは刃がギザギザの剣を作り出しているので、イゾラがいる限り作り続けそうな勢いだ。
さっさと二人を引き剥がしたほうがいいだろう。
「はぁ、わかった。後ほど送り届ける」
「いらないので返品手続きを陽子さんに頼んでおきます」
「どちらにしろ自力で戻ると思うが?イゾラ、戻るぞ。それでは失礼する」
炎王は慌てるようにして、この場を転移で去っていった。
「えー『妖刀ノコギリ』を創ったのに」
ギザギザの片刃剣を手に持つシュロスから不満の声が漏れている。
それも妖刀とか言っていた。
「シュロスさん。剣はつくらなくていいので大人しく座っていてください」
そんなシュロスに注意するシェリー。まるで子供にしつけるような言い方でだ。
「っていうか、さっきドワーフって言っていなかったか!」
「今更ですか?」
剣を創り出すことに集中していたシュロスは、今になって炎王が興味深いことを言っていたことを思い出す。
そしてシェリーは何を今更言っているのかとため息を吐き出した。
「ってエルフもいるってことか!」
「は?会っているではないですか」
それこそ今更なことを言ってくるシュロス。
「どこに神秘的な美人のお姉さんがいたんだ!変態のウサミミしか知らないぞ。あと頭に角が生えた鬼嫁とか」
「サリー軍曹に蹴られて、オリビアさんに殴られてきてください」
間違ってはいないが、それは口に出してはいけないことだった。
次回水曜日お休みするかもしれません




