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「第0師団についての話をしたいのですが、場所を移すか後ろの方が退席されるかしてほしいのですが」
シェリーはここに訪ねてきた本来の目的を果たすためにツヴェークと話をしようとしたのだが、如何せん未だに不服感がありありと見て取れるフォレスタ第3副師団長の存在が邪魔だった。
「本来であれば、第0師団の詰め所が存在するのだが、この組織の再編が急であったため、今は建物の場所を検討中なので、話はここでしてほしい。フォレスタ副師団長、席を外してくれ」
ツヴェークから席を外すように言われたフォレスタは不満感を隠しもせずにシェリーを睨みながら、部屋を出ていった。きっとフォレスタはどのような説明がされても納得というものはできないのかもしれない。
そして、シェリーはというと、フォレスタの視線を感じながらも無視をして何かを考えるように首を傾げていた。
室内から邪魔をする者の気配が無くなり、扉が閉まる音と同時にシェリーは口を開いた。
「元々第0師団が使っていた場所というのは存在しないのですか?」
第0師団が機能しなくなって、おおよそ20年から30年という年月が経っていた。建物が無くなっている可能性もあるだろうが、軍の施設をわざわざ壊すことをするとは思えないため、残っている可能性の方が高いと考えられる。
シェリーの言葉にツヴェークは首を横に振った。
「第0師団が使っていたという建物は存在しない。ただ、資料としては地下施設を利用していたとの記述が残っていたので、現存するだろうと思うが、どこにあるのか誰も分からなかったのだ」
第0師団が機能しなくなって、たかが30年。しかし、討伐戦を生き残った人族などほんの僅かだ。それも全て神の加護を得たものたちばかりだった。言い換えれば神の守護というものが無い者たちは生き残れなかった。
例えばだ。普通であれば、人外な力を得て、理不尽な力な暴力に対抗することにより、生き残れるのが大半だった。だが、ここにいれば、危険なような気がする。この先に進むのはやめておいた方がいい気がするという危機感知能力と言っていいものにより生き残った者もいる。これに関しては誰かという個人名は差し控えるが、彼もまた世界の意思により生き残る必要があったということは明記しておく。
ツヴェークのいう地下施設がどのようなものかはわからないが、これは第0師団を創設したクロードぐらいしか、地下施設にした意図はわからないだろう。この件は後でクロードに確認する必要があるとシェリーは思い、現在表面化している帝国の動きをシェリーは説明すべく、口を開いた。
「どこまでご存知かは知りませんが、念のため帝国の動きを説明しておきます」
シェリーはそう切り出し3つの小瓶を鞄から取り出す。
「一番被害が大陸中に及んでいることが、この赤い液体によって引き起こされる眠り病です。呪いと言っていい病の発症です。最新の情報では果物によって同じ状態が引き起こされたことが確認されています」
「果物?」
「あと以前からあった方法は子供に受け入れやすい飴の形状したものですね。そして、この青い液体が病を治す薬として一時的に回復をしているように見せて複雑化した呪いにより更に解除困難な状態になり死に至ります。帝国はこれを使い各地で身売りという形の奴隷を手に入れています」
このことがシェリーが帝国に復讐する一番の事柄だ。もしルークが被害に遭っていなければ、シェリーはここまで帝国に対し、各国を巻き込んで個人的に復讐をしようとはしなかっただろう。
そして、シェリーは透明な液体が入った小瓶を指し示す。
「こちらは、ナヴァル公爵夫人に頼んで作ってもらった眠り病を治す薬です。現在教会で大陸中で配るようにはしていますが、あまり芳しくはないようです」
これは情報産業が発達していない弊害だ。本当に欲しているのは一般市民なのだが、薬が得られるのは各国の中央教会のみ。これを末端の教会までに行き届けなければ、本当に欲している者の手元には届かないのが現状だ。
「後はこの国には関係無いことですが、帝国は神をこの地に降臨させる存在を探しているようです。ラース公国での被害は確認されていませんが、炎国の光の巫女を手に入れようと何かと画策をしているようです」
「すまないが、その話は初耳だが君はどうなのだ?あの……あのとき、君は神を喚び出しナヴァル夫人が神からの加護を得ていただろう?」
ツヴェークは目の前にいるシェリーに対し、疑問を投げかけた。確かにシェリーは神に呼びかけることで、神は応えてはくれたが、魔神リブロは半分脅された感を持って顕れたに過ぎなかった。
「ああ、私はまだ聖女としてお披露目はされていませんから、帝国からは認識されていないでしょう」
「は?聖女?」
ツヴェークはシェリーから視線を外さず、何を言っているのかと目を丸くしたのだった。
 




