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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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 白髪の色白の少年が寝台の上に横たわっている。太陽の下で遊んだことがないような色白さだ。


「もう目が覚めてもいいと思うのですが」


 頭に独特の二本の角が生えた少年を見下ろしながら言うシェリー。

 あれから一日浄化を続け、少年は来た頃とは打って変わって、白一色と言っていい少年だった。


 炎王が白龍だといった意味もわかるというもの。


 その時少年の体が変化を起こした。龍化ではない。

 アマツのように鱗が浮き出てはいない。

 だが、体が一回り……いや二倍に膨れ上がったと言った方が良いのか。


 少年だった姿が突然、ミシミシっと音を立てながら十八歳ぐらいの青年の姿に変化したのだ。


「え?成長するのにも、限度があると思うのですが?」


 その一部始終を側で見ていたシェリーは若干引き気味だ。いくら炎王から龍族の特性を聞いていたとしても、アマツから成長痛が痛かったと聞いていたとしても、限度というのもがあるのが普通だ。


「俺も朝起きたら成長していたなぁ」


 炎王は昔のことを思い出しているかのようにしみじみと頷いている。


「龍族っていったい何ですか?」

「俺にもわからん」


 シェリーの質問に、当の本人でさえ龍族の本質は理解していなかった。


 シェリーはアマツから成長痛が痛かったというのを聞いていたので、シエンに回復魔術をかける。

 すると、まぶたがピクピクと動き出した。


 そして薄目が開き、金色の目が垣間見える。


「シエン。俺がわかるか?」


 ここに居るなかで、唯一シエンが知っているでリオンが声をかけた。

 そう、炎王はシエンが成人するまで、直接会うことができなかったのでシエンは知らない。


「おお……にぃさ……ま」


 枯れた声でリオンを呼ぶシエン。

 長兄であることは認識できているようだ。


「良かったです。本当に良かったです」


 シエンの世話をしていた光の巫女が涙を流し喜んでいる。今回は本当にもう駄目だと思っていたようだ。


 いや、皆が思っていたからこそ、炎王を頼った。そして炎王は聖女であるシェリーに、シエンの浄化を願ったのだ。


「そうだな。本当に良かった」


 炎王は自らシエンの背中を支え起こし、水を飲ませる。長い間眠っていたので、喉が乾燥して引きつっているのだろう。


「あ……しょだい……さま」


 シエンは直接会ったことがない炎王を認識していたようだ。いや、鬼族ではない二本の角を持つ存在は、炎国では一人しかいない。

 だから、必然的に己の祖と理解できるのだ。


「ぼくは……」


 シエンが何かを言おうとしたとき、盛大な腹の虫が辺りに響き渡る。

 そして顔を真赤にするシエン。


 肉体は浄化され、回復魔術もかけられ健康そのものになった体は、眠っていた分と成長につかったエネルギー補給を要求していた。


「こ……これは……」


 本人が何か言い訳を考えようにも体は素直なもので、腹の虫は鳴り止まない。


「成長したあとは腹が減るよな。何かガッツリと食べられるものを用意しよう」

「私が作りましょう。炎王は側についてあげてください。リオンさんもです」


 シェリーはもう大丈夫そうだと、シエンの側から離れ、炎王にはそのままいるように促す。

 誰か知らないシェリーがいるよりも、炎王が側にいたほうがいいだろうという気遣いからだ。


「それじゃ、手伝うよ」


 食事を作るシェリーを手伝うのは、己の特権だと言わんばかりにカイルはシェリーの後を追うのだった。




「あの……あの方は?」


 黒髪だがどう見ても角はなく、人族にしか見えないシェリーを目で追いかけるシエン。


 黒髪の人族が、この炎国にいることが珍しいのだろう。

 そう、炎国に住まう人族は光の女神ルーチェを崇め祀る巫女の一族が一般的だからだ。ここでシエンの回復を喜んでいる銀髪の巫女のようにだ。


「聖女様です。初代様がわざわざ出向いて、ここまで来てもらったのです」

「え?初代様が?」


 水を飲み衣服を整えられ、思考がはっきりとしてきたのだろう。質問に答えてくれた光の巫女に驚きの声を上げるシエン。


 そして、この国では誰しも頭が上がらない炎国を築いた初代王を見上げる。


 己のために初代国王が動いてくれたという驚きだ。


「あ……ありがとうございます。とても身に余る光栄です」


 炎王に向かって、寝台から降りて深々と頭を下げるシエン。

 よくシェリーと陽子にいじられている炎王だが、炎国では尊き存在と位置づけされている。


 そんなシエンを軽々と抱え寝台に戻す炎王。同じ龍でも、その力の差は月とスッポンと言えるだろう。


「礼なら佐々……聖女に言ってくれ、二日間もシエンの為に浄化をし続けてくれたのだ」


 炎王自身は何もしていないという風だが、シェリーが困らないように自ら動いていたのは炎王だ。

 だが、それは依頼者として当たり前だと捉えている。


「聖女。あの方は聖女なのですか?」


 光の巫女が説明していたが、炎王の言葉ではっきりと認識したらしい。シェリーが聖女だと。


 それも何故かキラキラした目で炎王に視線を向けるシエン。

 歴代の聖女の話は炎国でも伝わっているのだろう。


 期待と希望の色が、シエンの金色の瞳に映されていたのだった。



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