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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
28章 穢れと鬼

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「赤目の魔女?」


 そう言って、陽子はシェリーを見る。シェリーの目はピンクだ。赤ではない。

 いや、赤い目の人物は身近にいる。ナディアの愛し子であるグレイだ。


 そして、エリザベートを彷彿させる魔女という言葉。

 この世界には正確には魔女という人種は存在しない。言うなれば、魔導を極めた女性という意味合いが強い。

 そこから導き出される答えは一つ。


「狂った魔女の話?」


 そう、オリバーから何度か出てきているグローリア国の王族の者の話だ。そしてオリバーと境遇が似ていた王女でもあった。


「そうであるな」

「あれ?クラナードってどこかで聞かなかったかな?」


 今度はカイルから疑問が出てきた。クラナード家。いったいどこの話で出てきた家名なのか。残念ながらシーラン王国にはその名を持つ家は存在しない。


「クロードさんですよ。あのクロードさんの知り合いということは、相当お年を召していると思われますが」


 黒狼クロードから幾度か出てきた名だ。はっきり言って普通の人の寿命は超えているので、何かの種族の者なのだろう。

 その辺りの情報はクロードからは出てきてはいなかった。


「オリバー。言っておくけど、武闘術を使う英雄はいないけど?」


 シェリーの世界の記憶から過去の英雄たちを喚び出した中で、武闘術の使い手はいなかったようだ。

 だったら、オリバーが言った言葉とは矛盾する。教えを請える相手がいないのだ。


「へー。その赤目の魔女の血族に、神様たちは会わせたいってことだね。どこにいるかは知らないけど」


 陽子は何かピンと来たのだろう。納得したようにうんうんと頷いている。


「ちっ!」


 そこにシェリーの舌打ちが聞こえてくる。そんなことをしている暇などないということだ。


「さて、アルマ様とレピダ様の威はわからぬ。だが、彼らから得るものは多くあるだろう?ヨーコのダンジョンで嫌々ながらいるよりはマシというものだ」

「大魔導師様に陽子さんの存在意義を否定されてしまったよー」


 わざとらしくシクシクと泣く陽子。そしてオリバーの言葉に段々と不機嫌になってくるカイル。


「君の気持ちも理解できる。番という者に縛られてしまった愚かな気持ちも」


 そんなカイルにオリバーは一定の理解を示した。だが、皮肉めいた笑みを浮かべていることから、自笑しているのだろう。

 世界に縛られていたころの己の愚かしさを。


「愚か?」


 ただ、カイルにとっては不愉快そのものだった。

 番主義である竜人族というのもあるかもしれない。

 だが、一度番を見失ってしまった者の執着といえた。


「今の君に言ってもわからないかもしれないが、番とは互いに互いを思いあって行動をするものだ。生きていく上でのパートナーとしてだ」


 オリバーからまともな言葉がでてきた。

 例えるのであれば、冒険者ギルドの補佐官であるニールとその番のオリビアのような関係なのだろう。


 ニールでは、まかないきれないことを汲み取って、オリビアが行動する。普通の夫婦でもそのようなものだ。


 そして炎王も色々問題あるようだが、番であるリリーナは炎王を支える立場を貫いていた。炎王の行動を阻害しようとしたのは、あまりにも仲がいいシェリーと炎王の関係を疑ったときのみ。

 いつも側にいるわけではなかった。


「ナオフミと俺の行動もそうだが、番への異常な執着はおかしいと思わないかね?」

「思わない」


 オリバーの問いにカイルは即答する。何もおかしなところはないと。


「そうかな?唯一シェリーから一歩引いている者がいると思うが、その者についてはどう思う?」


 オリバーの問いに心当たりがあるのはスーウェンだ。しかし、スーウェンの場合は己の立場を理解しての行動だと言えなくもない。

 そう、奴隷から解放された立場だからと言える。


「何も思うことはない」

「まぁそうだろう。君の立場ならそういうだろうし、昔の俺でもそう言うしかない」


 そしてオリバーはシェリーに視線を向けた。しかしシェリーは敢えてその視線をスルーし、空を見上げながらお菓子を食べている。


 番の話に参加したくないという意思表示だ。


「シェリー。歴代の聖女の中で聖女に執着を見せなかったのは誰かな?」

「ロビン様のこと?それで、オリバーは何が言いたいわけ?」


 シェリーは空に視線を向けたまま聞き返す。ツガイが愚かしいのは世界が決めたからに過ぎないと。


「きっかけはシェリーが行った大規模な魔術の施行だ。あれでおかしなことが起こったのだよ」


 オリバーもシェリーと同じように空に視線を向けて話す。


「それで思ったのだ。もし、ビアンカの番が三人揃っていれば、結末は違っていたのだろうかとね」

「結末?」


 またもやオリバーはおかしな言葉を言った。魔王討伐戦の結末のことだろうか。いや、番の話をしているのであれば、オリバー自身の結末の話だろうか。


「賢者ユーリウス。彼は人の異常を正常に戻す研究をしていた。それは病であったり、精神の病だったり、洗脳だったりだ」


 これはユールクスのダンジョンで採取できる神水が関係してくる話なのだろう。


「賢者は討伐戦には参加しなかった。いや、ギラン共和国が彼を国外に出さなかった。今考えれば、おかしなものだと思わないかね?彼こそ戦場に必要な人材だったはずだ」




800話のおまけ話。


「アマツさん。お疲れさまでした」


 カイルとの手合わせを終えたアマツは力なく草原に横たわった。いや、地面には草など生えておらず、剥き出しの地面になっていた。


 そして、そんなアマツにシェリーはペットボトルを差し出す。


「ふわっ!炭酸飲料!」


 ただの炭酸水だが、アマツにしてみれば新鮮でかつ懐かしいものだった。そしてこの世界にはないペットボトルの蓋を開けた。


「うきゃぁぁぁぁぁ!」


 ペットボトルからあふれる炭酸水。まさかシェリーがワザと振ったペットボトルでも渡したのだろうか。


「アマツさん。龍化したままなのですから、力加減して開けてください」


 いや、アマツがペットボトルを豪快にねじ切ったのだ。

 そして再度代わりのペットボトルを渡すシェリー。今度は龍化を解いて受け取るアマツ。


「それで佐々木さん!ビデオはちゃんと撮れた?」

「……」


 アマツの質問に無言で答えるシェリー。


「え?もしかしてレンズのキャップを外し忘れたってオチ?」

「違います」

「まさかメモリーカードの入れ忘れ!」

「メモリーカードは元々必要ありません」

「それでは、充電し忘れ!」

「魔道具のことに関しては天才的な人が作ったので、半永久的に動くと思います」

「え?だったらなに?」


 シェリーはユーフィア作ビデオカメラを取り出し、アマツに背面にあるモニターで再生画像を見せた。


 最初はアマツとカイルが相対している場面が映っている。だが、次の瞬間土煙だけを残して二人の姿が消えたのだ。 


 だが、画面は二人を追っているのだろう。あっちこっちに背景が飛んでいるのが映っている。


「因みにスロー再生したのがこれです」


 途中からスロー再生に変わるものの、アマツと認識できないぐらいぶれていた。


「佐々木さん……」

「某特撮の怪しい宇宙人大戦ということはわかります」

「ああああああああ」


 そう、龍化したアマツの姿は人と異なっており、侵略してきた宇宙人だと言っても納得してしまう映像になっていた。


「昔舞台で活躍した人の殺陣(たて)が人気で、映画俳優としてデビューしたという話がありましてね。映像にするとその人の刀が早すぎて、映像化には向かなかったという話を思い出しました」

「いやぁぁぁぁぁ!佐々木さん。ポチッと削除して!削除!」

「あ、そろそろ還るように白き神から促されていますね。魔力の減りが半端ないです」

「佐々木さん!エンには見せ……」


 そうしてアマツは世界の記憶に還っていったのだった。




800話もお付き合いいただきありがとうございます。

お礼の小話は英雄アマツさんの話でした。逸話は出て来るものの、本人はあまり出てこなかったので。

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