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「イスラ···イスラ・ヴィエントはまだ生きているか?かなりのジジイだが、生きているのなら第4師団の顧問にでもつけろ。使えるものは何でも使え。後は、第3師団だったか?」
そう言ってクロードは壁際に控えている人族の二人に視線を向ける。壁際に控えている二人は、国王であるイーリスクロムよりも偉そうであり、第5師団長に命令を出し、色々指示を出している人物はいったい何者かと、不審な者を見る目をしている。彼らはクロードが統括師団長であったことを知らないので、それは仕方がない態度ではあった。
「残念ながら、俺は魔術師の知り合いはいないからな。ヴァレーニが魔術師と言えば魔術師だっただろうが、俺は個人的に性に合わなかったから、生きていても勧められないなぁ」
先程からクロードの口から出ているヴァレーニという名前の人物の評価が著しく悪いのは気の所為だろうか。その人物はどうもイーリスクロムと比較していることから、前国王であるような気がする。
「いっそのこと神頼みでもしてみるか?」
ここに来て突然クロードは現実的でないことを言い出した。帝国の侵入をここまで許し、下手すれば国の中枢が壊滅的になることだった打開案に対して具体的な提案をしていたのに、最後は神頼みときた。
しかし、クロードの真面目に現実的でないことを言った言葉にイーリスクロムの肩が揺れた。それはきっと宇宙のような吸い込まれそうな瞳に覗き込まれたことを思い出したのだろう。そんなイーリスクロムに気づいてか、それとも気づいていないのか、クロードは『どうだ?』この場にいる者たちに尋ねた。いや、シェリーを見ていった。
今回、クロードにこの場に喚び出したのは、元々第3師団と第0師団の折り合いについてだった。
それを神頼みとはこれは如何に?
「ぶっちゃけ、人族のことは···まぁ理解できるが、その弱さをどう補えるかといえば、獣人にはない、その魔力の多さだ。アステーラ国のクラナード公爵の···いや、王族がそうなんだが、複数の神からの加護を得ることで人族でも人外という力を手に入れている。まぁ、グローリアの奴らと一緒だな」
確か、先程もクラナード公爵の名をクロードが上げていた。クロードが知っている人物が存在していても、かなりの歳を召しているだろうに、まるでその知り合いが今でも健在であるような言い方であったが、これは神という加護の影響を受けていれば、人族という枠組みを超えると言いたいのだろう。
「クラナードは笑いながら、狂った魔女の家系だからなぁと言っていたが、最低でも魔神リブロ神と武神アルマ神の加護を得ることを課せられるらしい」
どこかで聞いた言葉がクロードの口から出てきた。『狂った魔女』これはオリバーから出てきた名ではないだろうか。神の加護を得ようとした魔女の話。
「それで、戦力を底上げして、第3師団を半分に割るってどうだ?」
神頼みしてみてはどうだと言われて、そうですねと答える者などいない。
「非現実ですね」
シェリーは一言でクロードの言葉を叩き切った。
「非現実だと言われてもなぁ。第3師団は古代装置に魔力を送るっていう役割があるから、人員の削減は難しいだろう」
「古代装置?」
「古代装置!!」
クロードの言葉に二つの声が重なった。一つは勿論シェリーの古代装置とは何の事だという疑問の言葉であり、もう一つはユーフィアの古代装置という興味をそそる言葉に興奮した声だった。
「何の古代装置ですか?」
「ん?浄化槽と水源の確保だ。こんな平地で王都の水はどこから確保していると思っていたんだ?」
言われてみれば、この王都メイルーンは平地の上に突如小高い丘が出現し、そこに街が形成されているのだ。周りには水源があるように思えない。ただ、王都の生活排水として突如王都から川が発生しているのだ。不自然なほどに、南に向かって川が流れている。
「あの江戸でも水の確保に6つの上水を確保したんだぞ?この大都市と言っていい規模で何処から確保していると思っていたんだ?」
「地下水かなぁと」
ユーフィアが首をかしげなから言った。それもあり得るが、地下水を組み上げるとなると、それも大規模な水車などの組み上げ装置が必要になってくる。
「無理だ。この下は硬い岩盤があって地下なんて掘れやしない。ダイナマイトがあるのならまだしも、人力では限度がある。一度フォルとふざけて地下道で試してみたが、あのフォルでも壊せなかったんだ」
クロードは下に指を指して、肩をすくませながら言った。この王城がある丘の下を掘るなんて無理だと。いや、シェリーがキングコングと呼んでいる人物でも破壊できなかったのであれば、ダイナマイトでも無理があるのではないのだろうか。
「だからこその古代装置だ。これが止まれば、王都の者たちの水の確保は困難になる。その魔力供給が第3師団の者達に課せられた一番の仕事だ。かなりの魔力を供給しなければ動かないから、師団として存在している」
シェリーは第3師団は暇そうにしているからと、第3師団長を引き抜こうとしたが、そもそも第3師団は人が生きる上で大事な水源の確保という重大な任務があったのだった。




