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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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 なにかと炎王の役に立ちたいと思っているウエール神だが、常に光の女神が炎王の側にいるので、近づくことさえできなかったのだ。


 その言葉を聞いたウエール神は飛び上がるように身を起こす。


『まままま任せて』


 異様に『ま』が多いが、それを気にすることもなく、ウエール神は空間の中に消えて行ったのだった。


「佐々木さんは、俺の中の神という存在を崩壊させたいのかと思ってしまうのだが?」


 イスラに気を取られているのかと思っていたら、炎王は案外余裕のようだ。

 シェリーとウエール神とのやり取りにシレッと聞き耳を立てている。


「炎王。神も白き神に創られた存在だということを忘れないでくださいね」

「ああ〜それを言われると納得するしかない」

「納得してくれたのなら、それをボコっていいですか?」

「は?」


 シェリーの言葉に炎王が固まる。

 聞き間違えたのかと思い炎王はシェリーに尋ねた。


「佐々木さんがイスラと戦うと?いやいやそもそもレベルもステータスも段違いじゃないか」


 アマツがその名を知っていたように、イスラの強さは世界に轟いていたのだ。だから、レベリオンに目をつけられたのかもしれない。


「シェリー。駄目だ」


 シェリーが炎王の言葉に答える前にカイルが止める。


「シェリーが戦うぐらいなら、俺があいつを黙らす」


 その言葉に、シェリーは大きくため息を吐き出した。聖女を守るためのツガイかもしれないが、シェリーの行動を阻害していることに気が付かないのかと。

 特に最近のカイルのシェリーへの構いようは異常だった。


「超越者ぐらい抑え込めなければ、この先戦え抜けません」


 シェリーの方がレベルが劣っているにも関わらず、『超越者ぐらい』と口にした。

 それは、炎王もカイルも入っている言葉だった。


 最悪誰も期待していないという言葉でもあった。


「超越者で魔王の実力に一番近い存在が目の前にいるのですから、試してみたいではないですか」


 偽悪魔との戦いで、白き神から与えられたスキル創造が、役に立っていなかったのだ。カイルがいなければシェリーは完敗だった。


 そう、この世界の理から外れたものには通用しなかったのだ。


 だからシェリーはこの二ヶ月ほど……いやそのうちラースによって眠らされていた期間はあるが……スキル創造を使えるものにできないかと鍛錬してきたのだ。


 それを試してみたいと口にする。


「炎王のせいで私のスキルはほぼ役立たずですが」

「また嫌味を言われたが、その文句は能力を付与した神に言ってくれ」


 こっちに責任転嫁をするのは違うだろうと炎王は言う。まさにそうなのだが、シェリーがスキル創造に失敗したときの陽子の態度から、成功率が低いことが伺えた。


「言いますよ。本人に言っても暖簾に腕押しですから。カイルさん。時間制限はウエール神が戻ってくるまでていかがでしょう?だからこの手を離してください」


 シェリーは、イスラと戦いたいと口にした瞬間から、腕を掴んできたカイルを見上げた。

 そして一瞬何かを考える素振りを見せる。


「そうですね」


 そう言ってシェリーは腰にあるカバンから、小さな包み紙を取り出した。


「明後日の方向に行っている三人を連れてきてください。恐らく魔素の多さに魔力感知が難しくなっていると思われます。お願いしますね」


 シェリーには珍しく口角を上げてカイルに頼み事をしたのだ。


「これは御駄賃です」


 そして、カバンから取り出した親指の爪ほどの大きさの包み紙を開けた。それを、カイルの口元に持ってくる。

 見た目はミルクティー色の四角い物体だ。


「うわぁ〜佐々木さん。ここで、そうくるのかぁ」


 炎王はシェリーの行動に引いていた。

 そう、これはツガイへの餌付け行動。カイルにとって否定するなど論外と言っていい。


 だが、この状況にカイルは固まってしまい、グレイは羨ましげにキューンキューンと鳴き出す。


 透明な壁の向こう側では、狂ったようにイスラが拳を振るっている状況でだ。


 カイルは内心格闘していた。これを受け取らないという選択はない。だが、これを受け取ると番であるシェリーの願いを聞き入れないといけない。ということは、シェリーから離れなければならないくなる。


 否。これを否定すると、目の前のものがキューンキューンと鳴いているグレイに渡ることになる。


 初めから結果などわかっていた。


 カイルは口を開け、差し出されたものを口に含んだ。


「甘い」

「キャラメルですから、甘いですね」


 そう、どう見てもそこにいる炎王経由で手に入れた市販のキャラメルだった。


「それでは、お願いしますね?」


 シェリーは口角は上げているものの、目は死んだ魚を目を向けているという器用なことをして、カイルを送り出す。


 そのカイルはというと、ご機嫌で白い翼をはためかせて上空に消えていったのだった。


「佐々木さん。番の習性を悪用するなんて酷いな」

「そうですか?私が強くなることを否定するツガイも必要ありません」

「いや、危険から遠ざけたいだけだと思うが……って、さっきからもの凄く尻尾を振っている犬がいるのだが」


 炎王の視線の先には、赤い毛並みの犬が大きく尻尾を振っている背中があった。

 そう、グレイは飼い主から餌をもらえる期待感に満ちて『待て』をしている犬にしか見えなかったのだった。


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