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「リオンもだが、他の者も聞くがいい」
炎王はカイルとグレイにオルクスに視線を巡らせて言葉にした。
「世界から選ばれた変革者という者たちの結末は悲惨だ。この俺も下手すれば、千年前に命を落としていた。だが、今ここに生きているのは、多くの仲間と大切な者の死があったからだ」
炎王は黒髪のエルフのアリスの予言で言われていたありえたかもしれない過去を語った。だが、多くの者たちの力を借りて、その未来を叩き潰したと言う。恐らくこの時に失った命を蘇らせたいと神に願ったのだろう。
「アマツは己の死か作り上げた全ての破壊を天秤に掛けられた未来を示されて、己の死を選んだ。黒狼は国の滅亡か一族の滅亡の未来を天秤に掛けられて一族を率いて死地に向かった」
黒狼クロードは復讐だと口にはしていたが、一族の者たちに選択死を与えたことにより、己は死んでも一族の滅亡という未来を防いだのだろう。
「では、佐々木さんに示された未来はどんな結末だ?それぐらいは聞いているのだろう?」
その話はシェリーからではなく、カイルから他の四人に伝えられていた。だから知っているが、彼らはそこまでその未来視を重要視していなかった。3千年も前にされた未来視などという感じだ。
そして、そのアリスの結末も一族からの処刑という形で幕を閉じたのだ。
変革者という者たちは神に選ばれた存在であるが、所詮異分子であることに変わりはない。この世界は迎えいれながら、異分子を否定する歪みが変革者に降りかかるのだ。
「聞いているよー」
答えたのは4人ではなく、全く関係のない陽子である。
「このことで危機感を感じているのは竜の兄ちゃんだけだってことだよね」
確かにカイルは未来視に加え魔眼に対する脅威をその身で感じ、一番焦りを感じている。
だが、陽子はカイルだけと言い切った。その根拠は何があるのだろう。
「白い神様って意地悪だけど、優しいところもあるんだよ。努力しているササッちのことちゃんと見ているみたいだしね。だから、今回のことは竜の兄ちゃんの努力に白い神様がご褒美を与えたと陽子さんは思うのだよ」
陽子の言葉に3人の視線がカイルに向く。
その言葉には一理ある。カイルはレベル200超えの超越者であるが、その力に慢心することなく、シェリーと並び立てるために必要な力を手に入れようと努力をしている。
そのことに対して、白き神は褒美を与えた。
「だから、この世界で一番力のある神様に認められればササッちの番になれると陽子さんは感じたね。流石のササッちも白い神様には敵わないからね」
「ちっ!」
陽子の言葉にシェリーの舌打ちが重なる。あの時シェリーは世界が動いたと感じた。そこにシェリーが介入することはできず、カイルとの番の絆が結ばれてしまったのだ。そう、死に急ぐようなシェリーに更に楔を打ち付けるよう、強引にこの世界につなぎとめたのだ。
「え?あの神様って優しいのか?」
意外にも炎王から疑問の声が出てきた。炎王は白き神から何を言われたのかわからないが、あまりいい印象はないようだ。
首を捻っている炎王にリオンが詰め寄ってきた。
「初代様。さっさと行きましょう。そして、速攻で終わらせて戻ってきます」
リオンは先程までシェリーと離れたくないと拒んでいたが、陽子の言葉に感化されたのか、今度は炎王に炎国に行く意志を示した。
「いや、多分速攻では終わらないぞ。力を使いこなすのに数日は必要だとリリーナが言っていたからな」
「終わらせて戻ってきます」
リオンは炎王を外に行くように促し、シェリーには直ぐに戻ってくると言葉を残して部屋を出ていった。
「俺もナディア様の意志に従うよ」
グレイがテーブルの上にある依頼書を手にとって、立ち上がった。そのグレイに続くようにオルクスも立ち上がり
「ずるいぞ。俺も行くからな」
とグレイに付いていく意志を示した。そして、ダイニングを出ていく前に振り返ったグレイが一言残す。
「年末までには戻ってくるからな。カイル、シェリーを独り占めできるからって良い気になるなよ」
始めの言葉はシェリーにだが、その後の言葉はまたしてもカイルとシェリーの二人だけになることに対してのグレイの牽制だ。
「シェリー。直ぐに戻ってくるからな」
オルクスもシェリーに一言いってグレイに付いて出ていった。その二人の姿を無表情で見送るシェリー。
「さて、エンエンが帰ったから、陽子さんはお仕事に戻りますか」
そう言ってハリセンを持った陽子は床に潜っていく。一部がダンジョンであるこの屋敷に現れた炎王の能力を押さえるために陽子はここに来たようだ。
シェリーとカイルしか居なくなり、静かになったダイニングに駆け込んでくる足音がある。
「エンさん!これってどうやって火が出るの?」
今まで炎王に誘導されて裏庭に行っていたルークだった。




