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襲撃

~これまでのあらすじ~

吸血鬼退治を命じられたシュウはその吸血鬼を仲間にするもシュウを狙う三人組の一人、属聖セレンの襲撃に遭ってしまう。


「――――《属聖セレン》、ここに惨状」

鋭い爪がギラリと光り、シュウを捕らえる。

「ひっ」

本能的な怖れを感じる。弱肉強食の掟を嫌が応にも思い出させられる。

「……フーッ」

息を漏らす。セレンは段々と姿勢が前のめりになり、野生を晒す。

「……AAAAAAA!」

咆哮のち一直線に突進。シュウは怯えて動けない。

「コウモリ★トルネード!」

ハッコーサが使役する蝙蝠の群れが進路を阻む。

「TAAAAAGGGGGC!!」

セレンはその爪で蝙蝠を引き裂くも、数が多い。

「チェンスチェキ!」

だがシュウは腰が抜けてしまっている。

「ああもう手のかかるッ!」

ファイは属性石に戻り、テヰルの腕輪にはまる。

テヰルの鎧が赤く染まる。

〈立て人面岩ッ!〉

「ああ、はいっ!」

剣を杖に何とか立ち上がる。

〈オイッ!もっと丁寧に扱えッ!〉

「ああ、すいません!」

何とか闘志を回復させ、剣を構える。

「AAAAAAAAAGGGUUUUUUUUUUU!!」

ヒトではない叫びを上げるセレン。

「怖いですな……ユアさん、彼の属性は?」

「……奴も《レア属性》ね。でも《光》とかよりはレア度の低い《無》よ」

「《無》ですか?弱点は?」

「弱点はないわ。でも有利を取れる属性もないから、本来であれば誰も使わない属性よ。ただ……」

「なら大丈夫ですな!」

「あっ、待って」

説明をロクに聞かないまま走り出したシュウ。彼が留年した原因はこういう所だろう。

「うおおお!」

意気揚々と剣を振り上げる。

「AAGGGGM?」

「ハイ!」

渾身の力で振り下ろす。も。

「GU」

ぺし、と軽々しく跳ね返される。

「……え?」

「TGAAAAAAA!!」

腹部に強烈な一撃。

「ぬふううううううん!!?」

300m後方に吹き飛ぶ。

「な……!?」

状況を理解できない。

「い、いやぁこれはまずいです、シャレにならないすわ」

何故か冷静なシュウ。

〈おい、大丈夫かッ!?〉

「なんか、大丈夫そうですけど、おなかの感覚が無い、です」

〈大丈夫じゃない……!〉

「WWWWGGGGGGAAAAAAAAAA…………」

煙を上げながらゆっくりと歩み寄るセイン。

「まずいっすわ、これはまずいっすわ」

「シュウさま!」

クロンが三本の矢を放つ。風矢は多彩な方向から敵を襲う。

「AA」

だがセレンはそれを易々と握りつぶす。

「そんな……!」

「いや、十分だクロン!」

「チェキチェキー!」

セレンが矢を対処しているわずかな間にハッコーサは素早くテヰルを救出。同時にファイも離脱し実体化。

「お手柄だ、吸血鬼娘!」

「た、たすかりました」

「助けたチェキ!」

「AAAGG……」

不快そうな唸り声を上げるセレン。まるで猫、いや虎の様だ。

「話は最後まで聞きなさい!」

「は、はいですな」

「良い?無属性は他の属性との相性が存在しない。すなわち『いかなる属性にも弱点を付けない』。でもそれはつまり『いかなる属性にも軽減されない』という事よ」

「は、はぁ」

「そして無属性は特殊な能力がない代わりに、基礎能力が極端に高いのよ」

「なる……ほど」

息絶え絶えの状態で相槌を打つシュウ。

その間にシュウの体をチェックしていたウォル。

「これはダメですね~継戦不可です~」

「でしょうね。よし、撤退しましょう」

即断即決。

「ファイ!クロン!もう少し足止めできる?」

「やるだけやってますわ!」

クロンは先程からずっと矢を射続けている。充分な足止めだ。

「フォローする!」

ファイは剣に炎を纏わせ突撃。

「TGMCHAAAAAA……!!!」

唸るセレン。

「AAAAAG!!」

雄叫ぶ。放たれる衝撃波。

「ぐあッ……!?」

「な……ッ!?」

ユアの作戦が一瞬で挫かれる。

吹き飛ぶファイとクロン。

「ちょ、なによそれ……!?」

「AAAG」

儚く散った作戦を嘲笑うかのような呻き声。

ゆっくりと一向に近づく。

武器を構えるウォルとソイリ。

ファイとクロンも復帰し戦闘態勢。

「うう、うーん、うー」

シュウは既に鎧も解除され痛みで唸っているだけ。

「AG」

おどけた様に首をかしげるセレン。

包囲している筈なのに、窮地に追い込まれているのは一行。

またも大ピンチ。



だが神は、シュウを見捨てていなかった。

突如、どこからかネズミの玩具が投げ込まれる。

「AG!」

セレンはいち早くそれを察知し、飛びつく。

「GUGU~♪」

玩具を捕らえたセレンは楽し気にそれを弄って遊んでいる。

「え……?」

「へ……?」

一同呆然。

すると、男の声が聞こえてくる。

「おぉい、こっちこっち」

後方からだ。

「何が何だかわからないけど、救いの船!逃げるわよ!」

いち早く駆け出すユア。シュウを蝙蝠に運ばせながらハッコーサがそれを追う。

「急ぐチェキ!」

「テヰルに仕えるエレメンターたちよ!その力を抑え、石となりてこの杖に宿れ!」

四体は属性石に戻りユアの元に集う。

シュウは視界にセレンを捕らえる。戯れるその姿はまさに猫そのものだった。





「はあ、はあ、はあ」

「ここまで来れば安全チェキね」

「うう、う」

「まっさかハズレで当たった玩具が役立つとはね、っと。大丈夫かい、あんたら」

一行の前に姿を見せたのは黒い帽子とジャケットを身につけた酒臭い男。

「あなたは?」

「《トゥクマ・オーサヌア》。ギャンブルで生計を立てている、しがない男さ」

タバコに火をつけながらトゥクマは尋ね返す。

「で、あんたらは?見た感じワケありの様だ、が?」

「ヴァンパイアイドル、ハッコーサだチェキ!」

「私はユア。エレメンターの導き手。で、ここで延びてるゴクツブシがその属聖」

「シュウ……です」

「属聖かい……こりゃ思った以上の面倒ごとになりそうだ」

「一度首を突っ込んだ以上、付き合ってもらうわよ」

「ちぇ、どうやらハズレくじだったか」

ユアは事の顛末を話し始めた。


「……という訳よ」

「はぁはぁ、へぇへぇ。やっぱ思った通りの大事ですわな」

解説の裏でシュウはハッコーサによって手当てを受けていた。

交渉はユア一人で行っている。彼女の意地と腕の見せ所。

「貴方も何かの縁、乗り掛かった舟よ。私たちに協力しなさい」

「やだよ」

即答。

「なんですって……?」

「あのな?オレはギャンブラーなんだ。違法すれすれの賭けだって日常茶飯事だ。そんなオレが?ティソトール家と間接的に協力?ちゃんちゃらおかしいだろ」

一服し、さらに言葉を続ける。

「それにシンプルにめんどうくさい」

「……ならこうしましょう。貴方は私たち『とだけ』手を組む」

「……ほう?」

「貴方の存在はレギサ姫達には伝えない。ただ、彼女らの知らないところで私たちに協力してくれればいい」

「へぇ――」

トゥクマの目が動く。

「見たところ貴方は裏事情にもかなり精通している様子。その力はいつか必ず私たちに必要になるわ。だから協力してほしいの」

「それなら、まあ考えてやらんでもないが……オレにメリットが無いだろう」

「ティソトール家から受けた支援を少し貴方に回すわよ、それなら文句ないでしょう?」

「ほおう、ティソトールの、ね。それならいい感じじゃないか」

「どう?悪い話じゃないでしょう?」

「ああ、いい話だ。だが――オレはまだあんたらを完全に信用出来ちゃいない。ティソトールの支援を回してくれる確証がない」

「う……それはそうね。仕方ないわ、前金を……」

「前金なんか要らねえよ、信頼を得るのにはな」

「……?じゃあ、どうすれば?」

賭け(ギャンブル)だ!オレはギャンブラー、賭けに生きて賭けに死ぬ!」

帽子のつばを触り笑うトゥクマ。

「だから。オレに賭けで勝ったら。あんたらの取引に乗っかってやる。ついでに潜伏用の部屋も用意してやるさ」

「いいの?」

「勝ったら、だ。負けたらオレはあんたらの前から姿を消し、二度とあんたらと関わらない」

「……いいでしょう。相手するわ――――シュウがね!」

「え、え?」

「こういう大事な時くらい、気張りなさいよ!」

「わ、わかりましたな……いてて」

何とか立ち上がれるほどに回復したシュウ。

「何で勝負するんですな?」

「ここはシンプルに――ポーカーで行こうか」

懐からトランプデッキを取り出すトゥクマ。

「ヴァンパイア嬢、カードは頼んだぜ。イカサマ防止だ」

「了解チェキ!」

楽し気にシャッフルを始めるハッコーサ。その裏でシュウとユアはヒソヒソ話。

「勢いで任せちゃったけど……できる?」

「大丈夫です、こういう駆け引きは案外得意なんですわ」

「本当に?」

「はい。生前、じゃんけんの読み合いで勝敗を決めるゲームの大会で優勝したことがあります!」

「へえ!あなたにも取り柄があったのね!」

「もちろんですよ!ということで、任せてくださいな!」

「おーっわったチェキ!」

「準備は整ったかい、シュウくん」

「ばっちりですな」

ポーカー勝負に挑むシュウ。その顔は過去最高に凛々しかった。

「ヴァンパイア嬢、配ってくれ」

「分かったチェキ!チェキ!チェキ!チェキ!」

チェキチェキ言いながらカードを配るハッコーサ。

言動こそふざけてはいるが、その手つきは嫌にこなれている。そのビジュアルも合わせて、ディーラーとしても働けそうだ。

「チャンスは三回。君が一度でも勝てば、取引に乗ってやる」

「え、一回でいいんですか?」

「オレはプロだからな。ハンデさ。では開始!」

「……!」

シュウの手札。

スペードの5。スペードの2。スペードの9。ダイヤの9。クローバーの3。

(……うう、悩ましいですな……)

ちらりとトゥクマを一瞥する。

(余裕綽々、ですな……)

「一枚チェンジだ」

「チェキ!」

手札交換後もトゥクマの表情は変わらない。

(これは9キープ……?いや、あの表情はかなり強い手札のはず……フラッシュ狙い……?でもリスクが高すぎますな!)

思考、ぐるぐる。

(ええい、ままよ!)

シュウは二枚のカードを差し出す。

「二枚チェンジ……で」

出したのはダイヤの9とクローバーの3。フラッシュ狙いだ。

「チェキ!」

新たな二枚がシュウの元へ。捲らぬまま勝負へ。

「さあ、オープンだ」

「ハイ!」

交換後のシュウの手札。

スペードの5。スペードの2。スペードの9。スペードのA。そして、ダイヤの3。無念。ブタだ。

一方トゥクマの手札。

ハートのA。ハートの4。ダイヤの2。クローバーの2。スペードのJ。ワンペアである。

「な――ワンペア!?」

「ふう。ヒヤヒヤしたぜ。これで一本頂きだ」

「そ――んな」

「ちょっと、シュウ!?何してるの!?盤石固めなさいよ、そこは!?」

「いやだって、すごい強そうな手札持ってそうな顔してるんですもん!」

「そういうゲームでしょポーカーって!?」

「フフフ……争え争え……」

ほくそ笑むトゥクマ。彼のシナリオ通りだ。


「チェキチェキチェキチェキ!」

「では第二戦。開始!」

「うう……!」

シュウの手札。

ダイヤの6。クローバーの6。ハートの6。ハートの9。クローバーのA。

既にスリーカード成立。

(悪くはない……ですな)

ここでトゥクマの表情を一瞥。

「……」

眉を細め、浮かない表情。

(これは……悪い手札ですかな?いやでも、ポーカーフェイス……そう考えると、良い手札なのでしょうか?分からなくなってきましたわ)

「一枚チェンジだ」

「チェキ!」

「……さて」

(さてって言った……!?)

その表情はいまだ浮かない。むしろさらに曇ったか?

(あれは絶対強いパターンですわ!絶対強い!スリーカードじゃ負ける!)

「ぼくも、一枚チェンジです」

「チェキチェキ!」

今度はカードを見る。

交換後のシュウの手札。

ダイヤの6。クローバーの6。ハートの6。ハートの8。スペードの7。

(う……!?なんて、微妙な!一つ多いか少ないかだったら……!)

しかし結果論。

「いくぞ、オープン!」

シュウの手札は先程の通り。スリーカードである。

そして、肝心のトゥクマの手札。

ダイヤのA。スペードのA。ハートのA。クローバーのA。ダイヤのK。フォーオブアカインドである。

「うわあ……!」

「おっと、危ない危ない。ギリオレの勝ちだな」

二戦目もトゥクマの勝ちだ。

「まずいですな……」

「シュウどうすんの!?」

「ぼくに言わないでくださいよ!?運なんですもん!」

「さあ――ファイナルダンスとしゃれ込もうぜ」

ニヤリと歯を見せる。シュウにはその顔が恐ろしくてたまらない。


「チェキチェキチェキチェキチェキチェキチェキ!」

「さあ、第三戦開始だ!」

シュウの前に五枚のカードが配られる。

だが、その手が竦んでカードを手に取ることが出来ない。

「……」

「シュウ、どうしたの!?」

「もう……ダメなんじゃないかなって」

「はぁ!?」

「やっぱりぼくじゃダメな感じするんで、ユアさんやってくれませんかね?」

「何を腑抜けたこと言ってんの!?」

「いやぁ、ダメそうなんで」

完全に臆病風に吹かれたシュウ。

そんな彼に、ユアはこんな言葉を投げかける。

「四つのエレメンターの力を操る英雄になるんじゃないの!?」

「――!」

英雄。その言葉にシュウははっとする。

(そうだ――英雄……!)

シュウの脳裏に希望の光、未来の夢が広がる。

(今やらねば、えらい仕事だ……!)

――そして、一か八かの手に出る。

「さあシュウくん。手札を見たまえ」

(……やるしか、ないですな!)

「シュウくん?」

「このままでいい、です」

「な――」

「え――」

「チェキー!?」

全員驚愕。

「きみ……勝負を捨てたのか!?」

「無論。捨ててない。ぼくは勝つつもりですわ」

「――――!」

声にならない激憤。

「考え直した方がいいぞ、シュウくん」

「いえ、このままで」

「………………!」

頭を抱え横に振るトゥクマ。

(昔読んだ漫画では、圧倒的不利をこれで巻き返していた……ぼくは英雄になる男なんだ……これしきのこと……!)

「いいだろう。だがオレは手加減しない。三枚チェンジだッ!」

「チェ、キ!」

交換後の手札を見てニヤリ笑うトゥクマ。

「ラストチャンスだ。本当にその手札のままでいいんだな!?」

「いいです!」

「ならば勝負だッ!オープンッ!」


お互いの手札が同時に開かれる。

トゥクマの手札。

ダイヤのA。ダイヤの3。ダイヤの5。ダイヤの7。ダイヤのK。ダイヤのフラッシュだ。

そして、問題のシュウの手札。

――クローバーのJ。スペードのJ。ハートのJ。ダイヤのJ。そして、JOKER。

ファイブカードだ。

思わず立ち上がるトゥクマ。声を荒げる。

「ば……ばかな!ハッタリをかました上、ファイブカードを揃えたダト……!?」

「奇跡――」

無意識のうちにその言葉を零すユア。

そしてシュウはフッと笑む。

「どうやら切り札は、ぼくだけのようですわ」


手札を宙に投げたシュウ。

空に舞うカード。

開いたままのその手に、切り札(JOKER)がふわり舞い降りた。



(――――決まった――――)

心地よい快感にシュウは身が浮くようであった。


【続く】

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