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「これ、私では無理ね」
既に日が落ちて魔術でともされた明かりの下で、赤い髪をかき上げるようにうんざりと言うエリザベート。
「剣が得意ではない私で、この体たらくってありえないわ」
そう呟くエリザベートの足元には、ピクリとも動かなくなった死体……四人がいた。
体力が低いスーウェンならわかるが、獣人であるオルクスとグレイ。鬼族であるリオンまでも地面から起き上がれないようだ。
「基礎からやり直すことね」
そう言葉を吐き捨てる大魔女。その中には魔導師である自分より弱い、獣人や鬼族に教えることはないと言いたいのだろう。
基礎体力が足りないと。
「あと、そこのエルフ君。君、プラエフェクトより出来が悪いってどういうこと?今のエルフ共が劣化しているのかしら?私が行きていた頃よりも劣化しているわ」
聞いているのか聞いていないのか、反応がないスーウェンに問いかけているため、エリザベートの独り言のようになってしまっている。
「時代なのかしら?私が生きていた頃は、獣人たちはもっと好戦的だったわよ」
確かに時代と言えば、時代なのかもしれない。
エルフの王が倒されて衰退していくエルフ族。
勇者ナオフミが魔王を倒したことにより、いっときの平穏が訪れた。
そして炎国は絶対なる強者の炎王がいるため、外敵による侵略など、混乱に陥る前に解決される。
命を脅かす脅威にさらされなかったために、力を求めなくなったとも言える。
そう、平穏の日々を守る力さえあればいいのだ。
「私が敵なら一瞬で死んでいたわよ」
何も反応を示さない死屍累々に怒りを顕にするエリザベート。そこに水を差す者が現れた。
「おい!今度は何をしでかしている!」
「不法侵入ですよ。第六師団長さん」
裏庭に突如として現れたのは、第六師団長のクストだった。そしてその背後には副師団長のルジオーネもいる。
「何が不法侵入だ!カークス邸で怪しい光が浮かんでいると通報を受けてきたんだ!今度は何をしでかしているんだ!」
何かをしていると決めつけているクストは、上空で光っているモノを指しながら言う。
そう、日が落ちても明るい理由は上空で円状に光っている陣の所為だった。その下では白髪の鎧をまとった人物と、金髪の伶人が何かを話している。
そしてシェリーの目には黒いフードを被ったモノも見えていた。
「結界魔術の解説と解析を双方しているものの、意志の疎通が上手く行かずに長引いているという感じです」
「そう言うことを聞いてないだろう!アレは何なのかと聞いているんだ!」
シェリーとしては、あの陣が長時間存在している理由を言ったのだが、警邏を任されているクストとしては、何の魔術か聞きたかったらしい。
双方の意志の疎通が、ここでも上手くいっていなかった。
「ただの結界です。しかし……」
「しかし?」
「珍しい結界らしく、解析をしているので、まだ時間がかかりそうです」
「あ?お前らがやったのだろうが!わからないってどういうことだ?」
相変わらずのシェリーとのやり取りに、イライラ感を顕にするクスト。それを背後のルジオーネはいつも通りだと苦笑いを浮かべている。
「あら?中途半端だけど、貴方のほうが断然ましね」
そこにエリザベートがクストに話しかけてきた。
中途半端、それはクストの獣化のことを言っているのだろうか?
「黒狼って存在したのかしら?初めて見るわ」
これは種族的に存在しなかった黒狼のことを言っているのだろう。しかし、クストの種族は青狼だ。
「お前は誰だ?」
黒狼を唯一名乗れるのは、祖父であるクロードのみ。黒狼という名はそれ程、彼らにとって偉大なのだ。
それを簡単に口にする無礼な者は誰だと、クストのイライラ度は上がっていっている。
「エリザベートよ。そうね、赤き魔女の通りなの方が有名かしら?」
その言葉にクストとルジオーネは思考が止まってしまったかのように、呆然とした。
赤き魔女の名を知らないものなど、生まれたばかりの赤子ぐらいだろう。
子供の頃には赤き魔女の逸話を話され、魔女を怒らせたものの末路を語られるのだ。
いわゆるいい子にしないと、魔女に食べられるぞという謳い文句がついてくる教育方だ。
そして、何か思い当たったのかクストはシェリーをジト目で見る。
「おい。またか。また爺様と同じヤツなのか」
己の祖父であるクロードを現世に召喚したように、大魔女と呼ばれた者も現世に召喚したのかと言いたいようだ。
「そうですが、何か?」
シェリーは、それぐらい何も問題はないだろうと言わんばかりの態度で聞き返す。
しかし、色々な逸話が現代でも伝わっている大魔女だ。
それをそうですかと、受け入れる度量はクストには存在しない。
「お前には常識というものがないのか!世界に多大なる影響を与えた大魔女を喚び出すやつがあるか!」
「クスト。彼女に常識があれば、我々の日々は平穏で終わっていましたよ」
クストの背後からルジオーネがつっこんできた。シェリーの常識は非常識。それが彼らの中での常識だった。
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