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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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「まぁ、つい最近のことなんだが……」

「シエンさま〜!」


 雪が積もっている庭から悲鳴が聞こえてくる。縁側から、その声の主を心配して名を呼ぶ光の巫女。


「光の女神ルーチェ様から神言があったのだ」

「つい最近なのですか?」

「初代様!シエン様がボロ雑巾のようになって、空に打ち上げられているのですが!」


 炎王は畳の上に座り、ペットボトルのお茶をシェリーに差し出す。

 ここはスーウェンの結界で影響はないが、破壊音が響いてきているため、お茶を淹れに行くのは危険だと判断したのだろう。

 炎王は異界の物をシェリーに差し出したのだ。


「最近と言っても冬ぐらいか。リオンを連れて戻ってきたぐらいだ」


 シェリーはペットボトルのお茶を飲みながら、炎王の言葉に頷く。確かに鬼化するためにリオンは一度炎国に戻っていた。


「初代様!シエン様が!」

「光の巫女。今のシエンは、リリーナの前で俺のことを敬愛していると言った者と同じだ。後で回復してやってくれ」


 炎王は己の番であるリリーナを引き合いに出して、心配する光の巫女を諭した。

 その炎王の言葉に声が出なくなる光の巫女。


「――――――――!!」

「え?誰がそんなことをいうのです?」


 だが、シェリーは炎王の言葉に引いていた。敬愛とは何かと。


「佐々木さん。一応俺はこの国の元国王って知っている?」

「それはもちろん知っていますよ」


 敬意もなにも示さないシェリーが言う。

 だが、それを炎王自身が許しているので、誰も何も言わないだけだ。


「はぁ。話を戻すが、年末と年始に神事が行われる。その時にルーチェ様から神言を承ったのだ」


 光の女神を信仰しているということは、その神を祭り上げる神事が年に何度か行われているのだろう。

 国をまとめていくなかで、宗教というものは必要になってくる。


 それに神の言葉が示されるというのは、神がこの国を守護していると内外に示しているのだ。


「言葉しか与えない女神が、何を言ったのですか?」


 だが、シェリーは皮肉たっぷりに聞き返す。

 他の神は加護を与える。だが光の女神は長年、光の女神を信仰してきた炎王にすら加護を与えていない。

 その女神の言葉を信じるのかという意味だ。


「シエンの病は聖女を得ることで改善すると。だが、聖女はシエン自身が見つけなければならないと。その言葉を聞いて佐々木さんではないということがわかるだろう?」

「そうですか。シエンにとっての聖女という曖昧な言葉ですね」


 世界の聖女であるシェリーは、白き神から聖女の名がつく称号を与えられている。ということは、人々が否定しようが、世界の聖女はシェリーである。


 炎王の話は、シエンの望む者がただ唯一『闇を喰らう者』を抑えられるということだ。


 そのことにシェリーは嫌な予感を覚える。

 雪まみれになりながら、空中を舞っているシエンを視た。


「炎王……」


 シェリーは神妙な顔つきになって、耳打ちをするように炎王の側に行く。それはまるで恐ろしい何かを見たような感じだ。


「シエンさんの番は、まだ生まれて来ていません。ただ漢字表記されています」


 そう、シェリーはシエン・グラシアールのステータスを覗き見したのだ。

 シエンの望む者とは世界に強制された番である可能性を考慮した。すると、シェリーの嫌な予感が当たったらしい。


 シェリーの言葉を聞いた炎王は頭を抱える。


「変革者」


 そう、シエンの未来はその変革者に定められているのだ。その何が問題なのかと言うのか。


「俺達と同じということか」

「はい。きっと番感知はできません」


 炎王とシェリーと同じ、番を番として認識できない変革者。

 二人して静かになった庭の方に視線を向ける。雪と同化した白髪の少年が埋もれているのだ。


 恐らく今の彼の性格から行けば、番感知できない変革者に『僕の聖女になって欲しい』と直球で言っている未来しか見えない。


「誰の許可を得て、俺のシェリーに近づいている」


 遠い目をしている炎王とシェリーに温度がない声が降ってきた。

 声をする方に視線を向ければ、土足のまま畳の上に立っているカイルが見下ろしている。


 シェリーは炎王に内緒話をするように近づいたので、仲良くくっついて隣に座っているように見えてしまう。いや、実際そのとおりだ。


「カイルさん。土足厳禁です。あと寒いです」

「近づいてきたのは佐々木さんの方で、俺は一歩も動いていないからな」


 シェリーは一瞬で室内の温度が氷点下まで下がったことと、畳の上に土足で立っていることをカイルに注意する。


 そこに悪気や戸惑いは一切なかった。

 そして炎王も自分は何もしていないときっぱりと言う。


 だが、それで納得できる者たちではなかっった。


 いつの間にか、炎王とシェリーは囲まれていた。


「何を話していたのですか?初代様」

「やっぱり仲が良すぎるよなぁ」

「ズルい」

「取り敢えず離れましょうか」

「一度、体でわからせたほうがいいのか?」


 シェリーと炎王が、何かと仲がいいことへの不満がつもりにつもっていた。そして、シェリーの番たちの我慢の限界も近かったのだった。



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