敗戦状況・・・南の王族
### 復讐を誓う魔物
「なぜだぁああああ!」
レイモンドの瓦礫の中で、凄まじい怒号が響き渡った。ガルの姿を借りた魔物は、息子である騎士の魔物の気配が完全に消えたことに驚愕していた。
「助けたではないか、倅よ…。あんな場所に、私たちを倒せる魔力を持ったものなどいなかったはずだ…**世界最強の魔術師の体**に、**ギルドマスターの一人の体**、この上ない素材だったのになぜ死んだ!!」
魔物の視線は、空間転移が乱れたわずかな魔力痕を追って、ルーシュたちが戦闘を行った**更地**へと向かう。
「更地になったあの場所……あそこに居たのは魔力のない学生どものみ。何があったか知らないが、許さんぞ人間」
魔物は、息子を滅ぼした者への憎悪を募らせる。ガルとアラバマの犠牲と、ルーシュの全盛期の顕現による勝利は、魔物にとっては**予想外の敗北**だった。
「呪いは、すでに**王国の根**に達している。貴様らが何をしても無駄だ。必ず、この手で、**我々の王**を復活させる」
レイモンドで人間に復讐を誓う魔物は、黒い魔力を凝縮させ、再び王都へとその力を広げ始めた。
### 賢者の目覚めと預言者の孫
「賢者様、大丈夫ですか?」
俺はこの声で目を覚ました。全身が筋肉痛と怪我、魔力が空っぽで指一本も動かせない。転生前、魔王の封印の際に魔力が空っぽになったのは**三回**あるが、それ以来、こんなに辛かった記憶がない。全盛期の力を出した代償は、16歳の器には重すぎた。
「俺…」
おれはか細い声で、何とか声を絞り出す。
「大丈夫です。あのあとすぐ**転移魔法**で賢者様を助けに行きました」
そう話すのは、杖を送ってくれたギルドマスター、**ミズーリ**だった。彼女はまだ顔に疲労の色を残しているが、その瞳は強い光を宿している。
「ミズーリ君は? その転移魔法は、君の能力ではなかったはずだが……」
おれは不思議そうに聞く。彼女のギルドマスターとしての公的な情報には、**物体転送**や**遠距離転移**の能力は含まれていない。
「内緒ですよ。レイラン教の司祭でありながら、実は**預言者の孫**です!」
ミズーリは声をひそめ、人差し指を口元に当てる。彼女の話を聞くと、レイラン教の司祭まで上り詰め、ギルドマスターに任命されたのが表の顔。裏の顔、というか実は預言者の孫で、**時期預言者候補**だそうだ。
預言者は他国でも類を見ないほどレアな存在で、その能力ゆえに命の危険もあり、誰が預言者になるのかは厳重に隠されている。
「まだまだ未熟なのですが、たまに予言を見ることがあります。それで今回、賢者様が危機に陥ると……それでいても立ってもいられなくて。本当は禁止されてるんですが、具現化の魔法に勝手に**保管庫の侵入**。めちゃくちゃしちゃいました」
ミズーリはペロッと舌を出し、罪悪感と興奮が入り混じった表情を見せた。
「だから会議では様子がおかしかったんですね。でもありがとうございました、助かりました」
おれは心から感謝を伝えた。もしミズーリの介入がなければ、俺の魔力暴走で肉体は崩壊し、賢者としての使命は終わっていただろう。
「見たんです。賢者様が苦戦する一部を……私、いても立ってもいられなくて」
レイラン教は賢者を崇拝する組織だ。賢者など1500年も居なかったのだから、どこまで信仰心があるのか不明だったが、ミズーリの忠誠心は本物だと感じた。
「あえて賢者って名乗ったほうが、武器とかもすんなり渡してくれるんじゃないのか?」
「そんなぁ! 偽物だって騒いで**縛り首**ですよ!!」
「物騒な組織だな」おれは苦笑いをした。ミズーリの忠誠心はありがたいが、公の場での賢者アピールはリスクが高すぎた。
### 討伐隊の半壊と王国の窮地
「それで討伐隊のみんなは?」
「1000人が出発し、**死傷者数500名弱**……200名が裏切り、学生も数人犠牲になりました。ルーシュさんと組んでいた者たち(スザク、メロ、キキ)は無事です。疲労と怪我がすごいそうですが」
「ほぼ半壊……レイモンドは奪われたまま、魔王軍の一手目……**完全敗北**だな」
俺の心は沈んだ。この敗北は、単なる戦術の失敗ではない。王国への呪いの侵食が、想像以上に深く進んでいたことの証明だ。
「ルーシュさんも一体、幹部の魔物を……」
「幹部かどうかもわからない……それに、息子をやっただけ。逆効果かもしれない」
おれは、復讐に燃えているであろう魔物が次に何を仕出かすのか、予測がつかなかった。
「それより……王国が」
「そうか。**王の失踪**、**グランドマスターガルの死亡**、そして**ギルドマスターのアラバマの死亡**。ギルドマスターは5人(アリゾナ、バージニア、カロライナ、ミズーリ)残るが、最高指導者が二人も消えた。王国が機能しないのか」
「はい。今は誰がどうやってまとめるかの議論がされていますが、宰相に大臣たち、そして残りのギルドマスターが話し合っています」
そのとき、部屋のドアがコンコンとノックされた。
コンコン
「失礼します」
一人の男が入ってきた。男は長い髪、ヒゲを蓄え痩身の男だった。頬に余計な肉はなく、鋭い顎の線がそのまま性格を象るようだ。細く長い眉の下にある切れ長の瞳は、感情を捨てたように冷たく光り、艶のある漆黒の髪、全身に漂うのは“力”ではなく**“知略で支配する者”**の静かな威圧感だった。
「!? **リック様!!**」
ミズーリが慌てて姿勢を治す。その態度は、ギルドマスターとしてではなく、まるで王族の従者を見るかのようだった。
「よい。賢者に会いに来た」
「誰だ?」ガルとはまた違った威圧感のある男だ。静かで冷たい威圧感は、**ヴィニー(王)**の中にいる王よりも遥かに重い。
「**リック・スカーレット**。亡き王妃の兄です」
「スカーレット家。南の王族か」
「さよう。義理兄の窮地と聞き呼ばれました」
「なぜ賢者だと?」
俺は学生の姿だ。賢者だと知るはずがない。
「この国の王として、知りませんは通じないでしょう」
「王?」
「一時的にですが、私がこの国を取り仕切らせていただきます。本日は忙しいのでご挨拶を」
簡単な会話を行い、代理の王を見送った。終始、ミズーリは畏怖したように無言だった。
### 予言の夢と不吉な暗示
リックを見送った後、俺はミズーリにリックのことを訪ねた。
「南の王国スカーレット家は、昔は自国にこもるタイプの王族だったのですが、王妃、キャロル様がダリル王に嫁いだことをきっかけに大きく躍進しました。その際に活躍したのがリック。スカーレット、王妃の兄でした。話すと長いのですが、内向的な王族とそれが気に入らなかったリックは、**父を暗殺した**とされています。そして絶世の美女と言われていたキャロル様を嫁がせ、ヴァイオレット王国との交流を深め、南の国をほんの10年でほとんど統治してしまいました」
「暗殺した噂? 現在は戦争はほとんどなかったんじゃないのか?」
「当時は証拠もなく、リック様もまだ18歳のときだったので疑いだけでした。その後はダリル王にも気に入られ、トントン拍子に今の国を作り上げました。戦争は大きなものはございません。小さないざこざは多少あったのですが、リック様はほとんど戦争を行わず、**外交だけで近隣すべてを手中に収めた名君**として知れ渡っております」
「優秀じゃないか? ミズーリはなぜそんなに怯えている」
おれは様子のおかしいミズーリに尋ねた。外交と知略で国を大きくしたというのなら、賢者として警戒すべき対象ではないはずだ。
「お祖母様、いえ**預言者様**と同時で見た夢があるのです。代々預言者が2人以上同じ夢を見た場合、それは必ず当たると…」
「それで?」
ミズーリは息を呑み、震える声で告げた。
「**バイオレット王国の屍の上に座るリック様**を……これは**国を滅ぼす**との暗示です」
俺の全身に、冷たいものが走った。呪いだけではない。内部にも、国を滅ぼすかもしれない要因が存在する。
「かならず当たるなら、対処ができるじゃないか?」
「ですが、その結末が良いことなのか悪いことなのかは、予言だけで決められないのです。ですので、このことは他言無用なのです」
「この国を滅ぼすことが正しいとは思えないが、敵と決まったわけじゃない。要は警戒していないといけないということか。なんで次から次へと……」
俺は頭を抱えた。魔王の呪い、ガルとアラバマの悲劇、そしてこのタイミングで現れた南の王族。この国は、外側からも内側からも、崩壊の危機に瀕している。
「あと、今までのこと喋りすぎじゃないの?」おれは笑いながらミズーリを見る。
「だって賢者様ですよ! もう私、**テンション上がっちゃって!**」
宗教とは怖い。その興奮したミズーリは、この後、アリゾナとバージニアの性格、カロライナの指揮下の騎士団の被害状況など、会議で得た機密情報を**いっぱい**教えてくれた。俺は疲労困憊の体で、その情報を頭に叩き込んだ。




