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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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「ここだ」


 炎王が案内をした場所は、外廊下で繋がっている離れだった。

 本人は離れにいるにも関わらず、影響は屋敷内だけではなく、外に漏れ出ているなど、尋常ではないということだ。


 それもシェリーの目には聖結界(サンクチュアリ)を施しているのに、黒いモヤが離れから漏れ出ている。


 普通ではありえないことだった。

 浄化されない悪心。


 もう、魔人化しているのではないのだろうか。


「シエン。入るぞ」


 炎王は一言断って、障子の引き戸を開ける。それにより、吹き出してきた黒いモヤにシェリーは思わず口と鼻を手で覆った。


「炎王。この屋敷には誰もいないのですか?」


 流石にこの状況に、この屋敷内の者たちのことを気にするシェリー。長期間、この悪心にさらされていれば、普通の人も影響を受けていもおかしくはない。


「いるが、今日は下がっているように言っている。だから最悪屋敷を壊しても構わない」


 この言葉からシェリーが暴れる可能性も考慮されていることがわかる。


「壊しませんよ。ただ、ここまで酷いと影響を受けていないのかと思いまして」

「ああ、ついているのは『光の巫女』の誰かだから問題ないと聞いている」


 どうやら、光属性が使える者が側につくようになっているらしい。それであれば、本人の影響は抑えられているだろう。


 炎王は黒いモヤが漏れ出ている中に入っていく。シェリーも目を凝らしながら炎王の背を追いかけて室内に入った。


 そこはシンプルな八畳間の板間に寝台が置かれただけの室内だった。

 横たわっている者の様子をみて、シェリーは顔をしかめる。


「これで魔人化していないのですか?」

「シエンの体力じゃ、魔人化というより衰弱死だと俺は思っているんだが」


 シェリーの言葉に、炎王は魔人化する余地すらないと言った。ただ、シェリーの表情は変わらない。

 これは何なのだという疑問がその表情から見て取れた。


「人が黒いのですが?」

「黒いのがシエンだ」


 二人の言葉からシェリーの目と炎王の目で見ているものは同じということがわかる。

 寝台の上には力なく横たわっている少年がいるものの、目が固く閉じられ、目がくぼみ、頬が痩けている。呼吸は浅くなんとか生きているのが見て取れた。

 ここまではいい。病弱な者に見られる姿だからだ。


 髪が黒いのは鬼族や炎王の血の所為だろう。

 だが、皮膚まで真っ黒なのだ。


 炎王もそのように見えていることから、闇を食らう者という称号は本人自身の姿にも影響を与えているようだ。


「これだと、本当に一時的な改善ですよ」


 称号があるかぎり、シエンは闇を取り込み続けるのだ。シェリーができるのは対処療法でしかない。


「構わない。やっと龍になったところなのだ。シエンはシエンの道を歩いて欲しい」


 やっと龍になった。

 それは炎王と同じ頭に生えている二本の角のことだろう。


 龍人は己の子だろうと、龍になっていない同族に嫌悪感を抱く。それが世界の理だ。


 この離れた地にシエンがいるのは、幼いシエンが間違って炎王に会わないためでもあったのだ。


 アマツも言っていたが、理性ではどうしようもない本能が、彼らに拒否反応を生み出す。


 そして、炎王が会うことができるようになれば、シエンはこの有り様だった。


 いくら権力を持っていても、チートな力を持っていても、ただ一つ持っていない所為で炎王は、一族の中の唯一に何もしてやれなかったのだ。


 それが聖属性だった。


「俺は、いつかシエンをこの手にかけなければならないのかもしれない。だが、生まれてきたのであれば、生きて欲しい」


 一族の長として、一族の害になる存在となるのであれば、炎王は同族のシエンをその手で殺さなければならない。

 だが、それも覚悟の上で炎王は言っている。


 生きて欲しいと。


「わかっています。少し時間がかかりそうなので、部屋の外にいてもらっていいですよ」


 シェリーはそう言って鞄から出した小瓶を一気に煽った。オリバー作激マズ回復薬だ。

 そしてすぐに別のオレンジ色の液体が入った小瓶を取り出して飲む。激マズ回復を冒険者たちが使用するために試しに試した中和剤を飲み干した。


「いや、ここにいる」


 炎王は部屋の隅にある椅子を引っ張ってきて、少し離れたところに腰を下ろした。


「君たちも適当にしているといい。佐々木さんが時間がかかると言ったら、本当にかかるのだろうからな」


 炎王もチートだが、シェリーは聖女の能力がチートだ。そのシェリーが浄化に時間がかかると口にしたことは一度もなかった。


 ということは、シエンの浄化はそれほど厄介だということになる。


「魔人を普通の人に戻すぐらい面倒ですね」


 それは人としての本質が変化してしまっていると言っていないだろうか。


 シェリーはシエンの上にある掛け布団を剥ぎ取る。

 浴衣のようなものを着て横になっているシエンの指先や足の先まで皮膚が黒い。


「成人していると聞いたのですが、小さいですね。これも闇を食らう者の影響ですか?」

「いや、それは龍族の特性だ。十歳ぐらいから成長が止まって、成人後に成長するんだが、シエンはまだ成長するに至っていない」


 そう、寝台の上に横たわっているシエンは、どう見ても十歳ぐらいにしか見えなかったのだった。


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