第五十二話『お赤飯のイオラにゃん』
第五十二話『お赤飯のイオラにゃん』.
「大変にゃあ!
ミーにゃんが、
『おしとやかでおとにゃしくて』の化けの皮を脱ぎ捨ててにゃ。
本来の暴君に戻って森中を荒らし回っているのにゃあぁぁん!」
「それは大変。早速、お赤飯を炊かなきゃ。
ええとぉ、
『もち米もどき』と『あずきもどき』はまだ残っていたかしら……」
「ちょっと待つのにゃ」
「はて?
『ちょっと待て』と、おとどめなされしは身どものことでおざりますかえ?」
「にゃに芝居がかっているのにゃん?」
「ふふっ。やってみたかっただけよ。
それで? あずき探索の手を緩めさせたのはどうしてなのかしら?
ぐずぐずしていたら、お赤飯を配るタイミングがずれちゃうわよ。
折角、みなさんが今か今かと待ちわびているっていうのにぃ」
「みなさん、って誰にゃん?
にゃあ、イオラにゃん。あんたってにゃにかことが起きるたんびに、
そうやってお赤飯を造ろうとするのにゃけれども」
「それはそうよ。えっへん。
なんせ、『お赤飯のイオラ』との異名をとるくらいですもの」
「ふにゃ?
ウチもしょっちゅう頂いてはいるのにゃけれどもぉ。
ふぅぅむ。ひょっとしたら、味覚おんちにでもにゃったのかも。
いつにゃって、
『まぁこんにゃもんじゃにゃいの?』
ぐらいの味としか思えにゃいのにゃもん」
「いいのよ、それで。
料理に関するワタシのポリシーはね。
『捨てずに食べられれば、それでOK』なの。
難易度を、ぐっ、と引き下げているから心配しないで。
さてと。それじゃあ始めましょうか。
材料は揃っているし、ここはのんびりだらだらと」
「にゃから、そんにゃ悠長にゃことをやっている場合じゃ……うん?
そうにゃん。
お赤飯といえば、この前、とぉっても不思議にゃったのにゃけれども」
「あら、なにかしら?」
「あれは忘れもしにゃい料理中の出来事にゃん。
イオラにゃんったら、
『いっけなぁい。あずきを手に入れるのを忘れちゃったわ』にゃあんて、
のたまっていたじゃにゃい」
「そうそう。そんなこともあったわね」
「にゃのに出されたお赤飯って、
あずきこそはにゃいものの、赤づいていたのにゃん。
あれってどういうトリックにゃの?」
「まぁミアンちゃんったら。
トリックというほどのものではなくってよ。
花の色素を抽出して造った『食紅』とかいうモノを混ぜてね。
あの色を再現したの。
どおぉ? なかなかの出来栄えだったでしょ?」
「そうにゃったの。ほっ、としたのにゃん。
ウチはまたミーにゃんがにゃ。
血の池地獄からすくい上げてきたばっかの赤いもんを、
どばぁっ、とかけたもんとばかり」
「ふふふっ。そんなことなんてあるはずが……ないとはいえないわねぇ。
なにせ、ミーナちゃんだもの。
実は、今だからこそ話せるのだけれどね。
初めて食紅を使った際」
「あん時にゃけじゃにゃかったのにゃん。
にゃあ、イオラにゃん。
あんた、ひょっとして、忘れっぽくにゃっているんじゃにゃい?」
「大丈夫よ。
ほら、ミーナちゃんやミアンちゃんのことだってちゃんと知っているし」
「身内のことまで忘れたら最悪にゃん」
「ふふっ。冗談よ、冗談。
ただね。食紅があるのは切り札があるのと同じなのよ。
『あずきは?』と気がついてもね。
『食紅があるからいいわ』となっちゃう。
『油断は禁物』とは、まさにこのことね。
心の油断が大きくなって、いずれは怠惰へと繋がるのかもしれないわ。
そして行き着く果てが痴ほう症……ぶるぶるぶる。
危ない危ない。用心するに越したことはないわね」
「そこまで考えにゃくとも」
「にゃあ、イオラにゃん。話を戻したらどうにゃん?」
「そうね。ええと、確かぁ……」
「初めての食紅、にゃん」
「それそれ、それよ。
食紅をまぜたあと、しばらくその場を離れていたのよね。
でもって、
『いい頃合いかなぁ』
ぐらい経ったあとに戻ってフタを開けてみたら」
「どうにゃっていたの?」
「香ばしいことは香ばしいのだけれどね。
不自然極まりないくらい、黒っぽく染まっていたの。
今想い返してみれば、
ミーナちゃんが血の池スープを、こそっ、と入れたのかも。
だから、植物類の、というよりは、動物類の、
仕上がりとなったのじゃないかしら」
「炊きすぎて、単に、お焦げが多くにゃったにゃけじゃにゃいの?」
「はっ!」
「もうひどいわん! ミアンもイオラも」
「おや? ミーにゃんからの霊覚交信にゃ」
「そうみたいね。どうしたのかしら?」
「いつまでアタシを暴れさせてとくつもりなのわぁん。
こっちを見ている視線が、
だんだんと増えてくるのわぁん。
でもって、
だんだんときつくなってきているのわぁん。
もう泣いちゃうのわぁん。ぐすん」
「あらあら。
暴走のミーナちゃんから、
悲しみのミーナちゃんへと変貌してしまったわ。
懸念していたことが現実に起こるなんて。
赤飯を造りそこねるなんて。
イオラ一世一代の不覚と認めざるを得ないわね」
「造る手間が省けて良かったじゃにゃいの」
「冗談。造る手間が省けて悲しいわ。
もうこうしちゃいられない。
さぁふたりでミーナちゃんを救いに行きましょうか」
「うんにゃ。待ってましたのにゃん」
ぱくぱく。むしゃむしゃ。がつがつ。
「どおぉ? ミーナちゃん」
「うん。とぉっても温かいのわん」
「こんなにも喜んでもらえるなんて。丹精込めて造った甲斐があったわぁ」
「やっぱ、お赤飯とにゃるのにゃん」
がつがつ。がつがつ。
「喜怒哀楽、全てに万能な切り札ですもの」
むしゃむしゃ。
「特別美味しい、ってわけじゃないんだけど、
なんか、ほっ、とする味なのわん」
ぱくぱく。
「でしょ?」
むしゃむしゃ。
「アタシは間違っていたのわん。
むやみやたらと乱暴を繰り返しても、爽快となるのは最初だけ。
ふと気がつけば、悲しみに沈んだ気持ちになっている。
もうこんな思いは二度とごめんなのわん。
イオラ、ミアン。
これからアタシは『おしとやかでおとなしい』女の子になるのわん」
ぱくぱく。
「ねぇ、ミアンちゃん。今の聴いた?
めでたし、めでたし、じゃない。
それもこれもみぃんな、お赤飯のおかげかしら」
むしゃむしゃ。
「にゃあんか、お話の一番最初に戻ったにゃけのようにゃ……、
まぁいいにゃん」
がつがつ。




