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「だから。シュピンネ族の見えない糸を使って発動する魔術を作っていますよね!」
シェリーはガーデンテーブルをバンバンと叩きながら、炎王に説明を求めていた。そんなシェリーをカイルはちゃっかりと抱きかかえて座っている。
「別にそこにこだわらなくても良いんじゃないのか?」
そのガーデンテーブルの上に広げられたポテチをバリバリと食べているクロードがいう。
「使えるか使えないかの判断は、クロードさんではなく、私がするのです」
シェリーとしては、実用性がどれほどあるのか試したいものの、その魔術を作り出すスキルが構築できないのだ。
使えるか使えないかの判断すらできない。
「なぁ」
そこに真面目な顔で声のトーンを落としたシュロスが発言する。
「塩もいいが、海苔はないのか?あと、黒いのは犬でいいのか?」
シェリーの斜め前に座るシュロスは、炎王を見ながら要望を出しつつ、クロードを指しながら言ってはいけない言葉を言ってしまった。
「あ?誰が犬だって?」
「だって陽子さんにワンコって呼ばれているんだろう?そういえば、この前もっと話をしたかったのに、陽子さんに強制的に回収されたからな」
これはもしかして、クロードをクストと勘違いしているのではないのか。確かに似てはいるだろうが、本人ではない。
これは、シュロスの言う見たことがない種族とは、クロードとクストのことだったのだろうか。
炎王とは一度自己紹介をしているので、やはりクロードのことだったのだろう。
「陽子さんが回収しないと後々面倒になっていたのが目に見えていたからだよ」
そう言う陽子は、シェリーの背後から炎王が出してきた海苔味のポテチを奪い取り一人で食べようとしている。
「あー!俺がリクエストしたんだぞ!」
「一人で食べようとするな!」
「地下に引きこもっていると約束を破ったシュロス君に食べさせるものはないよ」
「なんだかんだと、上手くやっているみたいだな、彼」
元が怪しい鎧だったと知っている炎王が苦笑いを浮かべながら言った。
「話題を変えようとしても無駄ですよ」
そんな炎王にシェリーは、頑として質問を譲らないと言い張るのだった。
「そろそろ、俺がここに来た話をしていいか?」
洗いざらい魔術創造で創った内容をシェリーによって開示した炎王は少々疲れた感じで言う。
そもそも炎王がわざわざシェリーを尋ねてきたということは、用があったはずだ。
「ちっ!」
しかし今はシェリーのスキル創造を構築するために、時間を割いている。
「すっげー!これってアレだろう!ものの……イテッ!」
「シュロス君。近所迷惑になるから、大声で話さないって何度も陽子さんが言っているよね」
「あー……。俺もあっち側に行ってドッチボールしたい」
シェリーに舌打ちされた炎王は遠い目をしながら、裏庭で二陣に分かれて、丸い玉を投げ合っている者たちを見ている。
「アレをドッチボールと表現する炎王も炎王ですね」
シェリーが指摘するように、ドッチボールといわれると首を捻ってしまう光景が繰り広げられていた。
そもそもの発端はお菓子を食べて満足したシュロスが言い出したのだ。
「ドッチボールしようぜ」と、
「シュロス君。人数が足りないから無理ってわからないのかなぁ?」
「え?王様と佐々木さんは参加しなくても、他のヤツは参加するよな」
他のヤツとは、誰を指しているのだろうか。陽子とクロードのみではドッチボールは成立しない。何故なら最低四人はいないと、陣の外に出たボールを受ける者がいないからだ。
「佐々木さんの番の四人だろう?佐々木さんのとーちゃんだろう?」
「ひっ!大魔導師様をいれちゃだめ」
「あと、あのじぃちゃんに、クロードに陽子さん」
「陽子さんと大魔導師様は入れない」
「えー。それじゃ、佐々木さんの彼氏も入れるか。ルールは簡単。相手にボールをバシバシと当てたらいい」
強引にカイルも引き入れたシュロスは、適当なルールを口にして、遊びを始めたのだった。
「巨大犬かっけー!」
「狼だと言っただろうが!」
巨大な黒い獣になったクロードが、全身を使い凶器というべき太い尻尾でボールを跳ね飛ばす。
鎧に白い翼が生えたシュロスが空中で受け止め、『スーパートルネード』と言いながら投げ返している。
そして形がゆがむほど回転しているボールが、イスラに当たるかと思いきや、何もないところで跳ね返され、ボールが打ち上げられた。
高く飛び上がったボールを空を駆けながら追いかけるグレイ。もちろん、大型犬の姿である。
「ほら!そこもっと宙を足で掴んで蹴り上げろ!全然スピードが足りねぇーぞ!」
グレイにもっとスピードを上げろと無茶振りをするクロード。グレイがボールに追いつこうとしたその時、横からかっさらっていくオルクス。
「そこの豹獣人!制御できねぇなら飛ぶんじゃねぇ!それ縦移動に使う技じゃねぇだろうが!」
オルクスの無茶な行動に怒るクロード。その横にはフォッフォッフォッと笑うイスラがいるのだ。
「たぶん。あの体育館はこんなふうに使うためだったんだろうな」
ドッチボールと表現していいのかどうかの答えを濁すように、炎王は言った。そう、空島の中枢にあった謎の体育館を模した場所のことだ。
もしかしたら、本当に遊ぶための場所だったのかもしれない。




