6.サディアス
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七歳の頃、サディアスは奇跡というものを目の当たりにした。
当時、国王と、その王太子であるサディアスは、王弟とその一派に命を狙われていた。
それでも地方への視察を決行したのは、どうしても予定をずらせなかったからだ。加えて、視察先で王弟が国王の命を狙っている証拠を掴み、一派を一網打尽にする狙いもあった。
そして、万が一のために〝蘇生〟の特異魔法を持つ者がいるフラワリングケール伯爵家の領地をその舞台にした。
その結果、王弟が国王の命を狙っている証拠も掴んだが、同時にサディアスを守って国王は倒れてしまった。
そして、蘇生の特異魔法を持つソニア・フラワリングケール伯爵令嬢によって、国王は蘇った。
魔法を行使する黒髪碧眼の美少女に、サディアスは心を奪われてしまった。
ソニアに一目惚れしたサディアスは、すぐに婚約を申し込もうと考えた。しかし、当時の彼は緊張やストレスに弱く、すぐに体調を崩していた。結局、視察から戻るなり寝込んでしまった。
王弟は幽閉できたものの、その一派はまだ王族の命を狙っていた。そんな危険にソニアを巻き込むわけにもいかず、王弟一派を一掃した頃には、すでに三年が経過していた。
その頃にはサディアスの体調も整い、さあ、ソニアに婚約を打診しようとした時には、彼女はすでに、ローランド・クロクス侯爵令息と婚約していた。
その事実を知ったサディアスは久しぶりに三日ほど寝込み、枕を濡らした。
それでも諦めきれないサディアスは、何かと理由をつけてソニアを側に置くようになった。
もし、彼女がそのままローランドと結婚するとしても、自分の力の及ぶ範囲に置き守りたかった。
だから、学園卒業後は王宮侍女へ推薦するつもりだった。
ローランドとの結婚を邪魔するつもりは毛頭なく、彼がソニアを幸せにするならそれでよかった。
学園に入学する頃には、そう思えるようになっていた。
何故か、彼女の父親がソニアに王妃教育めいたことを教えていたのは気になったが、余計な希望は持たないことにした。
父である国王には、婚約者を決めるよう急かされたが、王弟の一件で混乱していたせいでソニアと婚約できなかったのだと暗に責め続けたところ、最後には納得してくれた。
やはり話し合いは大切だと、サディアスは思ったのだった。
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事態が急変したのは、学園に入学してからだった。
同学年にとても強力な浄化能力を持つ聖女、ルース・フラーグム男爵令嬢がいた。
彼女はその能力の高さから、この国の神殿に強く推されている聖女だった。
神殿はルースと高位貴族の令息、もしくは王族との婚姻を目論んでいるようだった。
とはいえ、王太子であるサディアスは聖女と結婚する気はなく、第二王子と第三王子は、まだ子供だ。
高位貴族の令息も、まともな者にはまともな婚約者がすでにいる。
一体誰と婚約させるのか、疑問だった。
ルースには学園内での護衛として、ローランドが選ばれた。
ローランドは、サディアスの専属護衛候補だったが、神殿所属の聖騎士には適齢の者がおらず、代わりに彼が選ばれたという。
サディアスには、ここで更なる疑問が浮かんだ。
ローランドが選ばれたのは、サディアスの護衛がすでに足りていたことと、同年代の護衛がいいというルースの希望によるらしい。しかし、学園内だけとはいえ、護衛が彼一人というのは問題ではないだろうか?
しかし、この国では神殿が一方的に王族を敵視している節があり、腕の立つ聖騎士を複数付けるべきだという王家の訴えが、神殿に届くことはなかった。
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その後、ローランドはルースの護衛でソニアとの時間が取れなくなっていた。
ソニア本人は納得しているらしいが、それにより、ローランドとルースが一緒にいる時間は長くなった。
周囲では、ローランドがルースを選んだのではないかという憶測が飛び交った。
そこで、サディアスはピンときた。
丁度良い相手がいないのなら、婚約破棄をさせてルースの婚約者にすげ替えればいい。それが神殿の狙いなのだと。
神殿の思い通りにさせるわけにはいかないので、サディアスは生徒会の仲間やソニアの友人たちと協力し、その噂を払拭しようと行動した。
しかし、ルースの身の回りで嫌がらせとも取れることが起き始めた。
やがて、それを行っているのがローランドとルースの仲に嫉妬したソニアの仕業だという噂まで流れ始めた。
更に悪いことに、ローランドはルースに心酔し、その噂を真に受けているようだった。
サディアスはローランドに、ルースへの嫌がらせにソニアは加担していない、無関係だと何度も説明したが、ローランドは納得しなかった。
さすがにまずいということでサディアスは関係者を集めた話し合いの場を設けることにした。
それが決まった矢先、ルースは姿を消したのだった。
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ルースが失踪した時、ローランドは他の護衛たちの目を盗んで、二人で街に出かけたらしい。
サディアスとしては、婚約者がいながらルースと二人きりで出かけたことにも、他の護衛を同行させず、無断で彼女を街へ連れ出したことにも腹が立った。『何をやっているのだ』とキレたくなったが、彼を叱責する者は他にもいるため、ひとまず我慢した。
ルースの捜索は神殿が主体となって行うので、彼女の失踪から数日後、サディアスとソニアは以前から予定していた街へ視察に行くことになった。もちろん、側近や護衛も同行する。
サディアスは、ソニアとのデートということにして楽しみたかったが、その途中で立ち寄った平民向けの飲食店で、ルースに遭遇してしまった。どうやら、食事のテイクアウトを頼んでいたらしい。
逃げるルースを、ソニアはサディアスが止める前に追いかけてしまった。
(ソニアの足が速すぎる!)
サディアスは、足の速い護衛に彼女の後を追わせることしかできなかった。
そして、サディアスが追いつくと、凄惨な光景が目に飛び込んできた。恐慌状態に陥ったルース。その彼女に寄り添う見知らぬ男性。護衛騎士たちに取り押さえられたローランド。そして、地面に倒れて血を流すソニアの姿……。
サディアスは頭に血が昇るのを感じたが、側近にたしなめられ、彼は平静を取り戻した。
そして、ソニアの〝蘇生〟魔法が発動した。
サディアスは、次こそは逃さないことに決めた。
◆
その後、ソニアはローランドと婚約を解消した。
サディアスは、その翌日にはフラワリングケール伯爵家に乗り込み、婚約ではなくそのまま結婚した。
事後報告となってしまったため、父である国王や母である王妃には注意されたが、何とか受け入れてはもらえた。
国王に至っては、これでサディアスのネチネチ口撃から解放されるとほっとしていた。
ローランドは真実を知らされた後、爵位を継ぐ権利を失い、北の辺境へ向かったらしい。
彼のやったことは殺人ではあるが、ソニアが蘇生したため、殺人罪に問われなかったのは、なんとも皮肉なことだった。
ローランドは、子供の頃にソニアから命を救われている。それにもかかわらず、今回の凶行に及んだのだ。サディアスは死ぬまで許すつもりはなかったが、北の辺境から出てこない限り、何かする気もなかった。
ルースは神殿の横槍により、相思相愛の婚約者と引き裂かれていた。彼女とローランドを無理やりくっつけようと神殿が動いていた痕跡もあり、この国の神殿には、総本山から調査が入った。
これで王家と神殿がある程度歩み寄れるようになればいいと、サディアスは思った。
ルースは事件の直接的な原因ではなかったが、元婚約者との駆け落ちが騒動の発端になったことに責任を感じていた。そこで、実家の領地近くにある小神殿へ移り、付近の平民向け学校に編入した。その後、元婚約者と再び婚約したらしい。
サディアスは在学中にソニアと結婚したが、夫婦としての関わりはあまりできなかった。というか、我慢した。
しかし、三年生の半ば、どうしても我慢ができなくなったサディアスは、ついにソニアと一線を越えてしまった。
ソニアもサディアスを拒まなかったため、理性のタガが外れたサディアスはソニアに愛を囁きながら、朝まで何回戦も行ってしまった。
そのことは、翌日には両家に知られていた。サディアスは徹底的に怒られ、数日間、ソニアと会うことまで禁じられた。それも今では、いい思い出である。
そして、学園を卒業すると、ようやく夫婦らしい生活ができるようになり、二人は六人の子供に恵まれた。
元婚約者の死についてはソニアには知らせなかった。余計な心労はしてほしくなかったからだ。
サディアスの統治は長く続き、この国の平和は末永く続いた。




