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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
26章 建国祭

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 シェリーの傷は跡形もなく綺麗に治っていた。勿論聖女の力なので、それは完璧にだ。ただ、シェリーの足元には何が起こったのかと目を向いてしまうほどの血溜まりが残っていた。


 シェリーの姿にカイルとオルクスはホッと安堵のため息を吐く。そして、シェリーはというと、オリバー作造血剤を栄養ドリンクを飲むようにグビグビと飲んでいた。


 その造血剤を飲んでいるシェリーに影が差した。シェリーの目の前に立ち影を作った者をシェリーは仰ぎ見る。


「リベラさん」


 赤髪の大柄なリベラは何とも言えない顔をしてシェリーを見下ろしていた。そのリベラが現れたことで、カイルはシェリーを引き寄せ、腰を抱き寄せる。オルクスはそのシェリーの前に入り込みリベラが直接シェリーに手を出せないように立ちふさがった。リベラがシェリーに何かをするはずも無いのだが、番のシェリーが傷つき二人共ピリピリと殺気立っているのだった。


「今、エルフの御仁が結界を張って、この場を防御してくれている。ラースの公子と炎国の王太子は闘技場の外に行ったようで、どこに行ったかはわからないが、この場は一旦落ち着いたようだ」


 殺気立つ二人を無視してリベラはシェリーに話しかけた。

 そう攻撃は続いているものの、上空で何かに弾かれているように爆音が続いている。これはスーウェンが結界を張っているようだ。


 そして、グレイとリオンはここから出ていったらしい。徐々に爆音が少なくなっているので、大元を叩きに行ったのだろう。

 しかし、驚きだ。彼らに協調性というものがあったとは考えられないことだ。普通であれば、番であるシェリーの元に5人が駆けつけそうなものだが、行動力が高いカイルとオルクスが駆けつけ、この場の安全を確保するためにスーウェンが結界を張り、攻撃をしている本体を叩くために直感が働くグレイと力が強いリオンが出ていった。

 今までであれば考えられないことだったが、彼らの中でも何か変わったのだろう。


「しかし、その血の量は大丈夫なのか?軍の医務局に連れて行こうか?」


「それは大丈夫です。ただ、この魔道具は獣人には効かなかったようですが、人族には致死的な攻撃です。悪意を感じますね」


 シェリーは悪意を感じると言って、ボソリと呟く『ハルナ アキオ。ルーちゃんに攻撃したことを後悔させてやる』と。

 今までシェリーは召喚者の事を最初は被害者だと考えていたが、ユーフィアの屋敷の事件で危険人物に指定していた。しかし、今回のことで名前しかしらない『ハルナ アキオ』という人物は敵認定された。


 しかし、『ハルナ アキオ』という人物は別にルーク限定で標的にしたわけではないが、この様な悪意に満ちた魔道具を作ったことで、その人物像の印象は最悪的に悪い。


「悪意か?私には小石が当たった程度だったが?」


 そう、目の前のリベラもシェリーを心配しているカイルもオルクスも何一つ怪我を負っていなかった。周りで怪我をしている者たちは人族ばかりで、動いていない者も見受けられた。


 人族と獣人の違い。それは強靭な肉体だ。獣人の肉体を例えるのであれば、鍛えられた鋼だ。それに対して人族の肉体は脆い豆腐と言っていいだろう。


 周りの状況を見てシェリは呪を唱える。


聖域結界(サンクチュアリ)


 聖域結界(サンクチュアリ)

 聖人のみが術式を組むことができる聖域結界。結界の中は穢れを浄化し聖域を保つことができる。


 その聖域結界をシェリーは闘技場だけでなく王都全体に広げていく。王都全土を覆う巨大な結界だ。それにシェリーは『聖女の癒やし』を乗せる。


 聖魔術に聖魔術を掛ける。

 これはいつかオリバーが言っていたことだ。そう、聖魔術の増幅が起こる。


 人々の混乱を収め、冷静さを取り戻させ、傷を癒やしていく。なんとチートな回復魔術なのだろう。


 そしてシェリーは身を屈め、先が鋭利なスクリュー状の破片を手に取る。


「これはただの鉄です」


 そう言ってシェリーはリベラに見せつけるように掲げる。血に濡れた金属の破片を。


「魔術が組み込まれているわけでもなく、魔鋼鉄でもなくただの鉄です。人族にとって凶器でも獣人のそれなりに鍛えられた者たちにとっては、ただの小石でしょうね」


 例えレベル100を超えたシェリーでも、聖女に選ばれチートな力を持っていたとしても、その肉体は種族を超えることは出来ない。鍛えるのにも限度があるというもの。そう人神という女神のナディアの血を引いていたとしても、それは血と()の話なのだから。


「今回はしてやられましたね。てっきり私は次元の悪魔を送ってくるのかと思っていたら、魔武器の実験とは考えもつきませんでした」


「実験?これが実験なのか?」


 シェリーの言葉にリベラは驚きを見せるが、リベラが驚くようにほとんど実用段階だったと思われる。しかし、結果をみれば、この散弾ミサイルと言っていい魔武器の被害を受けたのは、弱き者のみ。獣人でも身体がまだ作られていない子供や人族のように鋼のような肉体を持っていない者たちだ。

 と言うことは、獣人の国と言っていいシーラン王国の王都で使って虐殺を試みたようだが、結果としては混乱を招いたに留まった。この魔武器の直撃で即死をした者以外はシェリーの聖域結果で回復していき、グレイやリオンだけでなく、恐らく第6師団長のクストや第5師団長のヒューレクレトも動いているだろう。

 この砲撃が終わるのも時間の問題だった。



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