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翌朝の朝日が昇った頃には、シェリーはシエンの浄化をしていた。
「朝早くから悪いな」
炎王がおにぎりを持って、離れにやってきた。シエンの側にはシェリーと光の巫女がついており、シェリーの番たちは側にいなかった。
「初代様!お食事は私が用意しますと申しておりましたのに」
白い着物に赤い袴を履いた銀髪の女性が慌てて、手に持っていた桶を床に置き、炎王の側に行く。
「シエンの世話をしてくれているんだ。おむすびぐらい作れるぞ」
「梅干しと鮭がいいです」
おむすびを持っている炎王にシェリーは自分の要望を口にする。それはおにぎりの具材だ。
「あ……梅干しは人気がないから、作ってないな」
「おむすびと言えば梅干しでしょう」
「それじゃ、塩むすびに梅干しをつけるか」
炎王はどこからか梅干しのパックを取り出して、白いおむすびの真ん中に箸でゴリッと赤い梅干しを突っ込んで、シェリーに差し出す。
「ありがとうござ……」
「何をシェリーに与えているんだ?」
シェリーがお皿からおむすびを取ったところで、炎王の肩に手が置かれた。
「君たちは、そこの庭で訓練をしていたんじゃないのか?」
炎王は呆れ顔で後ろを振り返って、カイルに言う。
そう、シェリーの側にいなかったのは、離の障子の扉を開け放った状態で、日課の訓練をしていただけだった。
そして、炎王がやってきたことを目ざとく見つけたカイルが、炎王の背後に近づいたのだ。
「あと、今日の朝食はこれだから、好きなように食べろ」
炎王は大皿に盛られたおにぎりを指しながらいう。
「ちなみに一つだけハズレがある」
意趣返しのように、おにぎりの一つになにか仕込んでいるようだ。炎王はニヤニヤしている。
そう、散々彼らから関係ないのに嫉妬され、殺気をぶつけられてきたのだ。ちょっとした仕返しを仕込んだのだろう。
「ちなみに中身は何が入っているのですか?」
「わさびだ!」
シェリーの問いに堂々と答える炎王。
「これが、当たりです。お醤油が欲しいですね。あと玉露と」
「はっ!さっきの梅干し!佐々木さん悪い!」
若干涙目のシェリーが炎王に訴えるのだった。
梅干しわさびおにぎりを食べきったシェリーは出された玉露を飲みながら言う。
「あと一日ぐらいで、浄化は終わりそうです。あと気になったのですが、シエンさんは白髪ですか?」
シェリーは寝台に横になっている少年の伸びた毛先を指している。
髪は鬼族や炎王に似て、黒色だと思っていたが、浄化を進めていくと髪先が白く変化したようだ。
「ああ、白龍だ」
「その龍人のシステムが良くわからないのですが?」
シェリーに食後のケーキを差し出しながら答える炎王。
意趣返しのハズが、シェリーにわさび入りおにぎりが当たってしまったことに、落ち込んでいるようだ。いつもの覇気がない。
「いや、アマツが水龍だからそっちの系統がでたのではないのか?」
「何処が関係するのですか?」
どうにか理由付けをしようとしたらしいが、どう考えてもアマツが水龍であることは関係ないだろう。
「これって、手で食べるのか?」
「そうだが、それがどうした?」
「パンと同じと思えばいいのですか?」
「そう言えば、これの小さいのを、シェリーが作っていなかったか?」
「ん?なんか目とか口とかついているやつだったか?」
「同じように見えませんが?」
以前佐々木が表に出てきたときにやらかしてしまったことを、炎王の背後で口にしているグレイたち。
それが聞こえてきたシェリーは両手で顔を覆ってしまっていた。佐々木がやらかしたことだが。
「そう言えば、あれから作ってくれないね」
シェリーの横を陣取っているカイルが疑問を口にする。
「あれは、子供がご飯を楽しく食べるようの料理だから、普通は出さないだろうな」
答えないシェリーの代わりに、その場を目撃していた炎王が答える。ルークの為に作っていた料理を無意識で佐々木が作っていた理由をだ。
「と……取り敢えず、白髪でいいのでしたら、それでいいのです」
シェリーは両手で顔を覆ったまま言う。シェリーとしては珍しい光景だ。それほどシェリーとしてはやらかした感があったのだろう。
そして切り替えるようにシェリーは大きく息を吐き出して、浄化の続きを始める。
「シェリー。ケーキ食べる?」
「今はいいです」
炎王を挟んだ向こう側でキャラクターを模したおにぎりや、料理の話が続いているので、現実逃避をするようにシェリーは自分のやるべきことを再開したのだ。
「俺はそれを食べていないが?」
「リオンは、いなかったからな」
「仕方がないですよね」
そう、そのときはまだリオンがカークス邸にいなかった為に、その話を知らないので根掘り葉掘り聞いてるのだ。
「リオンには、佐々木さんにキャラ弁を作ってもらったから、食べているぞ」
そこに炎王の爆弾発言が降ってきた。
「ちょっとリオンどういうことだ?」
「キャラ弁って何ですか?」
「知らないふりしていたってことか?ちょっと表に出ろ」
「キャラ弁?」
キャラ弁と言われても、リオンの中では黄色いネズミのキャラクターのオムライス弁当と重ならないのだった。




