サンドイッチ
ヴィアの横で、俺はベッドに仰向けになり、天井を見つめていた。横でヴィアが身じろぎをした。
『どうしてこんなことに』
そんな言葉が胸の奥で渦巻く。
あの後の出来事をざっくりまとめると、こうだ。マリ姉の部屋から帰ろうとした瞬間、俺の冒険者カードの魔力欄が変化していた。
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魔力:3/15(3x5)
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MPの最大値が、まさかの五倍。
当然、ヴィアのスキルが元に戻ったのかと思ったが、カードには相変わらず「異性には効果がない」の文字が残っていた。
意味が分からない。でも「これで全部うまくいくのでは?」と期待して、マジックポーションを飲んだがMPは回復しない。
『あれ?』
首をひねり三人で悩み、色々試し、話した結果、MPの自然回復を待ってみようという事になった。
で、冒頭に戻る。
俺の左側にはヴィアが寝ている。左手首には麻紐が結ばれ、ヴィアの右手首と繋がっている。長さは1mほど。どうやらこれでも接触判定になりスキル効果が発動するらしい。
そして、俺の右側にはマリ姉が寝ていた。
『なんなんですか!これは一体!』
叫びたい。心の底から叫びたい。
『拷問か?』
"やわらかな拷問"。なんか、そんな小説ありそうだな。精神年齢はそこそこ大人でも、身体は健全な16歳。死線をくぐった直後でもある。いや・・・考えるのはやめよう。
しかしこの二人、よく寝れるな。一応、俺、男なんだけど?あ、男判定されてない?だからヴィアのスキルが効くのか?
「ふぁ・・」
左のヴィアが微妙に体を寄せてくる。胸が二の腕にあたる。控え目だが、存在感はある。
「んぅん・・」
右側でマリ姉が動く。妙に色っぽい。こちらもあたる。装甲は言わずもがな。
「だっ・・だ・・」
ヴィアの頭が肩に触れ、さらりと髪が頬を撫でる。
「むぅ・・」
マリ姉はさらに密着してくる。ほぼ抱きつかれている。
ちょっ、膝を中央に寄せるな。当たるだろうが。これ以上の領土侵犯は戦争行為とみなします。誠に遺憾です。いかんですよ。大本営が発表するぞ。
『リナ騒がないかな?そうすれば、一人からは解放されるんだけど。』
そもそも、なぜマリ姉までここにいるのか?意味がないわけではない。ヴィアと二人きりになれば妙な雰囲気になって、俺の野獣が解放され、ヴィアの男嫌いが悪化し、全てが台無しになる可能性がある。
マリ姉は防波堤だ。・・・でも隣で寝る必要はないと思う。
そんなふうにして二日が過ぎた。えっ、大事なところが抜けてる?本当に何もない。
夜は二人にサンドイッチのように挟まれ、サンドバッグにされる天国が続いただけだ。
昼は紐で繋がれたまま外に出られないので、ヴィアの妹レードの様子を見たり、ヴィアと話したりして過ごした。と言っても、ヴィアは無口だから、俺が一方的に喋るだけだ。
御伽噺や前世で読んだ本の話を延々と語る俺を、ヴィアは黙って聞いていた。「うるさいな、この人」くらい思われていたかもしれない。でも、黙って向き合うには間が持たない。マリ姉は昼は仕事とリナの世話で不在だし、二人きりの時のヴィアは、こちらを見ようともしない。警戒しているのは分かるけど。
ちなみにMPは予想通り自然回復が効き、二日目の朝にはアンチカースを唱えられる“7”まで回復した。
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魔力:7/15(3x5)
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今なら、唱えれなかったあんな魔法やこんな魔法も唱えれるんだろうな。少しだけ、気持ちが昂る。
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三人でヴィアの部屋にやってきた。ヴィアの妹のレードが寝かされている。
ヴィアもマリ姉も緊張しているのが分かる。俺も緊張している。これで本当にうまくいくのかという思いもある。呪いの完成までにはまだ、時間はありそうだが、失敗すれば次のMP回復までの猶予が在るかと言えば微妙だ。それに、俺自身も色々な意味で限界が近いです。
ベッドの横に立つ。ヴィアと繋がっている間、何度かこの部屋に来たが、レードは一度も目を覚まさなかった。黒い文字のような紋が体中を覆い、やせ細った体からは腐れ木を焼いたような濁った匂いが漂う。ひどい不快感。
呪いは周りをも不幸にしながら。絶望に向かって進行する。そんな、言葉を思い出した。
ヴィアの話では、呪いを受ける前のレードは快活な娘だったらしい。その気持ちを思うと、いたたまれなくなる。この娘は、どんな思いで妹を見守っていたのだろう。
「はじめます。」
俺が一息ついて、言った。儀式めいた感じにはしたくなかった。あっさりでいい。この後も当たり前の日常が続くのだから。ヴィアがコクリと頷いたのを確認してから。俺は詠唱を始めた。無詠唱でもいけるが、万が一にも失敗はできないからな。
「我願う。清き光、清浄の精霊の加護を受く。土は土に帰し、火は火に帰し、水は水に帰し、木は木に帰し、金は金に帰す。我誓う。永遠の忠誠、精霊の御霊。我願う。正常なる清浄。血は血に帰し、皮は皮に帰し、骨は骨に帰し、肉は肉に帰し、魂は魂に帰す。我望む。回転の理、赤き黒の打破。大いなる磁心をもって天恵を垂れ給え。アンチカース!!!」
メイスから放たれた光がレードを包み込み、やがて静かに収まる。黒い紋様は跡形もなく消えていた。
「成功?」
ヴィアが問う。すこし声が震えていた。
「たぶん。」
俺が答える。苦労した割には一瞬だけど、所詮は一つの魔法に過ぎない。回復魔法だって発動は一瞬だ。基本は変わらない。
「レード」
ヴィアが呼びかける。
「レード」
ヴィアが再び呼びかける。
「ん、ん・・・」
レードが目を開ける。
「レードっ!」
ヴィアがレードに抱きつく。
「お、お姉ちゃん。って、黒いのがなくなってる。体も痛くない。」
レードが自分の体を見ながらキョロキョロする。ずっと寝ていたから記憶がワープした感じなのかな、状況が掴めないのだろう。
「・・良かった。」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
しばらく二人は抱き合ったまま動かない。その姿を横目に、俺とマリ姉はそっと部屋を出る。これ以上いるのは野暮だ。
「なんか、やたら疲れた。」
安心したら、軽口が漏れた。早く眠りたい。
「またお姉ちゃんと、一緒に寝る?」
マリ姉も軽口で返す。
「素敵な提案だけど、それは、寝れそうにないから止めておく。」
「あらっ、振られちゃったのかしら。」
そんな事はない。マリ姉はいつも魅力的だ。
「おやすみ、マリ姉」
さすがに色々とこれ以上は無理だ。
「おやすみ、リグノ」
そうして俺は、三日ぶりに自分の部屋のベッドへ向かった。




