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シェリーはニコニコとしながら、向かい側に座るルークの話を聞いている。ルークは今日あったことを夕食を食べながら話し、やっぱりライターは凄いと言っている。
そのシェリーの隣では黙々とスープとサラダとパンを食べているオリバーがいる。シェリーはちゃっかりと誰も文句が出ないようにオリバーの横に座っていたのだ。
そして、シェリーたちが食事を取っているダイニングテーブルは、いつもと違い、4人掛けの手狭なテーブルだった。いつも使っているテーブルはと言えば、オリバーの所為で水浸しになってしまったために、原因となった3人に後始末を言いつけたので、現在はシェリーのツガイ5人が嫌悪な雰囲気をまとい、席に付いていた。だが、ここで同じ過ちを繰り返すほど彼らは愚かではない。
まだ、手をつけていない食事を挟んで、カイルに視線が集中するにとどまっている。
「しかし、やはり定期的にユニコーンを狩って来るべきか」
ボソリとオリバーが呟く。それほどユニコーンとは美味しいものなのだろうか。
「どちらかと言えば、普通に睡眠を取ればいいだけだと思うけど?」
オリバーの隣に座るシェリーの言葉は、オリバーの言葉と噛み合っていない。ユニコーンと睡眠は違うだろう。だが、満足そうに笑みを浮かべているオリバーの目の下のクマが消えていた。
「うん。やっぱりこれ好きだよ。今日、ちょっと腕を痛めてしまったけど、治ったみたいだし」
ルークも嬉しそうに左手を見せる。その言葉に一瞬シェリーは焦ったが、治ったという言葉に安堵のため息が出ている。
ん?これはどういうことだろうか。オリバーの目の下の黒く濃いクマが消えており、ルークの痛めたという腕が治ったという。
「どこで、手に入れて来たのだね?普通では手に入らぬだろう?」
オリバーはシェリーが入手してきたところを気にしている。やはり、普通は手に入らないようだ。
「そろそろ、ユーフィアさんの必要なくなったユニコーンの肉が出でくると思って冒険者ギルドで買ってきた。全部買い占めてきたから10頭分の肉は確保している。だから、いつでも食べれるよ」
やはり、ユーフィアが素材として狩ってきたものの肉が冒険者ギルドに流れていたようだ。ユニコーンの角となれば素材としてこの王都にも売っているのだが、流石に10頭分となると、手に入ることは難しかっただろう。
「それはいい。定期的に作ってくれ給え。それに彼らのわだかまりも浄化されるであろう?」
ん?浄化?何の話だろうか。
「まぁ、それもあったから買ってきたのだけど、絶対に面倒くさいことになると思ったからね」
シェリーもそれが目的だったと言葉にしている。その言葉に目の前に座っているルークが手を止めて、シェリーとオリバーに向けて首を傾げている。
今のシェリーとオリバーを見ていると、誰も義理の親子とは思わないだろう。黒髪だが、聖女と勇者の容姿を受け継いだシェリーに、麗しの魔導師と言われた当時の姿そのままのオリバーが隣同士で座っているのだ。互いを信頼している姿を見るに、まるで長年の連れ添った夫婦にも見えなくもない。
「浄化ってどういうこと?」
「ルーク。ユニコーンの属性は何か答えたまえ」
オリバーはルークに教師のように問いかける。その問いかけにルークは直ぐ様答えた。
「聖属性です」
ルークも生徒のように答えを出す。それは父と子ではなく、師と弟子の関係のような受け答えだった。
「では、聖属性に聖属性を掛ければどうなるか答えたまえ」
聖属性に聖属性を掛ける?ルークは考えたこともない質問をされ、考える。聖魔術で一番に上げられるのは浄化だ。浄化に浄化を掛けてみても、浄化されるだけではないのだろうか。試してみたいが、残念ながら、ルークは聖属性の魔術は使えない。だから、考えたことも無ければ、思いつくことも無かった。
「では、火属性に火属性を掛ければどうなるか答えたまえ」
「火の力が倍増します」
それは直ぐに答えが出てきた。同じ属性同士を掛けてもそれ以外の属性が発生するわけではなく、ただ属性の強化ができるのだけだ。
「あ!聖属性の力が増すです!」
「そうだ。普通であれば、ユニコーンの料理を食べたぐらいでは回復などしない」
オリバーははっきりと言った。所詮、魔物の肉はただの肉なのだと。
「では、この料理を最後に食べたのはいつだったか覚えているかね?」
最後···と問われても、そこまで記憶があるわけではない。食べた料理なんて美味しかったしか大抵は覚えていないものだ。
「8年前だよ。聖属性のユニコーンを聖属性を持つシェリーが調理することで、肉体を回復し浄化する料理ができるのだよ。ルーク、君が何のトラウマもなく過ごせるのは身体の内側から人が持つ悪の心を浄化したからだね」
8年前。それはルークが攫われ、シェリーの復讐の根源となっている事件があった年だった。




