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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
27章 魔人と神人

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「何が可哀想だ!」


 アマツの言葉に苛立ちを露わにするリオン。

 刀が動かせないのであればと、左手の拳をアマツに向って振るう……リオンの拳はアマツに届かなかった。


「うがっ!」


 リオンの左腕が内側から爆ぜる。


「本当に弱いね。鬼王は存在するだけで、闘気で地面が焼け焦げると聞いたよ。それなのに龍化していない私にこの有り様。可哀想ね」


 そしてアマツの身体に変化が起こる。


「私が弱いと仲間が傷つく!弱き者たちは強者の餌食になる!理不尽に抗いには理不尽を叩きつけなければならない!君の心には強くあろうとするものが存在しない。それじゃ、種族の真源の力は使いこなせない。宝の持ち腐れね」


 そう話すアマツの姿は、人ではなかった。鋭い牙が耳まで避けた口から見え、黄色い瞳の瞳孔は縦に伸びていた。そして身体の全ての部分を覆い尽くす青い鱗。骨格も人というよりは、二足歩行した爬虫類という感じだった。


「君が真似した『龍の咆哮』の真の形わね」


 そう言ってアマツは鱗に覆われた右手を前に出した。


「青い色なんてまとわないのよ」


 見た目には何も変化は見られない。

 いや、このあたり一帯に熱気のようなものが満ちだしている。

 そしてアマツの足元の草や花が水分を失ったかのようにしおれだした。


「高温過ぎて色なんて見えやしない。これは相手を完璧に沈黙させる技。容赦と言うものを切り捨てた技」


 異形の怪物と言ってもいいアマツは感情が何も浮かんでいない目でリオンを見下ろす。


「目の前の相手を理不尽な力で焼き尽くす技……この青二才が!貴様が使うにはまだ早いわ!」


 アマツの怒りがリオンを捉える。そして、振り下ろされる拳。


「あ……初代様」


 アマツの陰に炎王の姿でも垣間見えたのだろうか。爆炎が立ち上る中、リオンの姿は掻き消えてしまった。


「アマツさん。青二才って死語じゃないですか?」


 辺り一帯が炎に包まれ、静まり返る中、シェリーの呆れたような声が聞こえてきた。


「え?そうなの?ほらセリフでも『この青二才が』ってあるじゃない?」


 そこに陽気なアマツの返事が帰ってくる。煙幕の中から人の姿に戻ったアマツがリオンを肩に担いで現れたのだ。


「普通言いませんよ」

「えー?はい。いい薬になったか悪い薬になったかはわからないけど、どうかな?」


 地面に横たわったリオンの姿は傷一つない姿だった。先程のことは夢幻(ゆめまぼろし)かと思ってしまうが、リオンの左側の袖が無いことから、アマツが元通りに治したことが見て取れる。


「ありがとうございます」

「久々に完全龍化したわ。龍化すると好戦的になるからあまりしたくないのよね」

「すみません」

「いいの。いいの。だって私はもう死んでいるのだし」


 死んだことを自覚しているとはなんとも奇妙な言葉だ。しかし、シェリーのスキルは白の神から与えられたもの。

 この状態も白き神が必要だと考え、アマツのような奇妙な状態になっているのだろう。


「一つ思ったのだけど、鬼王イゾラを喚び出せばいいんじゃない?」

「……」


 アマツに根本的なことを指摘されてしまったシェリーは黙り込んだ。いや、何かを考えている。


「鬼族は今まで一度も出てきていないのですが」

「え?」


 シェリーの言葉に固まるアマツ。


「あの鬼王だよ?凄く強くて手に負えないって話があるんだよ?英雄クラスどころか超越者だと私は思っているんだけど?」


 シェリーの……いや、佐々木の修行のためにSランクの亡者を喚び出すスキルだ。鬼王が現れないはずがない。


「それは鬼王イゾラが死んでいないからだね」


 衝撃な事実がラースから告げられた。千年以上前の鬼王がまだ生きているとはどういうことだ。

 炎王も番であるリリーナもイゾラは故人のように言っていた。

 生きているはずはない。


「鬼王が生きている?」


 リオンが身を起こしてラースを見た。アマツに絶対なる力の差を見せつけられたにも関わらず、何か付き物が落ちたようにスッキリとした表情をしている。


「生きているけど、死んでいるのと同じかな?詳しくはエンに聞くといいよ」


 ラースはこれ以上話す気が無いようだ。


「彼、今凄く困っているみたいだし、そのうち会うことになるよ」


 いや、直ぐに会うことになるから、知っている当事者に聞けということなのだろう。


「さて私ももう還ろうかな?」


 炎王の名前を聞いた天津はここに留まる訳には行かないと、自ら世界の記憶に還ろうと言い出す。


 しかしアマツの前に立った者がそれを引き止めた。


「英雄アマツに手合わせを願いたい」


 カイルである。シェリーを椅子に座らせ、一人アマツの前に立つカイル。


「何処まで過去の英雄に、今の俺の力が通じるか試したい」

「えー。君、竜人だよね。竜人は苦手だから……」

「こちらも竜化しよう。これで同等だろう?」

「え?だから……佐々木さん!この竜人なんとかして!私は力を受け流すタイプなの知っているよね?どう見ても相性悪いよね?」


 するとシェリーはカバンから四角いカメラを取り出した。ルークの勇姿を撮るためにユーフィアに作るように言っていた動画を撮るカメラだ。

 結局、使われることはなかったものだ。


「アマツさんの勇姿をビデオカメラに収めて、炎王に見せてあげます。カッコいい母親の姿を見せてください」


 シェリーは思いっきり炎王との交渉材料に使おうとしている。

 しかしその言葉にアマツの中にあった闘志が目を覚ます。


「カッコいい母親。そうね。佐々木さん、ちゃんと撮ってくれるのね」

「はい。頑張ってください」


 母親として何もできなかった息子に対して、戦う姿を残す。何か違う気がしないでもないが、カイルとアマツの戦意が高まっていく。


 そして竜人対龍人の戦いが始まったのだった。



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