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「なぁ、なんでさっきシェリーは魔神様に声をかけなかったんだ?今日の朝はシェリーの呼びかけに顕れていたのに?」
グレイは先程のルークの加護を与える神にルークが願っていた魔神リブロではなく、星の女神ステルラに加護を願ったことに疑問を持っていた。なぜなら、今日の朝、魔神リブロはこの地に顕れていたのだ。それなら、ルークの望みを叶えられたのではないのだろうか。
グレイに尋ねられたシェリーはリオンの膝の上に座らされ、死んだ魚を目をして食後のお茶を飲んでいた。
因みにルークは既に自室に戻っており、オリバーも食事が終われば、地下に戻って行ったので、この場には居ない。
「リブロ様は高魔力の方を好まれると聞きましたので、第3師団長さんで駄目なら、ルーちゃんもリブロ様もお眼鏡に叶うことはないと思ったからです」
シェリーはオリバーとルークと話しているときとは違い、淡々といつも通りの口調で答える。
そう、ルークはまだレベル30を超えたぐらいだ。13歳の子供としては、かなりレベルが高いと言っていいだろう。だが、加護を与える神の目につくほどかと言えば、そうではない。だから、シェリーは暗闇の夜の道に迷わないように夜空の道標となる星の女神ステルラにルークの道を示してもらったのだ。
ルークが外に出て女神ステルラに加護を願っているとき、シェリーとオリバーの前に顕れ女神ステルラは神言した。
『子供から大人になるという時期は道に迷いやすいものですね』
黒く長い衣服を纏い、色白い素肌に黒い髪が床に広がるほど長い女性がルークが座っていた椅子の後ろに立っていた。黒く流れる様な髪は煌めくように光を纏っている。相変わらず、シェリーを見るその目は閉じていた。
『わたくしは求められれば、どのような者でも道を指し示して差し上げましょう。それが、わたくしの使命。星の女神が迷い子に祝福を与えましょう。迷い子にわたくしの言の葉を伝えなさい。そなたの望むべきことは、蒼海の一粟を手にすることに等しいが、努力が報われぬ訳では無い。神々はそなたのことを見守っておる故に精進するが良い』
そう言葉を残して星の女神ステルラは消えていった。それまで、何事もなく食事をしながら話をしていたシェリーのツガイたちが、ざわついたのは言うまでもない。
何があったのかわからないが、突然の神の降臨に謎の言葉を残して去っていった。それは5人が慌ててシェリーの元に駆けつけてくることになるだろう。
いや、その前に獣人がその場に二人いるのだ。シェリー達の話が聞こえていただろう。獣人特有の五感の敏感さは人族のそれを凌駕するのだ。
これには実はからくりがあった。オリバーはこっそりと結界を張っていたのだ。彼らにはシェリーの思惑に通りにユニコーンの料理を食べてもらわねばならぬと。でなければ、屋敷を追い出そうと本気で考えていたのだ。これは人が寝ている時間に起きているオリバーの生活習慣が悪いのだが、そこを改善しようとはならないようだ。
シェリーの元に駆けつけた5人をオリバーはルークに道を示してもらっただけだから、さっさと席に戻れと促し、ルークが萎れて戻ってきた時には、何事もなかったような雰囲気になっていたのだった。
だから、グレイは聞いたのだ。なぜ、ルークが望んでいた魔神リブロや剣神レピダの降臨を願わずに、星の女神ステルラだったのかと。
「で、先程の者は何の神になるのだ?」
シェリーの膝の上に抱えたリオンが聞いてきた。実際に星の女神ステルラを目にしたことがあるのは、国王であるイーリスクロムと近衛騎士団長であるレイモンドだけだったので、シェリーのツガイである彼らは、女神ステルラを見たのは今日が初めてだったのだ。
「星の女神ステルラ様です」
シェリーは名だけを告げた。ルークのときとは違い、それ以上の説明はすることはなかった。
そこにカイルが戻ってきてグレイの隣の席に腰を下ろした。カイルは今までどこで何をしていたかと言えば、一人抜け駆けしたカイルに4人から後片付けを一人でするように言われていたのだった。いつもなら、シェリーとカイルの二人で食器の片付けをしているのだが、シェリーと二人きりにする訳にはいかないと、4人から睨まれてしまえば、カイルは苦笑いを浮かべながら、彼らの言葉に従ったのだった。
ん?ユニコーンの効果はなかったのだろうか。いや、オリバーが言っていたように人の心とは複雑なものだ。一度の浄化では心の闇は無くなったりしない。ぶり返し、浄化し、ぶり返し浄化する。それを繰り返すことで、人の闇は無くなっていくのだ。
 




