第15話:赤き兎の不器用なアプローチ
古田の通訳によって、ベッドの上の戦乙女が「エリカ・アーケンハイム」という名であること、そして俺たちに敵意がないことがどうにか伝わった。緊迫していた野営テント内の空気が、ふっと緩んだその時だった。
「……おい、降太」
背後から、ガシッと強い力で肩を掴まれた。振り返ると、そこには顔を微かに赤くした赤城烈兎が、ソワソワとした様子で立っていた。
「なんだよ赤城、急に」 「いや、その……なんだ。あの金髪碧眼のお姉さん、言葉は通じねえけど……なんか、めちゃくちゃ綺麗っていうか、お淑やかというか……その、ぶっちゃけストライクなんだけど。今度、この近くで可愛い花でも摘んできて、プレゼントしてみようかな……」
赤城はテントの隅で横たわるエリカをチラチラと盗み見ながら、真面目な顔でそんなことを呟いている。櫻子先輩やなのはさんといった、アクの強すぎる身近な女性陣に囲まれてきたせいで、エリカの高潔で儚げな「騎士様オーラ」が新鮮に映ってしまったらしい。
その不器用で分かりやすい様子を、少し離れた席から見ていた櫻子先輩となのはさんは、クスッと小さく笑い声を上げた。
「あらあら、赤城くんったら。さっきまで魔物と血みどろで戦っていた女騎士相手に、もうそんな下心を抱いているの? 本当に男の子って単純ねぇ」
櫻子先輩はどこか楽しそうに、獲物を観察するような冷ややかな視線を赤城に投げかける。
「ねえ、古田くん。赤城くん、言葉が通じないのをいいことにロマンチックな計画を立ててるみたいだけど、エリカさんに花をあげたらなんて言われるか、ちょっと先に翻訳して聞いてみてよ」
なのはさんも薬草をすり潰しながらクスクスと笑い、俺の袖を軽く引っ張って同意を求めてくる。二人の関心は、赤城くんの恋路を面白がる方向へと向いているようだ。
「お前らなぁ! 人が真面目に国際交流しようとしてるのに茶化すんじゃねえよ!」
赤城が真っ赤になって怒るが、櫻子先輩となのはさんは「はいはい」と生暖かい目で見守る。
当のエリカは、突然始まった身内同士の賑やかなやり取りを不思議そうに見つめながら、
「……あの赤髪の戦士は、なぜあのように顔を真っ赤にしているのだ? 体調でも悪いのか?」
と、俺に視線で問いかけてくるのだった。
「いや、なんでもないです。ちょっと、馬鹿なことを考えてのぼせているだけだから、気にしないでください」
俺がそう異世界語で通訳すると、赤城は「おい降太! 今絶対ろくでもねえ通訳したろ!」と掴みかかってきた。遠征先の過酷な環境のはずなのに、ボランティア部の空気はいつも通りカオスなままだ。俺の胃がキリキリと痛む中、遠征隊の夜は更けていく。




