プロローグ
「リグノすまないが・・・・」
目の前で大柄の戦士"エイデン"が言い辛そうに口を開く。場所は冒険者ギルドの近くに併設された酒場である。
"すまないが・・・"、の後に続く言葉は容易に想像できる。
「パーティを抜けてくれ。」
エイデンは、俺の予想どおりの言葉を吐いた。
まあ、そうだろう。
目の前にはエイデンのほかに、回復役と攻撃役の二人の魔法使いの女性がいる。
そこへ、運び屋〈ポーター〉であるリグノを加えて、四人で洞窟探索のパーティを組んでいた。
「わかりました…」
解雇の宣告に、俺はグッと手を握りしめ。ポツリとそれだけを言う。覚悟してたとは言え、実際に面と向かって言われるとかなりショックだ。
しかし、彼らからすれば、クビは当たり前のことなのだろう。
俺がこの二年間、ほとんど成長しなかったのだから。
いや、正確には成長はしている。
今日もダンジョンに潜り、ようやく一区切りとなるレベル10に到達した。
問題は、その“成長の仕方”にある。
魔法使い志望である俺に必要なステータスは2つある。
魔法の"威力"と"覚えやすさ"に影響がある"かしこさ"、そして、魔法を行使できる量を示す魔力量(MP)。
そして、この魔力量(MP)こそが、解雇される最大の理由でもある。俺は"魔力量(MP)"が2年間全く上昇しなかったのだ。その数字は"3"。最下級の魔法を1回使用したら枯渇するという情けない数字である。
俺は“かしこさ”が生まれつき高かった。
十四歳で孤児院を出て自立した頃には、すでに三桁近い魔法を習得していた。
普通の魔法使いなら、四つか五つ使えれば優秀とされる。
三桁なんて、まずあり得ない数字だ。
孤児院では「大魔法使いが誕生するのでは」と騒ぎになったほどだった。
そして、その評判の“伝手”で、同じ孤児院出身のエイデンのパーティに誘われた。
だが、自立してレベルが上がっても、俺の魔力量(MP)はまったく増えなかった。
当然だが、魔法は習得していても、MPが足りなければ発動できない。
要するに、宝の持ち腐れだ。
かといって、魔法使い以外の職業になれるほど、他のステータスが高いわけでもない。
レベル10まで来れば、この先どんな成長曲線を描くかもだいたい見えてくる。
エイデン達の判断を責める事は出来ない。勿論、将来の成長を見込んでという下心はあっただろう。だが、俺が足踏みしているあいだにも、彼らは個人として、そしてパーティとして着実に成長していった。実力だけ見れば、本来ならもっとダンジョンの深い階層を狙い、稼ぎを増やしたいはずだ。なにせ、冒険者として働ける期間は短い。
彼らは俺の代わりに新しいメンバーを入れて、実力に見合った所で活動したいのだろう。寧ろ、2年もこんなお荷物を抱えて我慢した方だと、自分のことながらに思う。俺がエイデンの立場ならもっと早くに見捨てた筈だ。
「これは、少ないが餞別だ、受け取ってくれ。」
エイデンが麻の小袋を俺に渡す。中には金貨4枚、40万セルスが入っていた。節約すれば6ヶ月は生活できる額だ。これだって、俺の今までの働きからすれば貰いすぎだろう。
正面をみると、2人の女性も申し訳なさそうな顔をしていた、その顔には同情や憐れみが見て取れる。餞別と今までの貯金で幾らかの期間は凌げる。だが、その後は立ちいかなくなるのは見えている。俺の成長の底は見えた。他のパーティに誘われる見込みもない。後は底辺の仕事をして日銭を稼ぐか、犯罪に手を染めるしか生きるすべはない。冒険者として稼げなくなった孤児院出身の人間の末路なんてみじめなものだ。
俺は小袋を握り締めその場を立ち、酒場を後にする。エイデン達に、世話になった礼は言わなかった。いや、言えなかった。言葉を言えば彼らに縋りつきそうになるに違いない。"助けてくれ"と。
そこにいるのはただの敗北者だった。




