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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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「最初、嬢ちゃんがあのエルフを連れてきた時は、いらないことをしやがってとはおもっていたが、今回の事であのエルフをここで引き取って良かったと思っている」


 クストが珍しくユーフィアが関わることで、シェリーに噛みつかないで話をしている。

 これはきっとクスト個人の言葉ではなく、青狼ナヴァルとしての言葉なのかもしれない。


「もし、あのエルフを連れてこなければ、恐らく国の管理下に置かれて、今回のような事がおきれば、後手後手になっていただろう」


 シーラン王国の中でも英雄として名高いクストがいればこそ···いや、ユーフィアが作る魔道具の試作品を試すために整えられた敷地内であったこそ、被害が最小限に抑えられたのだ。

 本来であれば、マルス帝国の者たちの侵入を国中枢に許すことになり、その後3体の次元の悪魔が暴れることになっていた。その被害は甚大だったであろう。


「陛下や統括師団長閣下が動いてくだされば次元の悪魔ぐらいは直ぐに始末できただろうが、侵入者となると素早く対処出来たかといえば、時間帯が時間帯だっただけに難しかった」


 セーラの話では昨晩という話だったが、クストの話では対応が難しい時間帯だったということは、日付が代わった時間帯だったのではないのだろうか。


 夜勤勤務の者がいるだろうが、全ての者が正確に状況把握をして、即座に対応できるかといえば、そこには個人の力量や能力に関わってくることなので、一概には是とは言い難い。


「今回()と言っておく。しかし、これは人を媒介として、転移門が開きっぱなしという状況が起こりうることがわかってしまった。わかったからと言って、誰にそのようなモノが施されているのか判断できないし、区別もつかない。対処のしようがないのが問題だ」


 人に転移門なるものを仕込んでおいて、わからないということは、どういうことだろうか。制御石でさえ、見た目でわかるようなものであるのに。いや、制御石は体外的に奴隷であることを示すものであるから、目につくところになければならない。だが、転移門なるものを体内に仕込んでおけば、判断がつかないということだろう。


「ユーフィアさんは、転移門を作ろうとされなかったのですか?」


 召喚者はユーフィアが作った魔道具を改造している。恐らくオリジナルで作ったモノは魔道具として形にならなかったのではないのだろうか。シェリーがマルス帝国から持って帰ってきた、機能を色々詰め込んで、何も役目を果たさしてない盗聴器もどきのように。

 シェリーの質問にユーフィアは困ったような表情をして答える。


「作って欲しいと言われたことはあるのですが、空間と空間を繋ぐとその周りに歪みを生み出すので無理だと断りました。できないことも無いのですが、あの····アリスさんが作った転移門と同じく膨大なエネルギーが必要になってくるのです」


「アリスの作った転移門ですか?」


 アリスが転移門を作っていたということはシェリー自身、炎王から聞いたことがあった。そして、その転移門の情報をユーフィアに教え、ユーフィアが炎国に行く際に使用したとは聞いていた。だが、シェリー自身が使用したことがないので、膨大なエネルギーと言われてもよくわからない。


「ああ、それはスーウェンが言っていた話だね。黒のエルフはエルフの支配が大陸全土に及ぶと転移門を作ったと」


 カイルが思い出したかのように言う。確かにスーウェンは言っていたが、この話はシェリーのツガイたちの中で話し合ったときのことなので、シェリーにとって知らない話だ。


「あ!大陸全土だけれど、ラース公国には転移門は無かったですよ」


 ユーフィアがカイルの言葉を少し訂正する。ラース公国。現在ではラース公国とグローリア国の地はエルフ族からの占領を受けていなかった。正確にはプラエフェクト将軍が、時のラース大公に膝を屈したため、支配されなかったのだ。だから、ラース公国にエルフ族の転移門は存在しない。


「恐らく、エルフ族専用に作られたためか、とても魔力の消費量が多かったのです。それもアリスさんは安全性が保てないとおっしゃっていましたので、やはり認識していない空間を繋ぐという行為は危険だということですね」


 ユーフィアはそう言っているが、恐らくそれはアリスの嫌がらせも含まれているのだろうと、シェリーは感じていた。しかし、そのようなところでもアリスは言葉を残していたようだ。彼女が残した爪痕は世界に深々と突き刺さっている。


「確かに、私も転移魔術が使えるのであれば、空間を繋ぎ続ける転移門を作れるかもとは思って、試作品を作ったことはあります。しかし、普通の魔石では維持することもままならず、私自身を媒介にすれば、半刻(1時間)ほど転移陣を展開し続けられましたが、それだと商品としては成り立たず、転移陣を解いた後の空間の圧縮が及ぼす被害が尋常ではありませんでしたので、魔道具としては廃棄処分になりました」


 やはり、ユーフィアは転移門となる物を作っていたようだ。だが、転移門を維持していく魔力と空間閉鎖に伴う衝撃を解決しない限り使用できないと、ユーフィアは転移門の魔道具の作成を諦めたようだ。


「恐らく今回のことは、あのエルフの女性の魔力を媒介にして、転移門を維持し続け、次元の悪魔を送り込んだ時に力尽き、空間圧縮の衝撃で上の建物までも巻き込んでしまったと考えられます」


 どうやら地下牢がある建物が崩壊したのは、空間閉鎖に伴う被害だったようだ。ユーフィアの話から推測するに、あのエルフの女性は本当に捨て駒にされてしまったようだ。

 被害者のように虐げられたエルフの女性を助けて奴隷から解放すれば、恐らく事情聴取されているであろう期間内に転移門の触媒にされ、周りに多大なる被害をもたらす者となっていたのだ。

 周りの者達は憐れな被害者だと思いこんでいたら、それは多大なる破壊をもたらす火種だったのだ。何とも恐ろしい存在を帝国は送り付けてきたのだろう。いや、本人はきっと何も知らされていなかった。ただ、『ハルナ アキオ』という人物を敬愛する心のみが存在していたのだった。



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