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「神の威ではありませんね。こうしろと言われていませんから」
シェリーは炎王の言葉を否定する。
星の女神ステルラは黒に対する価値観がおかしいのではということを問いかけただけで、命令したわけではない。
「それに、おかしいと思うではないですか。数千年も同じ価値観が浸透し続けるなんて」
数百年でさえ、同じ言葉が違う意味を持つのが、時の流れというものである。
しかし、まるで誰かが誘導したかのように黒に対する否定がされ続けているのだ。
「私も強引だと言われましたが、色々考えているのですよ」
それは過去の王を喚び出して、世界の人々に影響を与える魔術を使わせたことだろう。
「黒って、混じりものですよね」
「あ?黒の色を作る話か?」
「まぁ、そんなものです。ステータスを見ると、それがよくわかると思いませんか?」
同じように、人のステータスを覗き見できる炎王に同意を求めるシェリー。だが、炎王はそれに対して苦笑いを浮かべるのみ。
堂々と人のステータスを覗き見しているなど、言えるはずもない。
「そこの精霊の方。直接はお名前を伺ってはいませんが、知っていますよ。ヴィーネさん。元々の髪の色は違っていたとかありませんか?」
すでに三つ目のアイスを完食した精霊ヴィーネに、シェリーは問いかける。
一抱えするようなアイスの容器が床に転がっているのが見えた。これは少女の大きさしかない彼女からすれば、お腹を壊す量とも言えた。
「ヴィーネは元々は風の精霊だった。だから空と同じ色だったよ」
「そう、風の属性と氷の属性に特化していますよね?」
シェリーは青みがかった白髪の少女を見ていう。髪の色が以前と変わったという少女をだ。
「ここは、誰かの意志でゲーム設定が濃厚に反映された世界です。力の付与。捕食に外見が影響されることもあるでしょう」
「ああ、元骸骨の彼か」
「そうです。二属性です。そして、そこに行き倒れているスーウェンさんだと……」
少し離れた縁側で日向ぼっこをするように、行き倒れているスーウェン。いきなり名をシェリーに呼ばれて、飛び起きた。
「どうかされましたか?ご主人様」
「四属性です。水。風。地。光。それにより色に深みが増しています」
「えっと、何の話ですか?」
名を呼ばれたものの、放心状態だったスーウェンには、話の流れについていけない。
ただ、斜め後方でオロオロとしていた。
「色の話です。では、炎王は如何ですか?」
「純粋な黒は属性以外の特化型が入るとか、言わないよな」
「ああ、それもあるかもしれません。恐らく黒と白には、何か意味があるのだろうと予想しています」
真っ白な色を持つ種族は少ない。
有名なところでいけば、アーク族がそれに当たるだろう。
そして黒の種族は鬼族やシュピンネ族だ。
鬼族もシュピンネ族も一筋縄ではいかない者たちばかり。
「過去に行われた黒の排除。まぁ、これには誰かの意志が絡んでいるのは明白です。しかし、ここに例外の種族がいますよね?」
シェリーは斜め後ろに視線を向ける。
そこにはどうしたものかと、オロオロしているスーウェンが立っているのみ。
「長年世界の王だったエルフ族だな。確かに彼らは白を持つものを排除していた。白者と呼んで、番号が名前だったよな」
炎王はトゲがある言い方をした。
いや、それが本当のことであるなら、白者と言われているものに人権がないように聞こえてくる。
そこで、シェリーが何かをひらめいたように、パンと両手を叩いた。
「あ、それがエルフ族に喧嘩を売ったきっかけですか?」
「売ってねぇ!王が生まれたとか言って粋がって、侵略してきたのはエルフ族の方だ!」
どうもシェリーと話をしていると、時々エンが表に出てくるようだ。
「炎王のことですから、女性関係だと思ったのですが?」
「佐々木さんと同じにしないでくれ。」
「まぁ、お世話になるお姉様方は多いですね」
「そっちじゃねぇ!……そうか、色が薄いと優位な属性が少ないという意味になるのか」
相変わらずのシェリーと炎王の言葉の掛け合いに、イライラ感をあらわにするカイルと、氷の精霊であるヴィーネを見比べる炎王。
この場で色が白に近い二人である。
「それは、俺が弱いと言っているのか?」
苛立ったまま言葉にするカイル。
炎王から馬鹿にされたように思ったのだろう。
「違いますよ。カイルさん」
そこにシェリーがフォローするために声をかける。それが余計にカイルの気に障った。
「あー、シエンがここにいるから、殺気は抑えてくれ」
シエンの部屋からは離れているものの、同じ敷地内だ。どのような影響が発生するのかわからない。
「得意な属性の話です。力は関係ありません。先程ヴィーネさんとカイルさんが戦っていれば、風と氷の属性同士の戦いでしたね。そうすると純粋に力が強い方に軍配が上がることになったでしょう」
同じ属性同士の戦いは相性が悪い。
そうすると、決着がつかず長引く傾向にある。
もしかしたら炎国全土が真冬に逆戻りしていたかもしれない話だった。




