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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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 シェリーが浄化を始めて三刻(六時間)ほど経った。外は既に暗く雪混じりの風が障子を揺らし始めいる。

 室内は薄暗く行灯の明かりしかない。その中でシェリーは皮膚まで黒い少年に向かって浄化をし続けているのだ。


 そこにおもむろに障子の引き戸を開けて入ってくる者がいた。炎王だ。


 背後からは雨戸を閉める音が響いているので、他にも人がいるのだろう。


「佐々木さん。続きは明日にしよう。夕食を用意したから、一緒に食べようか」


 その言葉にシェリーは少し疲れた様子で、炎王に視線を向けた。流石に三刻(六時間)もぶっ通しで浄化をし続けて疲れてきているのだろう。


「炎王。彼らを訓練してくれる話はどうなったのですか?してくれるなら、私はまだいけますけど?」


 違った。シェリーの周りで動けないシェリーを構おうとしている者たちがウザいと言いたいようだ。


「それは都に戻ってからだ。六時間以上休憩なしに働かせると訴えられるからな」

「それは、どこの法律を出してきたのですか?」


 炎国に、そのような法があるのかわからないが、昔に聞いたことがある言葉にシェリーは思わずフッと笑みを浮かべる。


「残業なんて当たり前で、昼食が夜ご飯になることなんて、よくありましたよ」

「ガキの頃、その感覚でぶっ倒れるまで働いて、凄く怒られたから休憩だ」


 炎王は、シェリーの言いたいことがわかり、クツクツと笑いながら己の失敗の話をする。


「そうなのですか?」

「そうだ。俺が働き過ぎると、ルギアとかソルとかが、直ぐに飯を食いに来るんだ。一緒に食べようってな」


 だから炎王も浄化をし続けているシェリーに向かって、一緒に食事をしようと言ったのだろう。

 昔、己が英雄たちにされたようにだ。


 クツクツと笑う炎王に、シェリーは立ち上がりながら、疑問を口にする。


「父親と呼ばないのですね」


 シェリーの言葉に、炎王は虚をつれたかのように笑うのをやめ、目を大きく開いた。

 そして何かを吐き出すように、大きく息を吐く炎王。


「見た目がそっくりで散々からかわれたから、ルギアは父親という感覚はないな」


 ルギア。ギラン共和国で英雄として祀り上げられている者の一人の名だ。そして炎王の血縁上の父親。


「まぁ、孤児というのもあって、父親なんていないって反発していたのもあったが……食事が冷めてしまうから、こっちに来てくれ。その間は、巫女がシエンを見てくれるから」


 なにか続きを話そうとしていた炎王は言葉を止め、元々の目的を口にした。

 恐らく炎王とルギアの関係は、複雑なのだろう。


 そして、炎王の背後には巫女のコスプレをした女性が、床に正座をして凛とした姿でいる。

 炎王とは正反対の銀髪で色白の女性だ。


 その巫女服を着た女性を見て、シェリーはジト目で炎王を見る。


「このコスプレは強制ですか?」

「だから、これは俺が決めたわけじゃないと以前言っただろう!」

「食事ができたのなら、さっさと案内しろ!」


 シェリーと炎王が、いつも通りの感じで話だしたことに、カイルが割って入ってきた。


「こっちだ。言っておくが、この屋敷内に客人をもてなす要素はないから、食事の出し方に文句は聞かないぞ」


 炎王やリオンが訪れているので、王族をもてなす用意はあるはずだ。

 これは、外の国から客をもてなす想定はされていないと言うことなのだろう。



 案内され、用意された食事を見て、シェリーは声を上げる。


「炎王。すごくいいです」


 シェリーにしてはこころなしか、テンションが高かった。

 そう、目の前の食事は、畳の上で食べるようの御膳に食事がところ狭しと一人分ずつ用意されていたのだ。


「大きな物を置くと、物が飛んでいったときに危険だろう?」

「普通は飛ばないです」

「飛ばないのだが、重いテーブルが壁を貫通することもあるのだ」


 どうやら、シエン対策のために、食事をするための大きなテーブルは置いていないらしい。


 だから、畳の上で食べる御膳が人数分用意されているということだった。


「貫通ぐらいはありますね。ですから、屋敷内の固定家具は動かないように、魔術で固定をしていますよ」

「その原因が俺を背後から睨んでいる奴らとかいう話だろう?」

「いいえ、オリバーの実験で屋敷の一部が吹っ飛ぶことが何度かありましたので」

「そっちか!まぁ、食べてくれ」


 シェリーはサクサクと室内を進んで、一番端の席について、いつも通り手を合わせて食べ始める。


「これって床に座って食べるのか?」

「外で食べているときみたいだな」

「何を言っている。この国ではこの食べ方が多いのだ」

「やはり炎国は変わった文化をお持ちですね」


 ちゃっかりとシェリーの横を陣取ったカイルは無言で炎王を威圧する。そして初めて見る食卓に戸惑う者たち。

 御膳をしれっと持ち上げて、シェリーの隣……カイルの反対側に御膳を置くリオン。


「リオン。てめぇ!それはズルいぞ!」

「あ……これって持って移動できるのか」


 リオンのマネをして御膳持ち上げようとするグレイに、既に食事を始めていたシェリーから声がかかった。


「それは、無作法ですよ。グレイさん」

「おい!リオン。シェリーから行儀が悪いと言われているぞ」

「別にいいだろう」


「毎日楽しそうだな。佐々木さん」

「炎王。それは過去の自分に言ってください」

「ぐふっ……」


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