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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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「うわぁ。大魔導師様の結界が軋んでいるよ」


 陽子が不安そうにしながら言う。屋敷の周りに施された結界ではなく、裏庭を覆った結界だ。


 先程からギチギチと内側からの力に耐えきれずに鳴いていた。


「だったら、ヨーコも結界を張ればよい」

「大魔導師様。陽子さんが結界を張ると、ここが要塞化するから駄目だよ」

「要塞!それ見てみたい!」

「シュロス君。そんなことすれば、黒わんこ君二号がくるから駄目だよ」


 人の姿をしているが、大魔女から参戦を否定された者たちが結界の外から、大魔女の戦いを見ていた。


 陽子は別だが、珍しくオリバーが大魔女と手合わせをしたいと言ったのだ。


「俺も大魔女から指南を受けたい」と。

 だが、「貴方はロビンに引けを取らないでしょう?」と言われたのだ。


 これはどういう意味なのか。


 オリバーは古来から使われていた術式ではなく、黒のエルフが改変した術式を使っている。

 それに魔導師と剣聖を同等のように言うのもおかしなものだ。


 だが、その意を汲み取れば、魔導師を名乗っているが、武術も熟練者並に扱えるということになる。

 流石、魔王討伐戦の前線で戦ってきた者と言えばいいのか。超越者であり特異者と呼ばれた者だったからと言えばいいのか。


 そして勿論シュロスも「あの魔術書を書いたヤツが気になる」と言ったものの、エリザベートから「得体がわからなさ過ぎて、駄目」と言われたのだ。


 そのエリザベートを中心とした裏庭の現状は、水で満たされていた。


 裏庭の足元が水浸しになっているのではない。オリバーが張っている結界内を余すことなく水で満たされていたのだ。

 ここで動いているのは、天地が逆になったように水中で赤い髪を揺らめかせている大魔女のみ。

 始まって数分しかまだ経っていない状況だった。


 そして、一瞬にして水が消え去り、赤い鞄にの上に座り直すエリザベート。その下の地面に落ちていく水死体たち。

 いや、ゴホゴホと噎せていることから、生きてはいるようだ。


「水中で戦えないの?よっわっ!」


 エリザベートは、水中ではまともに戦うことができなかった者たちに、呆れた視線を向けていた。


 だが、これは確かにカイルの参戦を断るわけだ。カイルであれば、全てを凍らせて逆にエリザベートの動きを封じただろう。


「ゴッホッ!どうやって戦えって言うんだ!」


 そこに逆ギレするオルクスの声が響き渡る。


 そんなオルクスの言葉が聞こえないのか、エリザベートは赤い髪をなびかせながら、シェリーの元に浮かびながら来た。


「水中戦は考慮していないの?」

「彼らのことは私は関与しません」

「えっと空中戦は?」

「知りませんよ」


 シェリーの言葉に眉をひそめるエリザベート。シェリーの態度が悪いと思っているのだろうか。


「もしかして、基礎がなっていないと言っているの?聖女の守護者が?この体たらく?勘違い野郎のプラエフェクトよりも使えないじゃない」


 歴史に名を残す猛将プラエフェクト将軍の名を出すのもおかしなものだが、そもそも水中での戦いを考慮する必要があるのだろうか。


「そこの魔女!大技を使うなんて卑怯だぞ!一対一で戦え!」


 無視をし続けているエリザベートに対してオルクスが言い続けている。


 だが、その言葉がエリザベートの癪に障ったのか、シェリーの目の前から消え去り、オルクスの前に突如として現れた。転移である。


 そのエリザベートは赤い鞄から飛び降りつつ、オルクスに向かって足を振り上げた。

 そして、そのまま赤いヒールを叩きつけるようにオルクスの肩に叩き込む。


「魔導師の欠点はわかる?それは魔力の枯渇よ。魔力が枯渇しても生き延びる手段を持っていて当然。武術を極めない魔導師は死ぬしかないのよ?それがラースの教え」


 肩に踵落としを食らったオルクスは、有無を言うこともなく地面に伏していた。


 しかし、ラース家を去ったエリザベートがラースの教えを口にするのも疑問に思うことだ。だが、この言葉からラース家の事情がわかると言うもの。


 聖女ビアンカがキメラを一撃で倒したという逸話。

 筋肉ムキムキのクセに魔導師のオーウィルディア。

 魔人化したとは言え、剣を持って次元の悪魔を倒していった大公ミゲルロディア。


 これは魔術も武術も扱えるように教育されてきたことがわかる。

 それはラースの国を守るためでもあるが、生き延びる手段でもあったということだ。


 だがそうなってくるとグレイの弱さが異常に映ってしまう。何故、これほどまで、中途半端なのか。


 女神ナディアの神言があったといえ、教育不足だったと言えるだろう。


「それから金狼の君!何故ラース家の剣技じゃないの?何も特性のない水ぐらい突破できるでしょう!」


 ラース家の剣技ではない。それはどういうことなのか。


 地面でまだ噎せているグレイの側に行き、エリザベートは覗き込むように首を傾げながらグレイを見る。


「ラース家はラースの子であると共に、神兵である。そう教えられなかったの?なに?今の教育が甘すぎるってこと?私が血反吐を吐きながらやって来たことは何だったの?それとも君が愛し子ということで甘えていたってことかしら?」


 エリザベートの元の立場は次代の大公の婚約者だった。ならば、その教育も普通ではなかったのかもしれない。


「それともラース家から逃げたかった?」


 エリザベートのその言葉に、ビクっと肩を揺らすグレイ。


「そうよね。獣人だものね。だから私は言ったのよ。よく獣人という異物をあの女神は受け入れたのねと」




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